《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

5-2.魚、食う

「へくちっ」
 と、レイアはくしゃみをした。


 レイアは見事に魚をとらえてきた。それをオレで焼きあげている最中だった。


 オレは鳥籠から出ていた。


 プロメテの持って来てくれていた薪の上に腰かけて、火を起こしていた。魚が焼かれると同時に、濡れたレイアもオレで暖を取っていた。


「こんな寒中に、湖のなかに跳びこむなんて、正気じゃないぜ」


 へへっ、とレイアは盗賊らしい野卑な笑みを浮かべて見せた。


 見ようによっては可愛らしい八重歯だが、そのせいで歯並びが悪く、気品が削がれているようにも見えるのだった。


「でも、獲って見せただろう。カラダは鍛えてるんだ。これぐらい、なんてことねェよ」
 と、レイアはチカラコブを作って見せた。


 へくち、とまたクシャミをしている。


 強がりにも見えるが、事実、こうして魚を獲って来ている。城から抜け出す手際も見事だった。人並以上の鍛え方はしているのだろう。


「頼りになる女の子だ」


 レイアと違って、プロメテのほうは、カラダが弱そうである。プロメテにとっても、頼りがいがあることだろう。


「魔神さまこそ、頼りになるぜ。こうして暖を取ることが出来るんだからよ。ふーっ、温ったけぇ」
 と、5指をひろげて、レイアは両手を向けてきた。


 レイアの手は、プロメテの手とは、また違っていた。


 プロメテは小さいのに肉付きが悪く傷だらけの手をしている。見ていて憐れを誘われる。レイアの手もまた傷だらけなのだが、指が太くて皮が硬くなっているようだった。


 これは――戦士の手だ。
 そう感じた。


「まぁ、オレは、ここにいるだけなんだがな」


 べつに善意や労力を費やしているわけではない。ただ、存在しているだけなのだ。存在しているだけで、カラダは勝手に燃えている。そこに有難みを感じられても、あまり助力している実感はわかない。


「存在しているだけで、人の助けになるなんて、すげェことだぜ」


「そろそろ焼けそうだ」


「おっ、いい感じじゃねェーか」


 青魚が6匹、オレのことを取り囲むようにして、串刺しにされていた。
 オレの火を浴びて表面がパリパリになっていた。香ばしい匂いが、白いケムリとともに立ち上っていた。


「なんて魚なんだ?」
 と、オレは質問した。
 鯖に似ているが、すこし違うような気もする。


「暗黒鯖」
 と、レイアが応えた。


「あんこくさば?」


「こうして見てみると青魚だけど、湖のなかにいるときは身体が黒いんだ。闇に溶け込んで、見えにくいわけ。だから暗黒鯖」


「よくそれを獲ってきたな」


 魚油が垂れている。鯖みたいな味がするのだろうか。
 焼きあがった鯖をレイアが1本取った。そしてかぶりついていた。
 うめぇ、と声をあげていた。


「ほら、魔術師の嬢ちゃんも」
 と、レイアが言った。


 プロメテは白銀色の瞳をかがやかせていた。オレの光が反射して、輝いているように見えるのだった。


「魚を焼いて食べるのは、はじめてなのですよ」


「骨をノドに詰まらせないように気を付けろよ」


 プロメテはおそるおそるといった調子で、串を手に取っていた。そして、プロメテと同じように、かぶりついていた。


「んんんんーッ」
 と、プロメテは声にならない叫びをあげていた。その小さなカラダをプルプルと震わせていた。


 青白いと言っても過言ではない顔色に、朱色が差しこんでいた。


「美味いのか?」
 と、オレが問うた。


「とっても美味しいのですよ。焼くとこんなにも美味しくなるのですね」


「ふむ」


 いったいどんな味がするのだろうか。気になる。
 オレに味覚が存在しているのかも気になる。


 いまのところ視覚や聴覚は、人間のときと同様に働いている。だが、味覚は不明だ。空腹に関しては、薪だけで満たされるのだ。


 そんなオレの疑問を察したのか、
「魔神さまも、食べてみるのでありますよ」
 と、魚を1匹差し出してきた。


「オレは、食べれるんだろうか」


「まだ4匹残っているのです。1匹食べてみては、いかがでしょうか?」


 レイアが獲ってきた魚は6匹。レイアとプロメテは3匹ずつ分けていた。プロメテの分を1匹くれるということだろう。


 遠慮もあったけれど、味覚があるのか確認しておきたかった。


「じゃあ、お言葉に甘えていただこうかな」


 串刺しにされている1匹に、オレは火を伸ばした。ペロリ。炎の舌が魚を包み込んだ。オレのカラダのなかで、鯖は焼け果てた。


「おおっ」
 と、思わず声が漏れた。


 ちゃんと味を感じ取ることが出来た。地球の鯖よりももうすこし臭みがすくなくて、食べやすかった。それにとっても油が強い。


「どうなのです?」


「味を感じ取ることは出来るみたいだ」


「それは良かったのですよ。そしたら、もう1匹食べてください。私は、もうけっこうなので」


 いい娘だ。
 レイアなんか、オレに気にすることなく、2匹目に手を伸ばしている。


「遠慮するなよ」


「ですが、こうして魚を焼くことが出来るのも、魔神さまのおかげなので」


 ぐぅぅぅ、とプロメテの腹が鳴っていた。


「我慢してるのがバレバレだぜ」


「も、申し訳ないのです」
 と、プロメテの顔が赤いのは、オレの明かりの影響だけではないだろう。


「オレは薪さえあれば、腹はふくれるんだから。プロメテはもっと食べないと」


 教会では、プロメテの裸を見ている。
 傷だらけなうえに、ガリガリだった。乳房がうんぬんという問題ではない。アバラ骨が浮き出て見えている状態だった。


「良いのでしょうか。私なんかが、こんな美味しいものをいただいて」


「レイアがゆずってくれたんだし、遠慮なくいただけよ」


「そ、それでは、いただきます。代わりに、これを」
 と、プロメテはバッグの中に入れていたであろう薪を、オレに追加してくれた。


 最後の1匹を、プロメテは泣きながら食べていた。


「おいおい、なにも泣くことねェだろ」
 と、レイアが困惑していた。


「すみません。こんなに美味しいものを食べるのは、久しぶりなので」


「今まで、何食べてたんだよ」


「都市では、あまり食事を売ってくれる人がいなかったので、草木や虫やキノコなどを」


「苦労してんなぁ」
 と、レイアは呆れたように言っていた。


 ふたりとも骨もほとんど食べてしまったようで、食べ残しはマッタク残らなかった。


「ふーっ、腹ごしらえも済んだし、そろそろ村に戻るとするか」
 と、レイアは立ち上がった。


 たしかに、あまりノンビリもしていられない。領主ロードリの追っ手が、いつ来てもオカシクはないのだ。

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