《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
8-4.エルフの治療
石造りの大部屋には、長椅子が並べられていた。
そのイスの向かう先には石台が置かれてあった。その石台に薪を置いて、オレは腰かけることにした。
仮に信者が集まるとしたら、その長椅子に座ってオレのほうを見てくることになるだろう。
想像するだけで、なんだか落ち着かない。尻のあたりがムズムズするような、そんな感覚におそわれる。
もっとも、尻なんてないけれど。
「なかなか良い出来栄えです」
と、ディーネは教会の出来栄えを堪能するかのように、あたりを見渡してそう言った。
「あ、あの、私もここを使わせていただいて、よろしいのでしょうか?」
プロメテが不安気に、ディーネにそう尋ねていた。
「ええ。もちろん。プロメテちゃんは、魔神さまを召喚した魔術師ですからね。《紅蓮教》にとっては、プロメテちゃんも必要です」
「《紅蓮教》?」
「ええ。あなたがたは《紅蓮教団》と名乗っているのでしょう。でしたら《紅蓮教》という名になるかと思ったのですが、いかがでしょうか?」
「いかがでしょうか、魔神さま」
と、プロメテが尋ねてきた。
「良いんじゃないかな」
べつに名に拘りはない。
《紅蓮党》の名を継いでいることもあって、レイアにも不服はないとのことだった。
「なら《紅蓮教》に決まりですね」
ディーネはそう言うと、プロメテのことを抱き寄せていた。
どうもディーネはプロメテのことをいたく気に入っているようで、すぐに愛玩動物のようにナでまわしている。
そうされるとプロメテも、照れ臭そうなうれしそうな顔になる。見ていて微笑ましい光景だった。
オレだって――。
プロメテの頭をいちどはナでてみたいと思うのだが、いかんせん、この手では触れることすら叶わない。
怪しいヤツかとも思ってたが、チツとは見直したぜ――と、レイアが言った。
「いまのところ礼拝堂と司祭室と鐘楼だけは立てていますから、ご自由にお使いください。さきほども言いましたが、いずれは修道院にする予定です」
「修道院ということは、さらに規模を大きくする予定ということか」
「信者が集まりしだいというところですね。魔神さまのもとには、すぐに集まるでしょうがね」
「どうだかな」
と、オレは曖昧に応じた。
人々から崇められるような崇高な存在でいられる自信は、あまりないのだ。
こんなカラダをしているが、もともとは人間である。
「この教会は、いろんな意味で、今後大きな役目をはたしてくれるはずです」
何か予定でもあるのか、確信を秘めた表情でディーネはそう言った。
おっ、さっそく、入信者が来たようです――と、ディーネが言った。
「ん?」
教会の入口には、ふたつの人影があった。それはさきほど、プロメテが追いかけて、そして小石を投げてきた2人のエルフだった。
「なんだ、てめェら。まだ何かやるつもりか」
と、レイアがケンカ腰で出迎えた。
怖がらせちゃダメなのです――と、プロメテが注意をした。
「けどよ……」
「来てくださったのですね。暗闇症候群なら、魔神さまが治すと言ってくださっているのですよ」 と、プロメテがふたりのエルフを引きいれた。
さきほど小石を投げてきた相手である。
プロメテには、他人を憎むという感覚がないのだろうか。プロメテの心の清らかさというか、その献身的な態度にはつくづく驚かされる。
「ホントに?」
と、エルフのひとりがそう口を開いた。
「ホントウなのです。魔神さまは偉大な御方なのですよ。これまでも何人も治してくださっているのですから」
「治してくれるって言ってたから、付いて来た。同じエルフで、私の妹なんだけど、暗闇症候群で、もう《崇夜者》になりかけてて」
「じゃあ、こちらに来てください。魔神さまにお願いするのですよ」
その2人のエルフを、プロメテはオレの前に連れてきたのだった。
健全なほうが姉。
暗闇症候群におかされているほうが妹だということだった。
さっきプロメテに向かって小石を投げておいて、ずいぶんと虫の良い話だとは思った。が、オレもプロメテの意向に逆らうつもりはない。
それにディーネはわざわざ、オレのために教会まで用意してくれていたのだ。都市にいる暗闇症候群の治療を目的としているのならば、この治療はディーネの望みでもある。
「いいだろう。その者をオレの前に」
と、呼びかけた。
姉エルフが、暗闇症候群に侵されている妹エルフの手を引いて、オレの前に座らせた。
