《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
5-4.紅蓮教団
「もっとだ! もっと木材を持って来い。魔神アラストルさまに、木材を捧げよッ」
と、レイアが声を張り上げた。
教会内。
オレは鳥籠から出されていた。
「よいしょ、よいしょ」
と、プロメテが持参の薪を、オレに与えて火を大きくしてくれた。が、まどろっこしくなったのか、
「これも燃やしちまおうぜ」
と、レイアがオレに教会にあった長椅子を投げ込んだのだった。
「おい。いいのかよ。これは《光神教》のヤツなんだろ」
「いいんだよ。私は《光神教》なんて信じちゃいねェ――って言っただろ。置いててもカビるだけだよ」
長椅子を燃やしたかと思うと、今度は懺悔室までオレに付与してきたのだった。
レイアが《紅蓮党》の連中を鼓舞して、教会にあった書籍やら家具やらを持って来させていた。
それらを肥やしにして、オレのカラダは膨れ上がった。その大きさは、主神ティリリウスの石像に匹敵するほどだった。
《光神教》が、信仰しているという石像、主神ティリリウス。
オルフェス最後の魔術師に召喚された、魔神アラストル。
その2つの存在が同じ大きさとなって向かい合っていることに、何か運命的なものを感じた。
「魔神さまよ。これだけ火があれば、みんなを治せるかい?」
「べつに火を大きくしなくても、治せたと思うけど」
「燃え上がったほうが、頼りがいがあるだろ。そのほうが効果がありそうだし、出来ることはやっておきたい」
「なんだかその物言いだと、普段頼りがいがないと言ってるように聞こえるんだが?」
「そりゃ失敬」
「ここにいる連中は、みんな《紅蓮党》の連中なのか?」
「そう。みんな私の大切な子分たちだ」
と、レイアがうなずいた。
全部で30人ほど。みんなどこかしら身体が黒くなっていた。レイアのときと同じ症状だ。
なかには、もうほぼ全身が黒くなっていている者もいた。そういった者たちは、手足に枷をはめられていた。
「あの者たちは?」
「症状が進行しちまってるのさ。ああなっちまったら、もう理性をなくしちまうんだ。人間を襲おうとするから、枷をして抑えつけてる。ああなった連中も、治せるかい?」
「わからんが、やってみよう」
「祈っておくよ」
冗談かと思ったが、レイアは合掌黙想をしてオレにひざまずいていた。
そうだ。
オレは魔神。神なのだ。
レイアの態度を前に、そう思い出させられた。
中身はどうであれ、この世界では魔神という肩書を背負っているのだ。
神として、みんなの期待に応えたい。どれだけ祈っても、その気持ちが通じないような愚かな神には、なりたくない。
オレはレイアにやったときみたく、その患者たちに吐息を吹きかけた。
カラダが大きいぶん、一吐きで教会内に呼気が行き渡ることになった。
魔神の息吹は、患者たちのカラダを蝕んでいる漆黒を吹き散らした。張り付いていたものが、いっきに剥がれ落ちていくかのようだった。
『おおっ。治った』
『オレもだ』
『魔神さま、ばんざーいッ』
と、歓喜の声が教会内に飛び交うことになった。
重度の暗闇症候群の者たちも、人間の姿に戻っていた。どうやら無事に、オレのチカラが行き渡ったようだ。
役目を終えたオレは、カラダを縮こまらせた。教会は石造りだから炎上しないとはいえ、余計な場所に引火しかねない。
オレが縮むと、教会内には焼け焦げた木材の残滓が残されることになった。
「お疲れさまなのですよ。魔神さま」
と、プロメテが労ってくれた。
オレのチカラが無事に行き渡ることが信じきれなかったのか、レイアはまだ合掌黙想をしてオレに向かっていた。
「おい、レイア。終わったぜ」
レイアは怖いものでも見るかのように、おそるおそるといった調子でマブタを開いていた。
「結果はどうだ?」
「わざわざ、オレに尋ねることはない。この歓声が聞こえないわけじゃないだろう」
レイアは振り返った。
そこには、欣喜雀躍としている《紅蓮党》のみんながいる。
この教会にいた者たちには、隅ずみにまでオレのチカラが行き渡っているはずだ。
レイアは蹌踉と、《紅蓮党》ひとりひとりのもとへ歩み寄っていた。症状が残っている者がいないか確認しているようだった。
