《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
9-2.黒狩人
「すぐに入れてくれ。巨大なクロイがいるんだ。みんなに知らせなくてはッ」
エイブラハングは、都市シェークスに訪れていた。
巨大なクロイが出た森から、すぐ近くに都市の明かり――正確に言うならば《輝光石》のきらめきが見えたために、こうして一直線に駆けてきたのである。
「落ちついてください。どうかされましたか?」 と、城門棟の門兵に宥められた。
「も、森に、クロイが出た」
息を切らしてエイブラハングはそう言った。
「いつものことでしょう」
「半端な大きさじゃない。災厄級のクロイだった」
「ふぅん」
と、門兵は疑わしげな目を、エイブラハングに向けてきた。
「ウソなんて言ってない!」
「見間違いということもありますので」
もしかして気が狂っているとでも思われているのかと心配になった。
たしかに、エイブラハングは半狂乱になって、ここまで逃げてきた。都市シェークスに災厄級クロイのことを知らせに来たと言うと聞こえは良いが、実際は恐怖に急かされて逃げてきただけである。
カラダも酷く泥で汚れており、不審者に思われても仕方がない身形となっていた。
「ホントウなんだ。私はエイブラハング。黒狩人だ」
と、懐にしまっていた証明石を見せた。
気が狂っていると思われては困るので、なるべく平静を装った。
「ほお。S級の――。それではあなたが、3人のうちの1人……」
と、門兵はエイブラハングの提示した証明石に顔を近づけて確認していた。
「ああ」
都市には城壁がめぐらされていて、出入りのためには城門棟を通る必要がある。
その城門棟には必ずと言って良いほど、門兵が配置されていた。不審者などの出入りを警戒しているのだ。
出入りの基準は都市によって違ってくる。商人や貴族がチカラの強い都市ならば、物資を念入りに調べられる。
戦争が近いなら、武器や人相を見られることにもなるだろうし、ソマ帝国の都市なんかは《光神教》に入信しているかを調べられることになる。
その点、黒狩人は便利だ。
黒狩人組合から、証明石が提供される。
証明石は、黒狩人である証明になって、各地の都市や橋の通行手形として機能する。上位ランクになるほど、細工の凝った証明石となる。
エイブラハングの証明石には、ドラゴンの模様が彫り込まれているであった。この石を持つ者は、関所の通行税なども免除してもらえる。
「感染はしていませんか?」
と、門兵がそう尋ねてきた。
「あ……ああ。問題ない」
と、エイブラハングはウソを吐いた。
どこに行くにしても、暗闇症候群の感染者の受け入れに関しては、厳しいものがあった。これは、重症化すると、理性を失い、人を襲うようになるせいだ。
エイブラハングの右足は、暗闇症候群の初期症状が見られた。が、まだ理性を失って人を襲うというほど症状はすすんでいない。
黙っていることにした。
「災厄級クロイの件は、領主のほうへ報告しておきます」
と、ようやっと門兵にも危機感がつたわったようで、すぐにあわただしくなっていた。
「ああ。よろしく頼む」
「中へどうぞ」
と、中へ入る許可札をもらうことが出来た。
(調べられなかったな)
と、思った。
かりに右足を調べられていれば、都市内へ入ることは拒否されていた。
S級黒狩人の肩書きが、門兵たちを信用させたのだろう。
(これからどうするか……)
恐怖に追われるがままに、都市に逃げてきたわけだが、行く当てはなかった。
とにかく黒狩人の組合へ行こうと決めた。こういう都市ならば、必ずその支部があるはずだった。
石畳の通路を行く。
雨は依然として降りつづけている。門兵たちは傘をさしていたが、エイブラハングは降られるがままに任せていた。
撥水性の良い黒いコートを着ているおかげで、雨を凌ぐ必要はない。それに身体は泥に酷く汚れていて、むしろ濡れたほうがカラダを清めることが出来る。
振り向くと、闇が広がっている。
暗闇症候群に感染してしまったこともあり、またあの災厄級のクロイの威圧感を思い出して、まるで暗闇に呑まれるような恐怖をおぼえた。
黒狩人組合の支部を見つけたので、そこに入った。
石造りの室内には、天井から《輝光石》がつるされていた。カウンターテーブルがあって、多くの黒狩人たちがいた。
「酒はあるか?」
と、受付の男にたずねた。
「《輝光石》は?」
「あるよ」
と、持っていた《輝光石》を差し出した。どこの国も《輝光石》を通貨にしていることが多い。
ブドウ酒が提供された。
いっきに流しこんだ。カラダがカッと熱くなった。かじかんでいた手足にも、血が巡るような心地がした。
しかしそれでも気分が晴れることはなかった。右足が気になる。暗闇症候群が迫っている。
闇が――。
闇が迫ってくる。
(私もクロイになってしまう)
カラダの震えが止まらなかった。右足を誰かにつかまれているような、厭な感覚をいつまでも拭うことができなかった。
怖い。
『おい、見てみろよ』
『あの教会に行ってきたのか?』
『ああ』
『でも魔術師って、神を怒らせた一族なんだろ』
『だけど、良い娘だった。それに魔神さまは、暗闇症候群に侵されていたオレを救ってくださったんだ』
と、ヤリトリが聞こえた。
声のするほうに目をやって、エイブラハングは衝撃を受けた。
奇妙な明かりが漏れているのである。
あれは――なんだ……?
