《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
10-2ディーネの思い
「よしッ」
と、ディーネは声を漏らした。
やはり予想していた通り、クロイは人の気配に誘われているようだ。ディーネたちの移動する大隊について来た。
「やりましたね。これで都市への被害はおさえられますよ」
ディーネの出陣を必死に止めてきたタルルも、喜悦を声に出していた。
「ならば、このままクロイを誘導する」
鋭角の楔形陣形となって、その先頭をディーネは駆けた。
たいして勢いのない雨も、こうして馬に乗っていると、強く振られているような心地になる。
風が冷たい。
手綱をにぎる手が、かじかむ。
しかし自分が軍の先頭にいると思うと、内側から高揚してくるものがあった。
(ホントウは戦士になりたかったのですがね)
小さいころから、ディーネは戦士に憧れていた。戦場に立って、自国のために剣を振るう。そんな戦士になりたかった。
しかし両親に止められた。
「お前が戦士になりたいと言い出したときは、ヒヤヒヤしたものだ」
と、死に際に父が笑って言っていたから、よほど心配をかけたのだろうと思う。結局、戦士にはならなかった。
いや。
なれなかった。
剣を振るうよりも、ペンを持っているほうが自分に向いていることに気づいたのだ。
ディーネは剣が苦手なのだ。体力はあるつもりなのだが、いかんせん筋力が弱い。性別の影響もあるのだろう。
それでも性分的には戦士のほうが向いていたんじゃないか、と今でも思う。
だからこんなにも――。
(滾る)
のだろうと思う。
前線に出ている自分に胸が熱くなるのだ。またそんなディーネの性分を、ここの兵長たちはよく理解してくれている。
「いずれ、大きな戦がやって来ます」
と、ディーネは漏らした。
「え?」
と、タルルが意表をつかれたような声を発していた。
暗くて良くは見えないがきっと、驚いた顔をしていることだろう。
「そのときのために、戦の下ごしらえをしておく必要があります」
「戦って敵はどこです?」
「このオルフェスという世界の大半を牛耳っている大帝国ソマですよ」
「でも、このあたりはクロイが多いから、ソマ帝国が手を出してくることはないじゃないですか。こんなヘンピな小国を、わざわざ奪いに来るなんて考えられませんよ」
たしかに。このあたりは鉱山資源がとぼしいうえに、クロイの発生率が高い。
魔術師の住まう国だからという者もいるが、《輝光石》の採掘率が低いことが影響しているのだろう、とディーネは考えている。
戦って奪うような土地ではないのだ。
「ソマ帝国に理屈は通じませんよ。あの国の戦う理由は、神のもとにある」
「ほかの宗教を許さないって、あれですか?」
「排他主義は、他の宗教を厳しく取り締まるあまりに、他の宗教を生み出すことにもつながるのですがね」
「まぁ、抑圧するチカラが厳しいと反発するのが、人の性分ですからね」
少年の風貌をしたタルルが、まるで老いたる哲学人みたいなことを言ったので、チョット面白かった。
「そんな弾圧された者たちが、セパタ王国領に多く流れ込んで来ています」
エルフたちもそうだ。ほかにも獣人族や蜥蜴族といった者たちが、シェークスの都市に多く入り込んできている。
ディーネはそれを拒否せずに、受け入れている。
「伯爵さまが受け入れていますから」
「私が受け入れずとも、《光神教》の影響の薄いこの土地に、多くの難民たちが流れ込んで来ていますよ」
「ええ。まぁ」
「ソマ帝国が、そういう連中を見逃すとは思えません。国ごと叩きつぶしに来ることでしょう」
「難民たちを、ソマ帝国に差し出せば、戦は免れるのでありませんか?」
「私は、受け入れた者たちを、売るようなことはしませんよ」
「ですよね」
すみません、とタルルはあやまった。
「それにロードリ公爵の都市の聖火台に火が灯ったこともまた、ソマ帝国を逆なでするでしょうからね」
後ろ。
大隊はチャントついてきている。災厄級のクロイも一緒について来ている。
順調だ。
「戦争になりますか」
「なるでしょうね。多少は持ちこたえると言っても、セパタ王国領は簡単に潰されることでしょう。あるいは降伏勧告を受け入れることになるか。そしてさらに多くの者たちが、異教徒狩りに遭う」