確認が終わってオレの前に戻ってきたときには、血色がずいぶんと良くなっていた。
感動しているのか、興奮しているのか、その頬が紅潮していた。
「こう見えてもオレは魔神だ。魔神としてみんなの期待には応えられたかな?」
レイアが右手をなぎ払うように振るった。その風を受けてオレはなびいた。それはハンドサインだったらしく、《紅蓮党》の騒ぎがピタリとやんだ。
レイアは片膝を床について、頭を垂れた。
後ろに並んでいた者たちも一斉に頭を下げたのだった。その呼吸の合った動きに、《紅蓮党》という組織のただならぬ規律を感じさせられた。
「魔神さま。感謝する」
「なんだよ。改まって。オレやプロメテは、レイアに助けられてるんだ。だから、そのお返しだ。もともとその約束だったろう」
「それでも、この恩はあまりに大きい。我ら《紅蓮党》は今日から《紅蓮教団》に改名しようと思う」
「《紅蓮教団》?」
「魔神さまという神がいる。そしてプロメテという神官がいる。ならば、信者がいても良いではないか」
あ、あの、あの私は魔術師であって、神官ではないのですが……とプロメテが困ったように言っている。
もちろん、神官というのは例えだろう。とはいえ、今のプロメテの立場を言い表すなら、的確かもしれない。
「えらく、急な申し出だな」
「ここに来る道中で考えていたことなんだよ。神を崇めるのに、理由が必要か?」
「まぁ、べつにオレに不服はないがな」
神として崇められるのは、面映ゆいものがある。心臓を内側からくすぐられているような心地だ。
しかし、オレの内心など関係なく、どうやらオレは神なのだ。
好意であることには違いないし、拒否しようとも思わない。
「プロメテはどうだ?」
と、オレはプロメテに話を振った。
「え? 私でしょうか?」
「オレを召喚したのは、プロメテだ。《紅蓮教団》を許可してやるか? どうする?」
プロメテにとっても悪い申し出ではないはずだ。迫害されてきたプロメテにとって、仲間が出来るのは良いことだろう。
「もちろん。私は構いません。ともに魔神さまを崇めましょう」
プロメテはオレのほうを振り返ると、ニコリと微笑んだのだった。
と、レイアが声を張り上げた。
教会内。
オレは鳥籠から出されていた。
「よいしょ、よいしょ」
と、プロメテが持参の薪を、オレに与えて火を大きくしてくれた。が、まどろっこしくなったのか、
「これも燃やしちまおうぜ」
と、レイアがオレに教会にあった長椅子を投げ込んだのだった。
「おい。いいのかよ。これは《光神教》のヤツなんだろ」
「いいんだよ。私は《光神教》なんて信じちゃいねェ――って言っただろ。置いててもカビるだけだよ」
長椅子を燃やしたかと思うと、今度は懺悔室までオレに付与してきたのだった。
レイアが《紅蓮党》の連中を鼓舞して、教会にあった書籍やら家具やらを持って来させていた。
それらを肥やしにして、オレのカラダは膨れ上がった。その大きさは、主神ティリリウスの石像に匹敵するほどだった。
《光神教》が、信仰しているという石像、主神ティリリウス。
オルフェス最後の魔術師に召喚された、魔神アラストル。
その2つの存在が同じ大きさとなって向かい合っていることに、何か運命的なものを感じた。
「魔神さまよ。これだけ火があれば、みんなを治せるかい?」
「べつに火を大きくしなくても、治せたと思うけど」
「燃え上がったほうが、頼りがいがあるだろ。そのほうが効果がありそうだし、出来ることはやっておきたい」
「なんだかその物言いだと、普段頼りがいがないと言ってるように聞こえるんだが?」
「そりゃ失敬」
「ここにいる連中は、みんな《紅蓮党》の連中なのか?」
「そう。みんな私の大切な子分たちだ」
と、レイアがうなずいた。
全部で30人ほど。みんなどこかしら身体が黒くなっていた。レイアのときと同じ症状だ。
なかには、もうほぼ全身が黒くなっていている者もいた。そういった者たちは、手足に枷をはめられていた。
「あの者たちは?」
「症状が進行しちまってるのさ。ああなっちまったら、もう理性をなくしちまうんだ。人間を襲おうとするから、枷をして抑えつけてる。ああなった連中も、治せるかい?」
「わからんが、やってみよう」
「祈っておくよ」
