《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

7-4.聖火台と原初の魔術師

 オレたち《紅蓮教団》は、教会を発つしたくをした。


 プロメテやレイアたちの休養のために居ついていたのであって、どのみち発つつもりだった。


 聖火台に火を灯すことが、プロメテの目的なのだ。いつまでも教会で休んでいて、成し遂げられることではない。


「これ、なんとか持って行けないかなぁ」
 と、レイアは湯船として完成させた器を手放すことを、躊躇っているようだった。よほどお風呂が気に入ったのだろう。


 持って行けないことはないだろうが、かなりの重みがある。


「土を固めたのですか。これは興味深いですね」


 レイアたちが作った湯船に、ディーネはいたく興味を示した。兵隊たちに運ばせるとのことだった。


 オレとプロメテのふたりは、馬車キャリッジに乗せてもらえることになった。


 馬車には向かい合うようにイスがあって、4人まで乗れるようになっていた。プロメテはそこに腰かけたのだが、足が床に届いていなかった。オレはプロメテの隣に置かれることになった。


 そしてプロメテの正面には、ディーネが腰かけた。


 レイアにも乗るようにディーネが誘っていたのだが、レイアはそれを拒否した。自分の足で歩くということだ。


 ガタゴトガタゴト……馬車が揺れる。
 それに合わせて、床に届かぬプロメテの足も前後へと揺すられる。


「すみません。何からなにまで」
 と、プロメテが頭を下げていた。


「いえいえ。この程度、礼に及ぶようなことではありませんよ。なるほど。あなたが魔神召喚をはたした魔術師さんですか」
 と、ディーネはプロメテのことを覗きこむようにした。ディーネは背が高いのだが、プロメテは背が低い。
 その身長差は、座っていても明らかだった。


「は、はい。プロメテ、です」
 と、プロメテは、亀が首を引っ込めるような仕草をしていた。


 今のところディーネに不審な動きはない。けれどまだ信用しきって良いとも思えない。プロメテも警戒しているのかもしれない。あるいは、単純に人見知りを起こしているのかもしれない。


「プロメテちゃんですか」


「プロメテ……ちゃん……?」
 と、その呼称にプロメテは愕然とした表情をあらわにしていた。


「思ったより小っちゃいですね。可愛い、可愛い」


 ディーネはプロメテのことを抱き寄せると、犬を可愛がるかのように、プロメテのことを愛撫していた。


「おわっ、おわわっ」


 プロメテは、困惑している様子だったが、されるがままになっている。


 激しくナでられて、白銀の長い髪が乱されていた。


 今まで見てきた人は、プロメテのことを迫害する者たちだった。
 その点、ディーネには、プロメテにたいする悪意はないように見えた。


「君は、魔術師というものにたいして、偏見を持っていないようだな」
 と、オレは呼びかけた。


 ロードリ公爵のところにいた騎士なんか酷いものだった。プロメテの華奢なカラダを、容赦なく叩いていたぐらいだ。


 そのロードリ自身も、プロメテの存在に怯えている様子だった。


「オルフェスの人は、魔術師を嫌う傾向が強いですからね。しかし、それは間違えているのですよ」


「間違い?」


「魔神さまは、どうしてこの世界が闇に閉ざされているか知っておられますか?」


「ああ」


 天界から魔術師が、魔法を盗み出した。そのせいで神が怒って、地上から光を奪ってしまったのだと聞いている。


「ですが、それなら怒りを向けるべき相手は、魔術師ではなく神でしょう」
 と、ディーネは天井を指差した。


 見あげてみても、馬車の天井しか見えない。おそらく神が住んでいるという天界のことを指したつもりなのだろう。


「しかしまぁ、神を相手に怒りは向けにくい――ということだろう」


 神はゼッタイだ。
 レイアもそう言っていた。


「残念ながら、それが現状ですね。人はより身近なものを傷つけようとしますから」
 と、ディーネは、プロメテのことを抱き寄せたまま、肩をすくめていた。


 ディーネのカラダは、酷く濡れている。プロメテを抱き寄せることで、その水気が感染していた。
 しかし濡れ慣れていると言うべきなのか、プロメテも濡れることに関しては、意に介する様子はなかった。