「オレにはわかりません。ですが伯爵さまが、そうおっしゃるのであれば、そうなのかもしれませんね」
「そのときのため、チカラをたくわえておく必要があります。魔神さまの存在は、その大きな標となる」
セパタ王国が滅びても、この都市だけは譲るつもりはない。
そのとき、ディーネは王として立つ心構えでいる。
「《紅蓮教》とか名乗ってるんでしたっけ? 実際どうなんですか?」
「おや。タルルくんは、まだ教会に礼拝には行ってないんですか」
「まぁオレは、そんなに信心深くないんで」
「いずれ行ってみると良いかもしれませんね」
ソマ帝国が攻めかけてくる。
それは人々にとっては、喜ばしいことではないのだろう。
しかし戦のことを思うと、ディーネはそれもまた、
(滾る)
のである。
もしもソマ帝国が攻めて来ないのならば、こっちから攻めかけてやろうと思っているほどだ。
相手のほうから、攻める大義を掲げてくれるのならば、むしろ手間が省けて良い。
異教徒狩りが許せないとか、この世界を闇に閉ざした《光神教》が許せないとか、そういうことはディーネにとっては、些細なことだ。
戦が、好きなのだ。
そういう意味でも生まれながらの戦士なのだ。もしも剣の腕が良かったならば、傭兵にでもなっていたかもしれない。
人民は平穏を好むが、兵士は残忍な君主を求める。民と兵。両者のバランスを保てぬ王は、歴史において必ずと言って良いほど滅んでいる。
戦いを好むことも、王の器としては必要な要素だろう思う。
(とはいえ暴走は良くありませんね)
勝てぬ戦はよろしくない。
しかし負けるつもりもない。
魔神さまがいれば、勝てる。
そう踏んでいる。
火のチカラは、製鉄にもおおいに役立つのだ。失われた精錬、製鉄、鍛冶の技術を蘇らせることが出来れば、この都市はどこにも負けない強国となる。
否。
それだけにとどまらない。
失われた古代技術の復活にもつながるはずだ。
「おっと、とにかく今は――」
この災厄級のクロイに集中しなくてはならないな、と自分を律した。
と、ディーネは声を漏らした。
やはり予想していた通り、クロイは人の気配に誘われているようだ。ディーネたちの移動する大隊について来た。
「やりましたね。これで都市への被害はおさえられますよ」
ディーネの出陣を必死に止めてきたタルルも、喜悦を声に出していた。
「ならば、このままクロイを誘導する」
鋭角の楔形陣形となって、その先頭をディーネは駆けた。
たいして勢いのない雨も、こうして馬に乗っていると、強く振られているような心地になる。
風が冷たい。
手綱をにぎる手が、かじかむ。
しかし自分が軍の先頭にいると思うと、内側から高揚してくるものがあった。
(ホントウは戦士になりたかったのですがね)
小さいころから、ディーネは戦士に憧れていた。戦場に立って、自国のために剣を振るう。そんな戦士になりたかった。
しかし両親に止められた。
「お前が戦士になりたいと言い出したときは、ヒヤヒヤしたものだ」
と、死に際に父が笑って言っていたから、よほど心配をかけたのだろうと思う。結局、戦士にはならなかった。
いや。
なれなかった。
剣を振るうよりも、ペンを持っているほうが自分に向いていることに気づいたのだ。
ディーネは剣が苦手なのだ。体力はあるつもりなのだが、いかんせん筋力が弱い。性別の影響もあるのだろう。
それでも性分的には戦士のほうが向いていたんじゃないか、と今でも思う。
だからこんなにも――。
(滾る)
のだろうと思う。
前線に出ている自分に胸が熱くなるのだ。またそんなディーネの性分を、ここの兵長たちはよく理解してくれている。
「いずれ、大きな戦がやって来ます」
と、ディーネは漏らした。
「え?」
と、タルルが意表をつかれたような声を発していた。
暗くて良くは見えないがきっと、驚いた顔をしていることだろう。
「そのときのために、戦の下ごしらえをしておく必要があります」
「戦って敵はどこです?」
「このオルフェスという世界の大半を牛耳っている大帝国ソマですよ」