エイブラハングは、都市シェークスに訪れていた。
巨大なクロイが出た森から、すぐ近くに都市の明かり――正確に言うならば《輝光石》のきらめきが見えたために、こうして一直線に駆けてきたのである。
「落ちついてください。どうかされましたか?」 と、城門棟の門兵に宥められた。
「も、森に、クロイが出た」
息を切らしてエイブラハングはそう言った。
「いつものことでしょう」
「半端な大きさじゃない。災厄級のクロイだった」
「ふぅん」
と、門兵は疑わしげな目を、エイブラハングに向けてきた。
「ウソなんて言ってない!」
「見間違いということもありますので」
もしかして気が狂っているとでも思われているのかと心配になった。
たしかに、エイブラハングは半狂乱になって、ここまで逃げてきた。都市シェークスに災厄級クロイのことを知らせに来たと言うと聞こえは良いが、実際は恐怖に急かされて逃げてきただけである。
カラダも酷く泥で汚れており、不審者に思われても仕方がない身形となっていた。
「ホントウなんだ。私はエイブラハング。黒狩人だ」
と、懐にしまっていた証明石を見せた。
気が狂っていると思われては困るので、なるべく平静を装った。
「ほお。S級の――。それではあなたが、3人のうちの1人……」
と、門兵はエイブラハングの提示した証明石に顔を近づけて確認していた。
「ああ」
都市には城壁がめぐらされていて、出入りのためには城門棟を通る必要がある。
その城門棟には必ずと言って良いほど、門兵が配置されていた。不審者などの出入りを警戒しているのだ。
出入りの基準は都市によって違ってくる。商人や貴族がチカラの強い都市ならば、物資を念入りに調べられる。
戦争が近いなら、武器や人相を見られることにもなるだろうし、ソマ帝国の都市なんかは《光神教》に入信しているかを調べられることになる。
その点、黒狩人は便利だ。
黒狩人組合から、証明石が提供される。
証明石は、黒狩人である証明になって、各地の都市や橋の通行手形として機能する。上位ランクになるほど、細工の凝った証明石となる。
エイブラハングの証明石には、ドラゴンの模様が彫り込まれているであった。この石を持つ者は、関所の通行税なども免除してもらえる。
「感染はしていませんか?」
と、門兵がそう尋ねてきた。
「あ……ああ。問題ない」
と、エイブラハングはウソを吐いた。
どこに行くにしても、暗闇症候群の感染者の受け入れに関しては、厳しいものがあった。これは、重症化すると、理性を失い、人を襲うようになるせいだ。
エイブラハングの右足は、暗闇症候群の初期症状が見られた。が、まだ理性を失って人を襲うというほど症状はすすんでいない。
黙っていることにした。
「災厄級クロイの件は、領主のほうへ報告しておきます」
と、ようやっと門兵にも危機感がつたわったようで、すぐにあわただしくなっていた。
「ああ。よろしく頼む」
「中へどうぞ」
と、中へ入る許可札をもらうことが出来た。
(調べられなかったな)
と、思った。
かりに右足を調べられていれば、都市内へ入ることは拒否されていた。
S級黒狩人の肩書きが、門兵たちを信用させたのだろう。
(これからどうするか……)
恐怖に追われるがままに、都市に逃げてきたわけだが、行く当てはなかった。
とにかく黒狩人の組合へ行こうと決めた。こういう都市ならば、必ずその支部があるはずだった。
石畳の通路を行く。
雨は依然として降りつづけている。門兵たちは傘をさしていたが、エイブラハングは降られるがままに任せていた。
撥水性の良い黒いコートを着ているおかげで、雨を凌ぐ必要はない。それに身体は泥に酷く汚れていて、むしろ濡れたほうがカラダを清めることが出来る。
振り向くと、闇が広がっている。
暗闇症候群に感染してしまったこともあり、またあの災厄級のクロイの威圧感を思い出して、まるで暗闇に呑まれるような恐怖をおぼえた。
黒狩人組合の支部を見つけたので、そこに入った。
石造りの室内には、天井から《輝光石》がつるされていた。カウンターテーブルがあって、多くの黒狩人たちがいた。
「酒はあるか?」
と、受付の男にたずねた。
「《輝光石》は?」
「あるよ」
と、持っていた《輝光石》を差し出した。どこの国も《輝光石》を通貨にしていることが多い。
ブドウ酒が提供された。
いっきに流しこんだ。カラダがカッと熱くなった。かじかんでいた手足にも、血が巡るような心地がした。
しかしそれでも気分が晴れることはなかった。右足が気になる。暗闇症候群が迫っている。
闇が――。
闇が迫ってくる。
(私もクロイになってしまう)
カラダの震えが止まらなかった。右足を誰かにつかまれているような、厭な感覚をいつまでも拭うことができなかった。
怖い。
『おい、見てみろよ』
『あの教会に行ってきたのか?』
『ああ』
『でも魔術師って、神を怒らせた一族なんだろ』
『だけど、良い娘だった。それに魔神さまは、暗闇症候群に侵されていたオレを救ってくださったんだ』
と、ヤリトリが聞こえた。
声のするほうに目をやって、エイブラハングは衝撃を受けた。
奇妙な明かりが漏れているのである。
あれは――なんだ……?
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