《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

8-3.いずれは修道院に

 ディーネは都市の大通りを歩いていた。


「さっきの難民街ってのは、なんだったのだ?」 と、オレはディーネに問いかけた。


 人でない者が多かった。
 そういう印象を受けた。


「難民街のことを知っていただくためには、まずはソマ帝国のことを知ってもらわなくてはなりません。魔神さまはソマ帝国のことをご存知ですか?」


「いや。オレはこの世界の知識に乏しいんだ」


 魔神のくせに、そんなことも知らないのかと幻滅されるかとも心配したが、杞憂だったようで、ディーネは素直に教えてくれた。


「このオルフェスという世界において、もっとも大きな帝国です。そして《光神教》を国教として定めて、他の宗教の信仰を許していない」


「排他主義というヤツか」


 歩きながら、ヤリトリをする。
 もっともオレはプロメテに揺られているだけなのだが。


「かなり苛烈な、異教徒狩りを行っているとも聞いております」


「それは怖ろしい」
 と、オレは身をすくめた。


 弾圧。異端審問。そして魔女狩り。
 宗教の歴史についてまわる、凄惨きわまる問題だ。


「さすが魔神さま。異教徒狩りに恐ろしさが理解できますか」


「そりゃな」


 自分の信じている神を、他人からの暴力によって捨てさせられるのだ。そのためには、あらゆる拷問が行われることになる。
 それは地球の歴史においても行われてきたことであり、この世界でも同じなのだろう。


「あの難民街にいる連中は、そんなソマ帝国の暴挙から逃げてきた者たちなのですよ。エルフや蜥蜴族には、おのおのの信奉する神がいる。しかしソマ帝国は、それを許しはしなかった」


 ディーネは難民街のほうを振り返ってそう言った。


 レイアと違って、ディーネの顔には凄みがない。そういう意味では、レイアの言葉を借りて言うならば、お嬢さまなのかもしれない。


 が、その青い目の奥には、何か油断ならない光が隠されているのを、オレは感じていた。


「ディーネは、そういった者たちをかくまっているのか?」


「ええ。都市にとって良いことなのか悪いことなのか。そう考えたときには、悪いことになるんでしょうがね」


「寛大ということか」


「さあ。どうでしょうか」
 と、ディーネは、はぐらかすようなことを言った。
 領主として何か思惑があるのかもしれない。


 信用はできると思うのだが、いまひとつ底が見えない。


「それでオレたちのことも、受け入れてくれたというわけか」


 いえいえ、とディーネはあわてたように両手を振っていた。


「魔神さまは別ですよ。魔神さまのことは受け入れたのではなく、お招きさせていただいたのですからね。魔神さまのチカラは、必ずやこの世界に変革をもたらすものになる。私はそう見込んでいます」


「期待に沿えるように努力するよ」
 と、オレは返しておいた。


 プレッシャーである。


「暗闇症候群におかされていたエルフがいたのですよ」
 と、プロメテが言う。


「ええ。国を追われて逃げてくるさいに、やられた者も多いようですね。あの者たちの病も、魔神さまに治していただきたい。私はそう考えていますよ」


「私も、あのエルフさんたちの暗闇症候群を治してあげたかったのです。ですが、許してはくれませんでした」
 と、プロメテはうつむいた。


 プロメテがうつむくと、その表情がオレのところからよく見える。泣くのを我慢しているような顔をしていた。
 これまで何度も見てきた表情だ。


「そう悲観することはありません。気持ちは伝わっているはずですよ」


 おい、どこまで行くつもりなんだ――とレイアが尋ねた。


「もう到着しました」
 と、ディーネは足を止めた。


 そこには都市の中だというのに、だだっ広い更地になっていた。


 更地のなかにはポツンと石造りの建造物が建てられていた。どことなく、オレが最初に召喚された教会に造りが似ていた。


「ここは?」


「事前に用意させていただいていたのです。魔神さま。あなたを祀るための教会です。魔神さまのウワサを耳にしてから、大急ぎで建立させました」


「オレを祀るための――教会だと?」


「まだまだ簡素なものですがね。いずれは修道院にしようと考えていますが、そこまでは建設が間に合いませんでした。とりあえず教会だけ急いで建立させたので、更地にポツンという寂しい感じになってしまいました」


 ふふっ、とディーネは、口もとに手を当てて笑っていた。


 たしかにディーネの言うように、凝った装飾などはなく、簡素な建物ではあった。
 が、教会のとなりには鐘楼も建てられていたし、なによりオレを祀るための教会ということが驚きである。


「いや。本気で言ってるのか? オレを祀るための教会だと?」


「ええ」


「オレを見つけられるという保証はなかっただろう」


 大量の軍を動かして、オレを探していたほどだから、よほどチカラを注いで、オレのことを探していたのだろう。
 だが、オレたちがそのディーネの捜索網に、ゼッタイにかかるという保証はなかった。


 なのに、事前に教会を立てていたと言うのは、チョット信じられないことだった。


 オレがこちらに召喚されてから、そんな日数も経過していない。


「魔神アラストルさまを、私が見つけ出すことが出来たのは僥倖でした。ですが、見つけられなくとも、教会があればあなたを信仰する意思がある――という思いは伝わるでしょう。この教会の建立は、魔神さまを受け入れるという私の意思でもあるのですよ」


「そりゃまぁ……」


「何か不服ですか?」


「逆だ。どうしてここまでしてくれるのかと思ってな。ロードリとはずいぶんと態度が違う」


 はははっ……と、ディーネは仰け反って笑った。
 その笑い方もなんだか演劇めいていた。


「ロードリにはわかっていないのでしょう。魔神さまの存在は、それだけの価値があるということです。むしろ、この程度のサービスしか受けられないことに、不服をおぼえているかと思ったのですが、満足していただけたなら急いで建立させたカイがあるというものです」


 オレを満足させたことが嬉しかったのか、ディーネは得意気につけヒゲをつまんでいた。


「はあ」
 と、オレは嘆息を漏らした。


 驚かされた。その一言である。
 プロメテも唖然とした様子で、教会のことを見あげていた。


「立ち話もなんですから。ささ。中へ」
 と、ディーネは入って行く。

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