「でも、このあたりはクロイが多いから、ソマ帝国が手を出してくることはないじゃないですか。こんなヘンピな小国を、わざわざ奪いに来るなんて考えられませんよ」
たしかに。このあたりは鉱山資源がとぼしいうえに、クロイの発生率が高い。
魔術師の住まう国だからという者もいるが、《輝光石》の採掘率が低いことが影響しているのだろう、とディーネは考えている。
戦って奪うような土地ではないのだ。
「ソマ帝国に理屈は通じませんよ。あの国の戦う理由は、神のもとにある」
「ほかの宗教を許さないって、あれですか?」
「排他主義は、他の宗教を厳しく取り締まるあまりに、他の宗教を生み出すことにもつながるのですがね」
「まぁ、抑圧するチカラが厳しいと反発するのが、人の性分ですからね」
少年の風貌をしたタルルが、まるで老いたる哲学人みたいなことを言ったので、チョット面白かった。
「そんな弾圧された者たちが、セパタ王国領に多く流れ込んで来ています」
エルフたちもそうだ。ほかにも獣人族や蜥蜴族といった者たちが、シェークスの都市に多く入り込んできている。
ディーネはそれを拒否せずに、受け入れている。
「伯爵さまが受け入れていますから」
「私が受け入れずとも、《光神教》の影響の薄いこの土地に、多くの難民たちが流れ込んで来ていますよ」
「ええ。まぁ」
「ソマ帝国が、そういう連中を見逃すとは思えません。国ごと叩きつぶしに来ることでしょう」
「難民たちを、ソマ帝国に差し出せば、戦は免れるのでありませんか?」
「私は、受け入れた者たちを、売るようなことはしませんよ」
「ですよね」
すみません、とタルルはあやまった。
「それにロードリ公爵の都市の聖火台に火が灯ったこともまた、ソマ帝国を逆なでするでしょうからね」
後ろ。
大隊はチャントついてきている。災厄級のクロイも一緒について来ている。
順調だ。
「戦争になりますか」
「なるでしょうね。多少は持ちこたえると言っても、セパタ王国領は簡単に潰されることでしょう。あるいは降伏勧告を受け入れることになるか。そしてさらに多くの者たちが、異教徒狩りに遭う」
「オレにはわかりません。ですが伯爵さまが、そうおっしゃるのであれば、そうなのかもしれませんね」
「そのときのため、チカラをたくわえておく必要があります。魔神さまの存在は、その大きな標となる」
セパタ王国が滅びても、この都市だけは譲るつもりはない。
そのとき、ディーネは王として立つ心構えでいる。
「《紅蓮教》とか名乗ってるんでしたっけ? 実際どうなんですか?」
「おや。タルルくんは、まだ教会に礼拝には行ってないんですか」
「まぁオレは、そんなに信心深くないんで」
「いずれ行ってみると良いかもしれませんね」
ソマ帝国が攻めかけてくる。
それは人々にとっては、喜ばしいことではないのだろう。
しかし戦のことを思うと、ディーネはそれもまた、
(滾る)
のである。
もしもソマ帝国が攻めて来ないのならば、こっちから攻めかけてやろうと思っているほどだ。
相手のほうから、攻める大義を掲げてくれるのならば、むしろ手間が省けて良い。
異教徒狩りが許せないとか、この世界を闇に閉ざした《光神教》が許せないとか、そういうことはディーネにとっては、些細なことだ。
戦が、好きなのだ。
そういう意味でも生まれながらの戦士なのだ。もしも剣の腕が良かったならば、傭兵にでもなっていたかもしれない。
人民は平穏を好むが、兵士は残忍な君主を求める。民と兵。両者のバランスを保てぬ王は、歴史において必ずと言って良いほど滅んでいる。
戦いを好むことも、王の器としては必要な要素だろう思う。
(とはいえ暴走は良くありませんね)
勝てぬ戦はよろしくない。
しかし負けるつもりもない。
魔神さまがいれば、勝てる。
そう踏んでいる。
火のチカラは、製鉄にもおおいに役立つのだ。失われた精錬、製鉄、鍛冶の技術を蘇らせることが出来れば、この都市はどこにも負けない強国となる。
否。
それだけにとどまらない。
失われた古代技術の復活にもつながるはずだ。
「おっと、とにかく今は――」
この災厄級のクロイに集中しなくてはならないな、と自分を律した。
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