冗談かと思ったが、レイアは合掌黙想をしてオレにひざまずいていた。
そうだ。
オレは魔神。神なのだ。
レイアの態度を前に、そう思い出させられた。
中身はどうであれ、この世界では魔神という肩書を背負っているのだ。
神として、みんなの期待に応えたい。どれだけ祈っても、その気持ちが通じないような愚かな神には、なりたくない。
オレはレイアにやったときみたく、その患者たちに吐息を吹きかけた。
カラダが大きいぶん、一吐きで教会内に呼気が行き渡ることになった。
魔神の息吹は、患者たちのカラダを蝕んでいる漆黒を吹き散らした。張り付いていたものが、いっきに剥がれ落ちていくかのようだった。
『おおっ。治った』
『オレもだ』
『魔神さま、ばんざーいッ』
と、歓喜の声が教会内に飛び交うことになった。
重度の暗闇症候群の者たちも、人間の姿に戻っていた。どうやら無事に、オレのチカラが行き渡ったようだ。
役目を終えたオレは、カラダを縮こまらせた。教会は石造りだから炎上しないとはいえ、余計な場所に引火しかねない。
オレが縮むと、教会内には焼け焦げた木材の残滓が残されることになった。
「お疲れさまなのですよ。魔神さま」
と、プロメテが労ってくれた。
オレのチカラが無事に行き渡ることが信じきれなかったのか、レイアはまだ合掌黙想をしてオレに向かっていた。
「おい、レイア。終わったぜ」
レイアは怖いものでも見るかのように、おそるおそるといった調子でマブタを開いていた。
「結果はどうだ?」
「わざわざ、オレに尋ねることはない。この歓声が聞こえないわけじゃないだろう」
レイアは振り返った。
そこには、欣喜雀躍としている《紅蓮党》のみんながいる。
この教会にいた者たちには、隅ずみにまでオレのチカラが行き渡っているはずだ。
レイアは蹌踉と、《紅蓮党》ひとりひとりのもとへ歩み寄っていた。症状が残っている者がいないか確認しているようだった。
確認が終わってオレの前に戻ってきたときには、血色がずいぶんと良くなっていた。
感動しているのか、興奮しているのか、その頬が紅潮していた。
「こう見えてもオレは魔神だ。魔神としてみんなの期待には応えられたかな?」
レイアが右手をなぎ払うように振るった。その風を受けてオレはなびいた。それはハンドサインだったらしく、《紅蓮党》の騒ぎがピタリとやんだ。
レイアは片膝を床について、頭を垂れた。
後ろに並んでいた者たちも一斉に頭を下げたのだった。その呼吸の合った動きに、《紅蓮党》という組織のただならぬ規律を感じさせられた。
「魔神さま。感謝する」
「なんだよ。改まって。オレやプロメテは、レイアに助けられてるんだ。だから、そのお返しだ。もともとその約束だったろう」
「それでも、この恩はあまりに大きい。我ら《紅蓮党》は今日から《紅蓮教団》に改名しようと思う」
「《紅蓮教団》?」
「魔神さまという神がいる。そしてプロメテという神官がいる。ならば、信者がいても良いではないか」
あ、あの、あの私は魔術師であって、神官ではないのですが……とプロメテが困ったように言っている。
もちろん、神官というのは例えだろう。とはいえ、今のプロメテの立場を言い表すなら、的確かもしれない。
「えらく、急な申し出だな」
「ここに来る道中で考えていたことなんだよ。神を崇めるのに、理由が必要か?」
「まぁ、べつにオレに不服はないがな」
神として崇められるのは、面映ゆいものがある。心臓を内側からくすぐられているような心地だ。
しかし、オレの内心など関係なく、どうやらオレは神なのだ。
好意であることには違いないし、拒否しようとも思わない。
「プロメテはどうだ?」
と、オレはプロメテに話を振った。
「え? 私でしょうか?」
「オレを召喚したのは、プロメテだ。《紅蓮教団》を許可してやるか? どうする?」
プロメテにとっても悪い申し出ではないはずだ。迫害されてきたプロメテにとって、仲間が出来るのは良いことだろう。
「もちろん。私は構いません。ともに魔神さまを崇めましょう」
プロメテはオレのほうを振り返ると、ニコリと微笑んだのだった。
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