フードが脱がされると、その者の異形さがよくわかった。全身から黒いケムリが発せられているかのようだった。
目だけは真っ赤に充血して、オレのほうを睨むようにしていた。まるで黒い鬼だ。
妹エルフは苦しむように前かがみになった。
「ヴォォォォッ」
と、奇怪な声をあげると、妹エルフの耳のあたりから黒々とした腕が生えてきた。
その腕は獲物を見つけた蛇のような勢いで、オレにつかみかかってきた。
が、その腕はオレの手前でピタリと停止した。
その腕には悪意があるようだった。このオレを敵だと認識しているようだ。が、オレの明かりに触れることが出来ないようだった。
「す、すみません。症状がおさえられなくなると、たまにこうなってしまって」
姉エルフは、妹エルフに抱きついて、必死に呼びかけていた。
咄嗟のことで、レイアは剣を抜いていた。
「構わん。すぐに治す」
オレは息を吹きかけた。
魔神の息吹を受けた妹エルフのカラダは、まるで皮が剥がれていくかのように、その黒い影が剥がれ落ちていった。
覆われた影の中から出てきたのは、姉と同じくブロンドの神にアサギ色の目をしたエルフだった。耳がツンと尖っているのも同じだ。
「ほ、ホントウに治った……」
と、姉エルフは目を見開いていた。
妹エルフのほうは、何がなんだかわからないようだった。
「魔神さまは偉大なのですよ」
と、プロメテが言う。
「すみません。さっきは小石を投げてしまって。魔術師って、神を怒らせた、悪い人だと思ってたから」
と、姉エルフは、プロメテに頭を下げていた。
「いいのですよ。ああいうことは、私は慣れっこなのです。それよりもチャント魔神さまに感謝して欲しいのですよ。その病を治したのは私でなくて、魔神さまなのです」
「そ、そうでした」
姉エルフはオレのほうに向きなおると、頭を下げてきた。
「ふむ」
と、オレは面映ゆい気持ちで、うなずいておくことにした。
「私、難民街のみんなにも伝えておきますから。魔術師さんと魔神さまに、暗闇症候群を治していただいた――って。魔術師もそんなに悪い人じゃないって」
と、姉エルフが言った。
「いや、そんな別に……」
と、プロメテは、その青白いとすら言える頬に朱がさしこんでいた。照れているのかもしれない。
姉妹エルフは、プロメテに平謝りして、教会を後にしたのだった。
そのイスの向かう先には石台が置かれてあった。その石台に薪を置いて、オレは腰かけることにした。
仮に信者が集まるとしたら、その長椅子に座ってオレのほうを見てくることになるだろう。
想像するだけで、なんだか落ち着かない。尻のあたりがムズムズするような、そんな感覚におそわれる。
もっとも、尻なんてないけれど。
「なかなか良い出来栄えです」
と、ディーネは教会の出来栄えを堪能するかのように、あたりを見渡してそう言った。
「あ、あの、私もここを使わせていただいて、よろしいのでしょうか?」
プロメテが不安気に、ディーネにそう尋ねていた。
「ええ。もちろん。プロメテちゃんは、魔神さまを召喚した魔術師ですからね。《紅蓮教》にとっては、プロメテちゃんも必要です」
「《紅蓮教》?」
「ええ。あなたがたは《紅蓮教団》と名乗っているのでしょう。でしたら《紅蓮教》という名になるかと思ったのですが、いかがでしょうか?」
「いかがでしょうか、魔神さま」
と、プロメテが尋ねてきた。
「良いんじゃないかな」
べつに名に拘りはない。
《紅蓮党》の名を継いでいることもあって、レイアにも不服はないとのことだった。
「なら《紅蓮教》に決まりですね」
ディーネはそう言うと、プロメテのことを抱き寄せていた。
どうもディーネはプロメテのことをいたく気に入っているようで、すぐに愛玩動物のようにナでまわしている。
そうされるとプロメテも、照れ臭そうなうれしそうな顔になる。見ていて微笑ましい光景だった。
オレだって――。
プロメテの頭をいちどはナでてみたいと思うのだが、いかんせん、この手では触れることすら叶わない。
怪しいヤツかとも思ってたが、チツとは見直したぜ――と、レイアが言った。
「いまのところ礼拝堂と司祭室と鐘楼だけは立てていますから、ご自由にお使いください。さきほども言いましたが、いずれは修道院にする予定です」
「修道院ということは、さらに規模を大きくする予定ということか」
「信者が集まりしだいというところですね。魔神さまのもとには、すぐに集まるでしょうがね」
「どうだかな」
と、オレは曖昧に応じた。
