《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
3-4.改めて、よろしくなのですよ
「おい、地下牢に何の用だ? それにその光は魔神の火ではないのか?」
牢番がそう尋ねてきた。
「ええ。ロードリさまからの命令なんですよ」
レイアはそう言うと、牢番のことを殴りつけた。牢番はその場で昏倒していた。
「殺したんじゃないだろうな?」
「さあね。たぶん生きてると思うよ。死んでるかもしれねェけどな」
さすが盗賊である。
命には無頓着なようだ。
地球で養ってきた倫理観は、あまり通用しなさそうだ。
「堂々としてりゃ、怪しまれないと言ってただろうが」
「場合にもよるって。さすがに牢に入るのは、ムリがあるだろ。コイツは眠っておいてもらったほうが都合が良い」
レイアはそう言うと、牢番から鍵束と装備をはぎとった。
「なにをしているんだ?」
鍵束は檻を開けるためのものだろうが、装備を剥ぎ取る意味がわからない。
売ったりするつもりだろうか?
「変装だよ。魔術師の嬢ちゃんには、これを着て脱出してもらう。そうすりゃ少しは怪しまれないだろ」
「手際が良いな」
そう言えば、レイアも騎士の鎧をまとっている。どこからか調達したのだろう。
「こう見えても、けっこう名の知れた盗賊だったんだ。盗賊って言っても、いちおう義賊を気どってたんだ。《紅蓮党》って、聞いたことないかい?」
「いや、オレは知らん」
《紅蓮党》どことか、この世界のことを、まだほとんど何も知らないのだ。
「そっか。まぁ良いよ。今はそんなこと話してる場合でもねェし」
なぜかすこしだけ、レイアは寂しげな表情をして見せた。《紅蓮党》とやらに、何かあったのかもしれない。
レイアの言うように、そんなこと話している場合でもないので、センサクはしなかった。
地下牢。
ひたすらの暗闇のなか、レイアは突き進んだ。オレの明かりによって、その暗闇たちは払拭されていった。
左右には鉄檻があって、囚人と思われる者たちが閉じ込められていた。囚人たちは、「信じられん」「火だ」「マジかよ」……と、オレの存在に驚嘆していた。
それだけ、火、という物がめずらしいのだろう。
「プロメテの場所は、わかるのか?」
「わかるよ。わからないのに、忍び込んだりしねェよ」
「手慣れてるな」
「盗賊だからな」
通路を進んでいると、すすり泣きのような声が聞こえてきた。最奥の檻。プロメテがヒザを抱えて泣いていた。
「泣いてンのかよ。魔術師の嬢ちゃん」
「あ、盗賊の人。それに、魔神さまも。どうしたのです?」
と、プロメテは顔を上げた。
「助けに来てやったのさ」
レイアはそう言うと、檻を開けた。
「勝手に逃げたら、怒られないでしょうか?」
「怒られるだろうな。でも、逃げなきゃ捕まったままだぜ」
「……そうですね。仕方ありませんね」
と、プロメテは服の袖で、目元をぬぐっていた。
プロメテの目元が、赤くなっていた。
「ほら、これに着替えな。ここの騎士の鎧だ。これを着てりゃ、すこしは逃げやすくなるだろうから」
「はい」
プロメテは包囲の上から、革の帽子と鎧を着こんだ。セッカク変装したのだが、プロメテはカラダが小さいので、とても騎士には見えない。大きめのヘルムによって、顔は隠れていた。
「それからこれだ。嬢ちゃんのお友達は返すぜ」 と、レイアはオレのことを、プロメテに押し付けた。
プロメテはオレのことを両手で抱きかかえるようにして受け取った。
プロメテが熱くないように、オレは身を縮こまらせた。
「ケガは大丈夫か?」
と、オレはプロメテに尋ねた。
騎士の連中には、ずいぶんと強く棒で叩かれていたはずだ。大の男が全力で叩けば、プロメテのカラダなんて容易く潰れてしまうことだろう。
「あ、はい。すこし痛かったですが、叩かれることには慣れているので」
と、プロメテは気まずそうに微笑んだ。
厭な、慣れ、である。
「ホントに大丈夫なのか?」
「はい」
医者に診てもらいたいところだが、この世界に医者がいるのかも、オレにはわからない。
ここは地下牢であって、この場所には、都合良く医者なんていないだろう。
「なら、どうして泣いてたんだ?」
尋ねるのは無遠慮かとも思ったけれど、何か相談に乗れることがあるなら、乗りたかった。ただ燃えているだけの存在だなんて、あまりにも無力だ。自分にも、何か出来ることが、あるはずだ。
オレの問いかけに、プロメテは困ったように笑った。
「恥ずかしいですね。泣いているところを、見られてしまったのです」
「別に恥ずかしがることじゃない」
もっと頼って欲しい。強がると、折れてしまう。そんな儚さが、プロメテにはある。
「私は、許してもらえると思っていたんです。魔術師の大罪をあがなえば、みんな優しくしてくれるようになるかな、って」
「そうか」
「でも、ダメだったみたいですね。許してくれないんだって思うと、悲しくなってしまったのですよ」
