《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

5-4.紅蓮教団

「もっとだ! もっと木材を持って来い。魔神アラストルさまに、木材を捧げよッ」
 と、レイアが声を張り上げた。


 教会内。
 オレは鳥籠から出されていた。


「よいしょ、よいしょ」
 と、プロメテが持参の薪を、オレに与えて火を大きくしてくれた。が、まどろっこしくなったのか、
「これも燃やしちまおうぜ」
 と、レイアがオレに教会にあった長椅子を投げ込んだのだった。


「おい。いいのかよ。これは《光神教》のヤツなんだろ」


「いいんだよ。私は《光神教》なんて信じちゃいねェ――って言っただろ。置いててもカビるだけだよ」


 長椅子を燃やしたかと思うと、今度は懺悔室までオレに付与してきたのだった。


 レイアが《紅蓮党》の連中を鼓舞して、教会にあった書籍やら家具やらを持って来させていた。


 それらを肥やしにして、オレのカラダは膨れ上がった。その大きさは、主神ティリリウスの石像に匹敵するほどだった。


《光神教》が、信仰しているという石像、主神ティリリウス。
 オルフェス最後の魔術師に召喚された、魔神アラストル。


 その2つの存在が同じ大きさとなって向かい合っていることに、何か運命的なものを感じた。


「魔神さまよ。これだけ火があれば、みんなを治せるかい?」


「べつに火を大きくしなくても、治せたと思うけど」


「燃え上がったほうが、頼りがいがあるだろ。そのほうが効果がありそうだし、出来ることはやっておきたい」


「なんだかその物言いだと、普段頼りがいがないと言ってるように聞こえるんだが?」


「そりゃ失敬」


「ここにいる連中は、みんな《紅蓮党》の連中なのか?」


「そう。みんな私の大切な子分たちだ」
 と、レイアがうなずいた。


 全部で30人ほど。みんなどこかしら身体が黒くなっていた。レイアのときと同じ症状だ。


 なかには、もうほぼ全身が黒くなっていている者もいた。そういった者たちは、手足に枷をはめられていた。


「あの者たちは?」


「症状が進行しちまってるのさ。ああなっちまったら、もう理性をなくしちまうんだ。人間を襲おうとするから、枷をして抑えつけてる。ああなった連中も、治せるかい?」


「わからんが、やってみよう」


「祈っておくよ」


 冗談かと思ったが、レイアは合掌黙想をしてオレにひざまずいていた。


 そうだ。
 オレは魔神。神なのだ。
 レイアの態度を前に、そう思い出させられた。


 中身はどうであれ、この世界では魔神という肩書を背負っているのだ。


 神として、みんなの期待に応えたい。どれだけ祈っても、その気持ちが通じないような愚かな神には、なりたくない。


 オレはレイアにやったときみたく、その患者たちに吐息を吹きかけた。


 カラダが大きいぶん、一吐きで教会内に呼気が行き渡ることになった。


 魔神の息吹は、患者たちのカラダを蝕んでいる漆黒を吹き散らした。張り付いていたものが、いっきに剥がれ落ちていくかのようだった。


『おおっ。治った』
『オレもだ』
『魔神さま、ばんざーいッ』
 と、歓喜の声が教会内に飛び交うことになった。


 重度の暗闇症候群の者たちも、人間の姿に戻っていた。どうやら無事に、オレのチカラが行き渡ったようだ。


 役目を終えたオレは、カラダを縮こまらせた。教会は石造りだから炎上しないとはいえ、余計な場所に引火しかねない。


 オレが縮むと、教会内には焼け焦げた木材の残滓が残されることになった。


「お疲れさまなのですよ。魔神さま」
 と、プロメテが労ってくれた。


 オレのチカラが無事に行き渡ることが信じきれなかったのか、レイアはまだ合掌黙想をしてオレに向かっていた。


「おい、レイア。終わったぜ」


 レイアは怖いものでも見るかのように、おそるおそるといった調子でマブタを開いていた。


「結果はどうだ?」


「わざわざ、オレに尋ねることはない。この歓声が聞こえないわけじゃないだろう」


 レイアは振り返った。


 そこには、欣喜雀躍としている《紅蓮党》のみんながいる。


 この教会にいた者たちには、隅ずみにまでオレのチカラが行き渡っているはずだ。


 レイアは蹌踉と、《紅蓮党》ひとりひとりのもとへ歩み寄っていた。症状が残っている者がいないか確認しているようだった。


 確認が終わってオレの前に戻ってきたときには、血色がずいぶんと良くなっていた。


 感動しているのか、興奮しているのか、その頬が紅潮していた。


「こう見えてもオレは魔神だ。魔神としてみんなの期待には応えられたかな?」


 レイアが右手をなぎ払うように振るった。その風を受けてオレはなびいた。それはハンドサインだったらしく、《紅蓮党》の騒ぎがピタリとやんだ。


 レイアは片膝を床について、頭を垂れた。


 後ろに並んでいた者たちも一斉に頭を下げたのだった。その呼吸の合った動きに、《紅蓮党》という組織のただならぬ規律を感じさせられた。


「魔神さま。感謝する」


「なんだよ。改まって。オレやプロメテは、レイアに助けられてるんだ。だから、そのお返しだ。もともとその約束だったろう」


「それでも、この恩はあまりに大きい。我ら《紅蓮党》は今日から《紅蓮教団》に改名しようと思う」


「《紅蓮教団》?」


「魔神さまという神がいる。そしてプロメテという神官がいる。ならば、信者がいても良いではないか」


 あ、あの、あの私は魔術師であって、神官ではないのですが……とプロメテが困ったように言っている。


 もちろん、神官というのは例えだろう。とはいえ、今のプロメテの立場を言い表すなら、的確かもしれない。


「えらく、急な申し出だな」


「ここに来る道中で考えていたことなんだよ。神を崇めるのに、理由が必要か?」


「まぁ、べつにオレに不服はないがな」


 神として崇められるのは、面映ゆいものがある。心臓を内側からくすぐられているような心地だ。
 しかし、オレの内心など関係なく、どうやらオレは神なのだ。
 好意であることには違いないし、拒否しようとも思わない。


「プロメテはどうだ?」
 と、オレはプロメテに話を振った。


「え? 私でしょうか?」


「オレを召喚したのは、プロメテだ。《紅蓮教団》を許可してやるか? どうする?」


 プロメテにとっても悪い申し出ではないはずだ。迫害されてきたプロメテにとって、仲間が出来るのは良いことだろう。


「もちろん。私は構いません。ともに魔神さまを崇めましょう」


 プロメテはオレのほうを振り返ると、ニコリと微笑んだのだった。

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