人々から崇められるような崇高な存在でいられる自信は、あまりないのだ。
こんなカラダをしているが、もともとは人間である。
「この教会は、いろんな意味で、今後大きな役目をはたしてくれるはずです」
何か予定でもあるのか、確信を秘めた表情でディーネはそう言った。
おっ、さっそく、入信者が来たようです――と、ディーネが言った。
「ん?」
教会の入口には、ふたつの人影があった。それはさきほど、プロメテが追いかけて、そして小石を投げてきた2人のエルフだった。
「なんだ、てめェら。まだ何かやるつもりか」
と、レイアがケンカ腰で出迎えた。
怖がらせちゃダメなのです――と、プロメテが注意をした。
「けどよ……」
「来てくださったのですね。暗闇症候群なら、魔神さまが治すと言ってくださっているのですよ」 と、プロメテがふたりのエルフを引きいれた。
さきほど小石を投げてきた相手である。
プロメテには、他人を憎むという感覚がないのだろうか。プロメテの心の清らかさというか、その献身的な態度にはつくづく驚かされる。
「ホントに?」
と、エルフのひとりがそう口を開いた。
「ホントウなのです。魔神さまは偉大な御方なのですよ。これまでも何人も治してくださっているのですから」
「治してくれるって言ってたから、付いて来た。同じエルフで、私の妹なんだけど、暗闇症候群で、もう《崇夜者》になりかけてて」
「じゃあ、こちらに来てください。魔神さまにお願いするのですよ」
その2人のエルフを、プロメテはオレの前に連れてきたのだった。
健全なほうが姉。
暗闇症候群におかされているほうが妹だということだった。
さっきプロメテに向かって小石を投げておいて、ずいぶんと虫の良い話だとは思った。が、オレもプロメテの意向に逆らうつもりはない。
それにディーネはわざわざ、オレのために教会まで用意してくれていたのだ。都市にいる暗闇症候群の治療を目的としているのならば、この治療はディーネの望みでもある。
「いいだろう。その者をオレの前に」
と、呼びかけた。
姉エルフが、暗闇症候群に侵されている妹エルフの手を引いて、オレの前に座らせた。
フードが脱がされると、その者の異形さがよくわかった。全身から黒いケムリが発せられているかのようだった。
目だけは真っ赤に充血して、オレのほうを睨むようにしていた。まるで黒い鬼だ。
妹エルフは苦しむように前かがみになった。
「ヴォォォォッ」
と、奇怪な声をあげると、妹エルフの耳のあたりから黒々とした腕が生えてきた。
その腕は獲物を見つけた蛇のような勢いで、オレにつかみかかってきた。
が、その腕はオレの手前でピタリと停止した。
その腕には悪意があるようだった。このオレを敵だと認識しているようだ。が、オレの明かりに触れることが出来ないようだった。
「す、すみません。症状がおさえられなくなると、たまにこうなってしまって」
姉エルフは、妹エルフに抱きついて、必死に呼びかけていた。
咄嗟のことで、レイアは剣を抜いていた。
「構わん。すぐに治す」
オレは息を吹きかけた。
魔神の息吹を受けた妹エルフのカラダは、まるで皮が剥がれていくかのように、その黒い影が剥がれ落ちていった。
覆われた影の中から出てきたのは、姉と同じくブロンドの神にアサギ色の目をしたエルフだった。耳がツンと尖っているのも同じだ。
「ほ、ホントウに治った……」
と、姉エルフは目を見開いていた。
妹エルフのほうは、何がなんだかわからないようだった。
「魔神さまは偉大なのですよ」
と、プロメテが言う。
「すみません。さっきは小石を投げてしまって。魔術師って、神を怒らせた、悪い人だと思ってたから」
と、姉エルフは、プロメテに頭を下げていた。
「いいのですよ。ああいうことは、私は慣れっこなのです。それよりもチャント魔神さまに感謝して欲しいのですよ。その病を治したのは私でなくて、魔神さまなのです」
「そ、そうでした」
姉エルフはオレのほうに向きなおると、頭を下げてきた。
「ふむ」
と、オレは面映ゆい気持ちで、うなずいておくことにした。
「私、難民街のみんなにも伝えておきますから。魔術師さんと魔神さまに、暗闇症候群を治していただいた――って。魔術師もそんなに悪い人じゃないって」
と、姉エルフが言った。
「いや、そんな別に……」
と、プロメテは、その青白いとすら言える頬に朱がさしこんでいた。照れているのかもしれない。
姉妹エルフは、プロメテに平謝りして、教会を後にしたのだった。
コメント