オレとプロメテの会話の邪魔だと思ったのか、レイアは檻の外に出て行った。
「ここの領主のロードリってヤツとすこし話したんだ。プロメテの母親は、迫害されて衰弱死したって」
「……はい」
「それでも、ここの連中に許してもらいたいのか?」
「変――ですか?」
と、プロメテは首をかしげた。白銀の髪が揺れていた。
「いや。怒ったりしないのかな、って思ってさ。恨めしいとか、憎いとか、そういう感情が優先されるんじゃないかな、って」
善行ではなく義務。
レイアがそう言っていたことが、オレのなかで引っかかっていた。
「ワガママかもしれません。ですが、私はただ、みんなに優しくしてもらいたいのですよ。こんにちは、って手を振り返してもらったり、今日もいい天気だね、って他愛もないことを話してもらいたいのです。魔術師なのに、そんなことを望むのは、ワガママかもしれませんが」
両親もおらずに、あの山奥の教会でひとりで暮らしていたのだろう。その光景を想像すると、オレのなかにもプロメテの寂しさがなだれ込んでくるかのように錯覚した。
ふんふん、と歌を口ずさみ上機嫌でプロメテは山をおりてきた。
許してもらえることを期待していたのだろう。
火を召喚できて、よくやった。
周りからそうホめて欲しかったのかもしれない。
けど――。
周囲はプロメテのように、素直ではないのだ。
領主であるロードリは、プロメテが復讐を企んでいるのではないか、と怖れている様子だった。
「ここの連中じゃなくても、きっとプロメテに優しくしてくれる人は、他にもいると思うよ」
オレが見た感じでは、ここの連中は、とてもじゃないがプロメテに優しくしてくれそうな雰囲気ではなかった。
「そうですね」
と、プロメテは眉間にシワを寄せて、微笑んでいた。
ムリに微笑んでいることがバレバレだ。
「悪い。この程度のことしか言えなくて。チカラになってやりたいんだがな」
「あ、謝らないでくださいです! 魔神さまは、ただそこに居てくれるだけで、ありがたいのですよ。明るいし、それにとても温かいのです」
オレの発する光りが、プロメテの顔を照らしていた。
「何か困っていることがあるなら、言ってくれよ。他にもオレがチカラになれるようなことがあるかもしれんし」
魔神アラストル。
その名に違わぬ働きを、オレだってしたい。
「頼りに、させていただくのですよ。あらためて、よろしくなのです。魔神さま」
と、プロメテはオレに向かって、会釈するように頭を下げたのだった。
牢番がそう尋ねてきた。
「ええ。ロードリさまからの命令なんですよ」
レイアはそう言うと、牢番のことを殴りつけた。牢番はその場で昏倒していた。
「殺したんじゃないだろうな?」
「さあね。たぶん生きてると思うよ。死んでるかもしれねェけどな」
さすが盗賊である。
命には無頓着なようだ。
地球で養ってきた倫理観は、あまり通用しなさそうだ。
「堂々としてりゃ、怪しまれないと言ってただろうが」
「場合にもよるって。さすがに牢に入るのは、ムリがあるだろ。コイツは眠っておいてもらったほうが都合が良い」
レイアはそう言うと、牢番から鍵束と装備をはぎとった。
「なにをしているんだ?」
鍵束は檻を開けるためのものだろうが、装備を剥ぎ取る意味がわからない。
売ったりするつもりだろうか?
「変装だよ。魔術師の嬢ちゃんには、これを着て脱出してもらう。そうすりゃ少しは怪しまれないだろ」
「手際が良いな」
そう言えば、レイアも騎士の鎧をまとっている。どこからか調達したのだろう。
「こう見えても、けっこう名の知れた盗賊だったんだ。盗賊って言っても、いちおう義賊を気どってたんだ。《紅蓮党》って、聞いたことないかい?」
「いや、オレは知らん」
《紅蓮党》どことか、この世界のことを、まだほとんど何も知らないのだ。
「そっか。まぁ良いよ。今はそんなこと話してる場合でもねェし」
なぜかすこしだけ、レイアは寂しげな表情をして見せた。《紅蓮党》とやらに、何かあったのかもしれない。
レイアの言うように、そんなこと話している場合でもないので、センサクはしなかった。
地下牢。
ひたすらの暗闇のなか、レイアは突き進んだ。オレの明かりによって、その暗闇たちは払拭されていった。
左右には鉄檻があって、囚人と思われる者たちが閉じ込められていた。囚人たちは、「信じられん」「火だ」「マジかよ」……と、オレの存在に驚嘆していた。
それだけ、火、という物がめずらしいのだろう。
「プロメテの場所は、わかるのか?」
「わかるよ。わからないのに、忍び込んだりしねェよ」
「手慣れてるな」
「盗賊だからな」
通路を進んでいると、すすり泣きのような声が聞こえてきた。最奥の檻。プロメテがヒザを抱えて泣いていた。
「泣いてンのかよ。魔術師の嬢ちゃん」
「あ、盗賊の人。それに、魔神さまも。どうしたのです?」
