《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

8-2.難民街

「待ってくださいなのです」
 と、プロメテは追いかけたが、エルフたちは足をゆるめる様子はなかった。
 むしろ、プロメテから逃げている様子だった。


 プロメテは傘をさしているうえに、オレのことを運んでくれている。そのうえ、ここの土地勘がない。


 追いつけそうになかった。


 エルフたちを追っていると、都市の様子が変わった。


 石造りの立派な建物がつづいていたはずなのだが、木造のあばら家の寄せ集めのような景色となっていた。


 ここは……と、その異変に気付いたようでプロメテは、あたりを見回していた。


「偶然にも、難民街に入りこんじまったみたいだぜ」
 と、レイアが親指で後ろを指した。


 そこには「難民街」と書かれた木札が建てられていた。むろんその文字にも《輝光石》が使われているようで、アサギ色の輝きを帯びていた。


「さきほどのエルフたちを見失ってしまったのです」


「セッカクだ。難民街とやらを見てまわるか。見たところ、こりゃ難民街って言うよりも、貧民街みたいだな」


「ダメなのですよ。ディーネさんは入っちゃダメだと言っていたのですから」
 と、プロメテはレイアの服を引っ張って、連れ出そうとした。


「わーったよ」
 と、大人しく引かれていた。


 プロメテのチカラに引かれるほどヤワなレイアではないが、プロメテの意見を尊重しようと思ったのだろう。


 が――。
 不意にレイアがその足を止めた。


「どうかしたのです?」


「しっ」
 と、レイアは短く呼気を発した。
 空気が静まりかえっていた。オレもなにか奇妙な感覚をうけた。


『おうおう。てめェが、オルフェス最後の魔術師ってヤツか』


『ずいぶんと良い物を持ってるみたいじゃねェか』


『こっちによこしてもらおうか』


 あばら屋の物陰からぞくぞくと、人が姿を現した。


 人? ――否。よくよく見ると、人でない者もまじっている。たとえば二足歩行のトカゲに、頭から犬耳やらネコ耳を生やしている者。その群衆のなかには、プロメテが追いかけていたエルフの姿もあった。


「こいつらは?」


「蜥蜴族に獣人族。それにエルフたちだな。どうやらあんまり歓迎されちゃいないみたいだ」
 と、レイアが、オレとプロメテを守るように前に出た。


『私たちは、てめェのせいで酷い目に遭ったんだ』


『そうだ。そうだ。魔術師なんか死んじまえば良いんだ』
 と、小石を投げつけられた。


 投げられた小石のいくつかは、レイアが叩き落としたけれど、すべてを弾くことは出来なかった。


 そのうちの1つがプロメテの頭部に当たっていた。


「おい、大丈夫か」
 と、オレは身を案じた。


「チョット痛いですが、大丈夫なのですよ」
 とは言ったものの、プロメテは頭から血を流していた。


 しゃあねぇ、引き返すぞ――と、レイアが言った。


 隠れていたガリアンをはじめとする《紅蓮教団》も出てきてプロメテをかばうようにした。


 レイアたちは難民街から出て行こうとしたが、「チョット待って欲しいのです」
 と、プロメテはその場にとどまった。


 そして声を大きくしてつづけた。


「私はオルフェス最後の魔術師なのです。そしてこちらが、炎の魔神さまなのです」


 プロメテがそう言って、オレを見せつけるように前に突き出した。
 プロメテの言葉を受けたからか、オレのことを見ていたのかはわからないが、投げられていた小石がピタリとやんだ。


 おい、よせ――とレイアが口をはさんだ。
 けれどプロメテは決然とした様子で言葉をつづけた。


「たしかに私のご先祖さまは悪いことをしてしまったのかもしれません。天界より魔法を盗み出してしまったのです。私は悪い人かもしれません。ですので、まずは謝らせていただくのです」


 ペコリ、と頭を下げた。
 さらにプロメテは面をあげてつづける。


「ですが、こちらにいらっしゃる魔神さまは悪い御方ではないのです。魔神さまは、暗闇症候群を治してくださるのですよ。さっきのエルフさんはいらっしゃいますか? エルフさんの暗闇症候群を、魔神さまは治してくださるのですよ」
 と、訴えていた。


 プロメテが何を言っているのか、オレにはすぐに理解ができなかった。


 こうして他人から罵倒されてもなお、プロメテはさきほどのエルフのことを気にかけているのだった。


『うるせぇ』
 と、ふたたび罵倒の声があがった。


 ふたたび小石が投げられることになるかと思った。
 もしものときは、天使を倒したときのあのチカラを、オレが使う必要がある。


 そう考えていたのだが、不意に割り込む声があった。


「そこまでです。みなさま。どうか落ち着いてくださいませ」


 ディーネである。
 ディーネは、まるで舞台の幕をおろすかのように、深々と頭を下げた。
 見ようによってはフザケているようにすら見える言動である。装着しているヒゲが、ますます滑稽さを増していた。


 が――。
 プロメテに怒りをブツける獣人、蜥蜴人、エルフたちは、ピタリとおさまった。


『領主さまがそう言うなら』
『仕方ねぇ』
『帰るぞ』


 と、群衆はあばら屋の物陰へと姿を消して行った。そうしてひと気が完全になくなっていた。


 さすがは領主の威光とでも言うべきか。


「ディーネさん。助けてくださり、ありがとうなのです。それにしても、どうしてここにいるのです?」
 と、プロメテが尋ねた。


「私のお迎えした客人に何かあっては大変ですからね。いちおう見張らせていただいたのですよ」


「勝手に難民街に入ってしまって、ごめんなさいなのですよ」
 と、プロメテは頭を下げた。


 悪かったよ、とレイアもふて腐れた様子ではあったが、謝っていた。


「いえいえ。事の成り行きは見ていました。べつに謝ることはありません。感染したエルフを治療しようとしたのでしょう。プロメテちゃんのその心意気は、素晴らしいことだと思いますよ」


「ですが結局、何もできなかったのです」


「そんなことはありません。とにかく場所を移しましょうか。ここにいると、またトラブルに巻き込まれてしまうかもしれませんからね」


 ディーネはそう言うとハンカチを取り出して、プロメテの頭から流れている血を拭い取っていた。


 幸いなことに、たいしたケガではないとのことだった。


 当人のプロメテも、
「すこし傷が入っただけなのですよ」
 と、言っていた。


 まぁ、プロメテは重傷を負っても強がるであろうから、あまり当てには出来ない。


「ささ、こちらへ」
 と、先を行くディーネに付いて行くことにした。

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