《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

6-3.……その迷いの払拭

『探し出せ。そう遠くへ行っておらんはずだ』
『魔神さまの火を目印にしろ』
『見つけ次第、魔術師を殺せ』


 声が追いかけてきた。


 どうやらもうこの地下通路に騎士たちが、入り込んできたようだ。


 レイアたちはどうしたのだろうか。無事ならば良いが。いまはレイアの心配をしている場合ではない。


 プロメテは足を引きずって、それでも前に進もうとしていた。その先は、オレが道を照らしている。だが、オレの輝きは騎士たちを誘う光にもなってしまう。


「止まれッ」


 背後。
 声をかけられた。
 振り返る。
 そこには騎士たちと、ロードリ公爵の姿があった。


「領主さま……」
 と、プロメテは足を止めた。


 どうやら領主じきじきに、地下水路までおりてきたようだ。ブロンドの髪に碧眼の若人。小奇麗にしている領主ロードリ。この古臭い水路では、場違いな雰囲気があった。


「脱獄するだけでなく、魔神さまを持ちだしやがって。この魔術師め。やはり魔術師など信用は出来ん」


「申し訳ありません。しかし私は、魔神さまのチカラをお借りして、この世界に火を灯したいのです」


「余計なことを。魔神さまは、オレの手元に置いておく。他の都市に火などくれてやるものか」


「独り占めは、良くありません」


「それは貴様にも言えることだ。貴様は魔神さまを独占しているではないか!」


 ち、違います――と、プロメテは狼狽して言い返した。


「私は、世界に火を灯すために……」


「なんのために?」


「え?」


「なんのために、世界に火など灯すと言うのだ」


「魔術師の贖罪のため。世界の人々のため。そしていつかは、私のことを許してもらうために……」


「以前にも、うちの小隊長が提案したはずだ。そちらの魔神を差し出せば、オレの都市では迫害をやめるように命じてやる――と。それで何が不服なのだ」


 ロードリがそう言って、1歩詰め寄った。
 それに合わせて、プロメテは後ずさった。


「それでは贖罪にはなりません」


「人から好かれたいのだろう」


 以前にもたしかに同じ提案をされている。


 そしてプロメテはオレのことを差し出すか迷ったと言っていた。オレを差し出そうとしたことを、謝ってもいた。


 オレとしてはロードリに使われるよりも、プロメテとともにいたい。


 プロメテはオレのことを崇めてくれているし、召喚主でもある。いや。理屈ではない。なぜかプロメテから離れたくないという気持ちが、オレのなかにはあるのだ。


 しかしオレがどう思おうと、プロメテがどう思っているかはわからない。


「いえ。それでも魔神さまは渡せません」
 と、プロメテは強い語気で言い切った。
 今度は、迷う様子すらなかった。


「ほお。人から好かれなくとも良いということか」


 プロメテの語気に気圧されたかして、ロードリが頬をひくつかせていた。


「命令されて与えてもらう好意では意味がないのです。私は自分で友達を作ろうと思っています。レイアさんに、《紅蓮教団》のみなさんは、私のことを受け入れてくださいました」


「魔術師のくせに、1人前なことを言いやがる」


 それに――と、プロメテはつづけた。


「私は、忘れていたのです」


「忘れていた?」


「魔神さまは、誰よりも最初に私を受け入れてくださった御方です。私の孤独に光を灯してくれた御方です。たとえワガママでも。私は魔神さまと、ともにいたい」


 プロメテはそう言うと、照れ臭そうに笑ってオレを見つめてきた。


 ふん――と、ロードリは鼻で笑った。


「まぁ良い。ならばチカラずくで奪い返すまでだ」


 ロードリがアゴをしゃくった。


 すると騎士たちが、プロメテに向かって襲いかかってきた。その手には剣や槍が握られていた。


「魔神さま、どうか私を御守りくださいませ」


 プロメテは孤独だったのだ。親をなくして、世間から疎まれて、ひとり山奥でヒッソリと暮らしていた。


 そこに――。
 オレは生み落とされた。
 炎の魔神アラストルとして転生した。


 考えてみれば、寂しかったプロメテにはじめて寄り添ったのは、オレなのだ。


 プロメテは、オレが入っている鳥籠のフタを開けた。


 この娘が、オレに助けを求めている。
 オレは神だ。
 信じてくれる者がいるのならば、その気持ちに応える義務がある。


「うォォォ――ッ」


 吠えた。
 オレの声は、水路内に響きわたり、プロメテに押し寄せる騎士たちを怯ませた。そしてオレのカラダは、大火となった。


「ま、魔神さま、そのお姿は?」
 と、尋ねてくるプロメテが瞠目していた。
 そんなプロメテをオレは見下ろしていた。


 火であることには違いないのだが、オレは人の形をなしていたのだった。


 大きくふくらんだ胸部。巨木のような腕。まるで獣のような体躯を、火が形成しているのであった。
 その体躯たるや、まさしく魔神である。
 オレは騎士たちすらも見下ろすほどの大きさとなっていた。


「う、うわぁぁっ」
 と、襲いかからんとしていた騎士たちはいっせいに逃げ出していった。


「こ、こら、逃げるなッ」
 と、ロードリが逃げる騎士たちを引きとめていたが、その声を聞く者はいなかった。そしてロードリひとりが取り残されていた。


「ロードリ公爵。オレは人に危害をくわえるつもりはない。だが、プロメテに危害を加えようとするならば容赦はせん」


 ロードリのなかには怯懦がある。
 オレはそれを見抜いていた。
 脅せば、それで済む。
 そう思っていた。


「さすがは魔神アラストルと言うべきか。だが、これで終わりだと思うな。オレにだって切り札があるのだ」


 ロードリはそう言うと、銀色に輝く笛を取り出した。


「あれは《天使の呼び笛》」
 と、プロメテが言う。


「なんだそれは?」


「天使さまを召喚する笛です。お気を付けくださいませ」

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