と、プロメテは顔を上げた。
「助けに来てやったのさ」
レイアはそう言うと、檻を開けた。
「勝手に逃げたら、怒られないでしょうか?」
「怒られるだろうな。でも、逃げなきゃ捕まったままだぜ」
「……そうですね。仕方ありませんね」
と、プロメテは服の袖で、目元をぬぐっていた。
プロメテの目元が、赤くなっていた。
「ほら、これに着替えな。ここの騎士の鎧だ。これを着てりゃ、すこしは逃げやすくなるだろうから」
「はい」
プロメテは包囲の上から、革の帽子と鎧を着こんだ。セッカク変装したのだが、プロメテはカラダが小さいので、とても騎士には見えない。大きめのヘルムによって、顔は隠れていた。
「それからこれだ。嬢ちゃんのお友達は返すぜ」 と、レイアはオレのことを、プロメテに押し付けた。
プロメテはオレのことを両手で抱きかかえるようにして受け取った。
プロメテが熱くないように、オレは身を縮こまらせた。
「ケガは大丈夫か?」
と、オレはプロメテに尋ねた。
騎士の連中には、ずいぶんと強く棒で叩かれていたはずだ。大の男が全力で叩けば、プロメテのカラダなんて容易く潰れてしまうことだろう。
「あ、はい。すこし痛かったですが、叩かれることには慣れているので」
と、プロメテは気まずそうに微笑んだ。
厭な、慣れ、である。
「ホントに大丈夫なのか?」
「はい」
医者に診てもらいたいところだが、この世界に医者がいるのかも、オレにはわからない。
ここは地下牢であって、この場所には、都合良く医者なんていないだろう。
「なら、どうして泣いてたんだ?」
尋ねるのは無遠慮かとも思ったけれど、何か相談に乗れることがあるなら、乗りたかった。ただ燃えているだけの存在だなんて、あまりにも無力だ。自分にも、何か出来ることが、あるはずだ。
オレの問いかけに、プロメテは困ったように笑った。
「恥ずかしいですね。泣いているところを、見られてしまったのです」
「別に恥ずかしがることじゃない」
もっと頼って欲しい。強がると、折れてしまう。そんな儚さが、プロメテにはある。
「私は、許してもらえると思っていたんです。魔術師の大罪をあがなえば、みんな優しくしてくれるようになるかな、って」
「そうか」
「でも、ダメだったみたいですね。許してくれないんだって思うと、悲しくなってしまったのですよ」
オレとプロメテの会話の邪魔だと思ったのか、レイアは檻の外に出て行った。
「ここの領主のロードリってヤツとすこし話したんだ。プロメテの母親は、迫害されて衰弱死したって」
「……はい」
「それでも、ここの連中に許してもらいたいのか?」
「変――ですか?」
と、プロメテは首をかしげた。白銀の髪が揺れていた。
「いや。怒ったりしないのかな、って思ってさ。恨めしいとか、憎いとか、そういう感情が優先されるんじゃないかな、って」
善行ではなく義務。
レイアがそう言っていたことが、オレのなかで引っかかっていた。
「ワガママかもしれません。ですが、私はただ、みんなに優しくしてもらいたいのですよ。こんにちは、って手を振り返してもらったり、今日もいい天気だね、って他愛もないことを話してもらいたいのです。魔術師なのに、そんなことを望むのは、ワガママかもしれませんが」
両親もおらずに、あの山奥の教会でひとりで暮らしていたのだろう。その光景を想像すると、オレのなかにもプロメテの寂しさがなだれ込んでくるかのように錯覚した。
ふんふん、と歌を口ずさみ上機嫌でプロメテは山をおりてきた。
許してもらえることを期待していたのだろう。
火を召喚できて、よくやった。
周りからそうホめて欲しかったのかもしれない。
けど――。
周囲はプロメテのように、素直ではないのだ。
領主であるロードリは、プロメテが復讐を企んでいるのではないか、と怖れている様子だった。
「ここの連中じゃなくても、きっとプロメテに優しくしてくれる人は、他にもいると思うよ」
オレが見た感じでは、ここの連中は、とてもじゃないがプロメテに優しくしてくれそうな雰囲気ではなかった。
「そうですね」
と、プロメテは眉間にシワを寄せて、微笑んでいた。
ムリに微笑んでいることがバレバレだ。
「悪い。この程度のことしか言えなくて。チカラになってやりたいんだがな」
「あ、謝らないでくださいです! 魔神さまは、ただそこに居てくれるだけで、ありがたいのですよ。明るいし、それにとても温かいのです」
オレの発する光りが、プロメテの顔を照らしていた。
「何か困っていることがあるなら、言ってくれよ。他にもオレがチカラになれるようなことがあるかもしれんし」
魔神アラストル。
その名に違わぬ働きを、オレだってしたい。
「頼りに、させていただくのですよ。あらためて、よろしくなのです。魔神さま」
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