 むしろ。
 チョットうれしそうに見える。


 プロメテがうれしそうにしていると、なぜかオレもチョットうれしくなる。


「そもそも原初の魔術師と呼ばれる者が、どうして天界から魔法を盗もうとしたか、おふたりはご存知ですか?」


 いや、オレは知らん――と頭をふった。


「私も、それは知らないのです。ディーネさんはご存知なのですか?」
 と、プロメテが言う。


「ええ。知っていますよ」


「教えて欲しいのです」
 と、プロメテは、レイアの胸元あたりを軽く引っ張っていた。


「私は領主という立場上、まぁ、いろいろと書籍が手に入りやすいんですよ」


 特に古文書や歴史書には興味がありましてね――と、ディーネはツケヒゲをナでつけていた。


 だろうな――とオレは応じた。


 ディーネは、大量の書籍を所持していた。教会に突入してきたさいには、派手に散らかしていた書籍だが、今は座席に積み重ねられていた。


 わざわざ、そんなものを持ち運んでいるということは、よほど大切にしているのだろう。


 すこし昔話をしてさしあげましょう――と、ディーネは切り出した。


「このオルフェスという世界には、はるか昔から、クロイというバケモノがいました。人類はこれに悩まされて生きてきたのです」


 ディーネは近くに積み上げられていた本を手にとって、ページを開いた。そこには火の絵が描かれていた。


 このオルフェスという世界の本は、どれもすべて文字が光っている。それは《輝光石》をすり潰して、それをインクにしているからなのだそうだ。


「でも、空が雲で閉ざされる以前は、こんなに世界は暗くなかったんだろう?」


 クロイについて、オレもあんまり知っていることは少ない。が、闇から生まれてくると聞いている。


「夜は訪れますから」


「……そうか。言われてみればそうだな。するとクロイは夜だけ現われるバケモノだったわけか」


 今は四六時中暗いから、常にクロイが跋扈しているというわけだ。


「当時、とある国のとある王様は、思いつきます。天界の魔法のチカラを使えば、永遠に燃え続ける火を作れるのではないか――と。そこで、英雄と呼ばれた男に、ある命令をくだしました。天界より魔法を盗み出して来い――と」


「それが――原初の魔術師か」


 プロメテの御先祖さまである。


「そして、英雄は王の命令を忠実に守って、天界より魔法を盗み出すことに成功するのです。魔法を盗み出した魔術師は、この世界に5つの聖火台をつくりあげました。それこそが、火の消えぬ聖火台という魔法の器です」


 聖火台。
 この世界に5つあると言う器。
そこに火を灯すことを、プロメテは目的としている。


「たしかに、あの聖火台は誰がなんのために作ったのかは気になっていたが、まさかそんな歴史があったとはな」


 聖火台というのは、もともとは、クロイ避け、だったというわけだ。蚊を嫌う人が、蚊取り線香を焚く理屈と同じことだろう。


 プロメテにも興味のそそられる話のようで、ディーネに抱き寄せられたまま、話に聞き入っている様子だった。


「それから100年は、聖火台の火が燃え続けたとされています。おかげで夜も、聖火台のまわりにクロイが湧くことはなかった。しかし悲劇が起こる。100年の時を経て、神は魔法を盗み出されたことに気づくのです」
 と、ディーネは開いていた本を閉ざした。


 分厚い本だったので、バタン、と閉じる音が大きく聞こえた。


「火は消えて、空は雲に閉ざされ、今に至る――ってわけか」


 そして火の消えた聖火台が残されている、というわけだ。


「それが私の調べた歴史。原初の魔術師と呼ばれた人物が、天界より魔法を盗み出した理由です。歴史書の内容ですから、いささか語弊や不備がある可能性もありますがね」


「理不尽だな」
 と、オレはポツリとそう呟いた。


 ならば恨まれるべきは、その命令を発した王様である。が、実行犯である原初の魔術師が恨まれることになってしまった、というわけだ。


「仕方がないと言えば、仕方がないことでもあります。実行犯ですから」


 ディーネがそう言うと、ディーネに抱かれているプロメテの表情がすこし陰った。


「その王さまは罪には問われなかったのか?」


「残念ながら、その命令を出した王の末裔が誰かはわかりません。しかし、魔術師には魔法を使えるという、歴然とした末裔たる証拠がありますから。それに魔術師の家系はだいだい、白銀の髪と白銀の目をした者と決まっている」
 と、ディーネは、ふたたびプロメテの頭をナでまわしていた。


 馬車の振動が、伝わってくる。
 雨の降る音が、静かに聞こえてくる。


 それでも――と、プロメテが口を開いた。


「以前までは、魔術師として生まれてしまった、己の運命を恨んでいました。ですが今は、そんなに不幸にも思っておりません。私には《紅蓮教団》の者たちや、なにより魔神さまが付いてくれていますから」


 いい娘、いい娘、とディーネはプロメテの頭を今度は、優しくナでていた。


 見ている感じ、このディーネという女性は、悪い人物ではなさそうである。
 ロードリ公爵のように、オレのことを誘拐しに来たわけではなさそうだ。

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