《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

8-4.エルフの治療

 石造りの大部屋には、長椅子が並べられていた。


 そのイスの向かう先には石台が置かれてあった。その石台に薪を置いて、オレは腰かけることにした。 


 仮に信者が集まるとしたら、その長椅子に座ってオレのほうを見てくることになるだろう。
 想像するだけで、なんだか落ち着かない。尻のあたりがムズムズするような、そんな感覚におそわれる。
 もっとも、尻なんてないけれど。


「なかなか良い出来栄えです」
 と、ディーネは教会の出来栄えを堪能するかのように、あたりを見渡してそう言った。


「あ、あの、私もここを使わせていただいて、よろしいのでしょうか?」


 プロメテが不安気に、ディーネにそう尋ねていた。


「ええ。もちろん。プロメテちゃんは、魔神さまを召喚した魔術師ですからね。《紅蓮教》にとっては、プロメテちゃんも必要です」


「《紅蓮教》?」


「ええ。あなたがたは《紅蓮教団》と名乗っているのでしょう。でしたら《紅蓮教》という名になるかと思ったのですが、いかがでしょうか?」


「いかがでしょうか、魔神さま」
 と、プロメテが尋ねてきた。
「良いんじゃないかな」
 べつに名に拘りはない。


《紅蓮党》の名を継いでいることもあって、レイアにも不服はないとのことだった。


「なら《紅蓮教》に決まりですね」


 ディーネはそう言うと、プロメテのことを抱き寄せていた。


 どうもディーネはプロメテのことをいたく気に入っているようで、すぐに愛玩動物のようにナでまわしている。
 そうされるとプロメテも、照れ臭そうなうれしそうな顔になる。見ていて微笑ましい光景だった。


 オレだって――。
 プロメテの頭をいちどはナでてみたいと思うのだが、いかんせん、この手では触れることすら叶わない。


 怪しいヤツかとも思ってたが、チツとは見直したぜ――と、レイアが言った。


「いまのところ礼拝堂と司祭室と鐘楼だけは立てていますから、ご自由にお使いください。さきほども言いましたが、いずれは修道院にする予定です」


「修道院ということは、さらに規模を大きくする予定ということか」


「信者が集まりしだいというところですね。魔神さまのもとには、すぐに集まるでしょうがね」


「どうだかな」
 と、オレは曖昧に応じた。


 人々から崇められるような崇高な存在でいられる自信は、あまりないのだ。
 こんなカラダをしているが、もともとは人間である。


「この教会は、いろんな意味で、今後大きな役目をはたしてくれるはずです」


 何か予定でもあるのか、確信を秘めた表情でディーネはそう言った。
 おっ、さっそく、入信者が来たようです――と、ディーネが言った。


「ん?」


 教会の入口には、ふたつの人影があった。それはさきほど、プロメテが追いかけて、そして小石を投げてきた2人のエルフだった。


「なんだ、てめェら。まだ何かやるつもりか」
 と、レイアがケンカ腰で出迎えた。


 怖がらせちゃダメなのです――と、プロメテが注意をした。


「けどよ……」


「来てくださったのですね。暗闇症候群なら、魔神さまが治すと言ってくださっているのですよ」 と、プロメテがふたりのエルフを引きいれた。


 さきほど小石を投げてきた相手である。
 プロメテには、他人を憎むという感覚がないのだろうか。プロメテの心の清らかさというか、その献身的な態度にはつくづく驚かされる。


「ホントに?」
 と、エルフのひとりがそう口を開いた。


「ホントウなのです。魔神さまは偉大な御方なのですよ。これまでも何人も治してくださっているのですから」


「治してくれるって言ってたから、付いて来た。同じエルフで、私の妹なんだけど、暗闇症候群で、もう《崇夜者》になりかけてて」


「じゃあ、こちらに来てください。魔神さまにお願いするのですよ」


 その2人のエルフを、プロメテはオレの前に連れてきたのだった。


 健全なほうが姉。
 暗闇症候群におかされているほうが妹だということだった。


 さっきプロメテに向かって小石を投げておいて、ずいぶんと虫の良い話だとは思った。が、オレもプロメテの意向に逆らうつもりはない。


 それにディーネはわざわざ、オレのために教会まで用意してくれていたのだ。都市にいる暗闇症候群の治療を目的としているのならば、この治療はディーネの望みでもある。


「いいだろう。その者をオレの前に」
 と、呼びかけた。


 姉エルフが、暗闇症候群に侵されている妹エルフの手を引いて、オレの前に座らせた。


 フードが脱がされると、その者の異形さがよくわかった。全身から黒いケムリが発せられているかのようだった。
 目だけは真っ赤に充血して、オレのほうを睨むようにしていた。まるで黒い鬼だ。


 妹エルフは苦しむように前かがみになった。


「ヴォォォォッ」
 と、奇怪な声をあげると、妹エルフの耳のあたりから黒々とした腕が生えてきた。
 その腕は獲物を見つけた蛇のような勢いで、オレにつかみかかってきた。


 が、その腕はオレの手前でピタリと停止した。


 その腕には悪意があるようだった。このオレを敵だと認識しているようだ。が、オレの明かりに触れることが出来ないようだった。


「す、すみません。症状がおさえられなくなると、たまにこうなってしまって」


 姉エルフは、妹エルフに抱きついて、必死に呼びかけていた。


 咄嗟のことで、レイアは剣を抜いていた。


「構わん。すぐに治す」


 オレは息を吹きかけた。
 魔神の息吹を受けた妹エルフのカラダは、まるで皮が剥がれていくかのように、その黒い影が剥がれ落ちていった。


 覆われた影の中から出てきたのは、姉と同じくブロンドの神にアサギ色の目をしたエルフだった。耳がツンと尖っているのも同じだ。


「ほ、ホントウに治った……」
 と、姉エルフは目を見開いていた。


 妹エルフのほうは、何がなんだかわからないようだった。


「魔神さまは偉大なのですよ」
 と、プロメテが言う。


「すみません。さっきは小石を投げてしまって。魔術師って、神を怒らせた、悪い人だと思ってたから」
 と、姉エルフは、プロメテに頭を下げていた。 

「いいのですよ。ああいうことは、私は慣れっこなのです。それよりもチャント魔神さまに感謝して欲しいのですよ。その病を治したのは私でなくて、魔神さまなのです」


「そ、そうでした」


 姉エルフはオレのほうに向きなおると、頭を下げてきた。


「ふむ」
 と、オレは面映ゆい気持ちで、うなずいておくことにした。


「私、難民街のみんなにも伝えておきますから。魔術師さんと魔神さまに、暗闇症候群を治していただいた――って。魔術師もそんなに悪い人じゃないって」
 と、姉エルフが言った。


「いや、そんな別に……」
 と、プロメテは、その青白いとすら言える頬に朱がさしこんでいた。照れているのかもしれない。


 姉妹エルフは、プロメテに平謝りして、教会を後にしたのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品