《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

3-3.魔神さまは動けない

「くそぅ」
 と、オレは声を漏らした。
 動こうにも、オレは動くことが出来なかった。


 依然、執務室。


 ロードリも小隊長もおらず、ひと気はなかった。とは言っても、廊下のほうからは声がするので、見張りはいるのだろう。


 ただ、薄明るく文字の光る書籍があるだけだ。


 オレは、鳥籠のようなカゴのなかに入れられていた。


 出来ることなら、プロメテを助けに行きたい。みんなに許してもらいたいとプロメテは言っていたのだ。そのためにオレを召喚した。そして母親と自分を迫害してきた人たちのために、火を持ってきたのだ。


 そんなプロメテから、火を奪い取って、地下牢に閉じ込めてしまう。オレにとって、それは許容できないことだった。


 いや。
 理屈なんか関係ない。


 あの娘のために、どうにかしてやりたい。そういう気持ちが、オレのなかに萌芽しているのだった。


 どうにかしてやりたいのに――。


「ふぬぬぬぬッ」
 動けないのでは、どうにも出来ない。


 これが魔神?
 魔神と呼ばれているくせに、こんなに不便なものなのだろうか。もっと隠された能力があるはずだ。
 だって魔神なんだし。


 ガチャ……


 トビラが開いた。


 革の鎧レザー・アーマーを着た騎士が、部屋に入ってきた。


 脱走しようとしていることがバレると厄介だ。オレは大人しくしているフリをしていた。もっとも、脱走しようにも1歩も動けないわけだが。


「よっ」
 と、その騎士は気安く挨拶をしてきた。


「あぁぁぁッ」
 よくよく見てみれば、その革の帽子レザー・ヘルムの下にあるのは、あのレイアとかいう女盗賊の顔なのだった。


「しーっ。静かにしろよ」
 と、レイアは鼻先に人さし指を押し当ててそう言った。


「なんだ? またオレのことを盗みに来たのか?」


「違げェよ。助けに来てやったんじゃないか。魔術師の嬢ちゃんは捕まっちまってるんだろ」


「よく知ってるな」


「だから言ったんだよ。健気を通り越してバカだってな。こんなことになるだろうと思ってた」 と、レイアはオレの入っている鳥籠をつまみあげた。


「どうするつもりだ?」


「暗闇症候群を治してもらった借りがある。それに、魔神さまを、ここの連中に独占されるのも困る。魔術師のお嬢ちゃんを助けてやるよ」


「顔はもう良いのか?」


 出会ったときは、顔を包帯で覆っていた。その包帯の下は、黒く溶けていた。つい数分前のことだが、今はその顔がキレイに整っていた。
 とても盗賊とは思えない、キレイな紅色の目をしていた。


 レイアはもとの顔立ちは整っているのだが、すこし粗暴な雰囲気がある。盗賊だという先入観があるからかもしれない。


 そのすこし荒んだ気配が、女性としての魅力を損なわせているのであって、チャント身形を整えれば、美少女になる予感があった。


「おかげさまで、見ての通り、完治したよ」
 と、レイアはニッと笑って見せた。


 笑うと意外にも愛らしい八重歯がかいま見えた。


「痛みとかも?」


「ないよ」


「そりゃ良かった」


「魔神さまも、私のことを心配してる場合じゃないだろ」


「ホントに助けてくれるのか?」


「もちろん。借りは返す」
 と、レイアはオレのことを持ったまま、堂々と部屋から出た。


 オレは光っているし、隠せるようなものでもない。でもまさか、こんなに堂々と持ち去るとは思わなかったので、無策としか思えなかった。


 部屋の出入り口にはトウゼンながら、見張りの騎士がいた。


「おい」
 と、見張りの騎士に呼び止められた。


「なんでしょうか」
 と、レイアは作った声で返していた。


「魔神さまを、どこへ持って行くつもりだ?」


「はッ。ロードリさまから持ってくるように言われたので。どうやら肉を焼いてみるそうであります」


「そうか」
 と、騎士はそれで納得したようだ。


 レイアは騎士たちと同じく革の鎧レザー・アーマーをしているし、仲間だと勘違いしてくれたのかもしれない。


「よく今ので通れるな」


「堂々としてりゃ、意外と怪しまれないものさ」


 盗賊稼業でつちかってきた経験から物を言っているのだろう。


 だけど、ヤマシイことをしておいて、堂々としていられる度胸を持つことが出来る人間なんて、そうそういないんじゃないか、と思う。


「参考になるよ」


 くくくっ、とレイアは声が漏れないようにして笑っていた。


「あんたは魔神さまなんだから、堂々としてりゃ良いだろ。別にヤマシイことがあったって、魔神さまは魔神さまだ」
 と、オレの入れられている鳥籠の檻を、レイアは指ではじいた。


 キーン
 金属音が響いた。


「そういうもんか?」


「神はゼッタイだからな」


「どういう理屈だ。そりゃ」


「この世界を闇に閉ざしちまっても、べつに誰も神を恨みやしない。恨まれるのは、魔法を盗んだ魔術師だ。神を恨もうなんざ、誰も思わねェだろ。そりゃ神がゼッタイだからだろう」


 レイアはそう言うと、石段を下りて行く。
 レイアの足音がしずかに響く。


「オレは神なのか?」


「魔神って呼ばれているからには、神さまなんじゃないのかい?」


 そう――なのかもしれない。


「プロメテはカワイソウだな。1000年も前の先祖の罪を、背負わされてるなんてさ」
 と、オレは同情を禁じえなかった。


「親にそう教え込まれたんだろう。自分たちは、魔術師だから、罪を償うために、炎の魔神アラストルを召喚する必要がある、って」


「魔術師ってのは、代々ずっとそうなのか?」


「そう、とは?」
 と、レイアはオレの入っている鳥籠のなかを覗きこんで、尋ねてきた。


「だから、ずっと贖罪のために火を――オレを召喚しようとして来たのか、ってことだよ」


「私は魔術師じゃねェから、詳しくは知らねェよ。だけど、そうなんじゃねェかな。ずっと迫害されてきたわけだし」
 と、レイアは、頭の赤毛を指でカきながらそう言った。


 プロメテの母は、この都市の連中に迫害されたあげくに衰弱死している。そう聞いた。


 原初の魔術師が、天界から魔法を盗んでしまったせいで、後世にまで罪がおよんでしまったのだ。


 悲劇の一族、というわけだ。


「ずっと迫害されてきたのに、その迫害してきた相手のために火を差し出したりするもんだろうか?」


「普通は、そんなことはしねェだろうさ。だから言っただろ。健気を通り越してバカだってさ」


 どういう含みがあったのかわからないが、ふん、とレイアは鼻で笑って見せた。


「……」


 バカとまでは言いたくはないが、すこし異常な気もしてきた。


「善行ではなくて、義務になっちまってるのかもな」


「善行ではなくて、義務……」
 レイアの言葉を、オレはハンスウした。


「つまりさ。みんなのため――って言うよりかは、贖罪のために、しなくちゃいけない――って思ってるんじゃないか、ってことだよ。一族の教えに縛られちまってるんじゃねェかな」


「さあ、プロメテの心のなかは、プロメテにしかわからんことだな」


 これで許される。
 そう言って笑っていたプロメテの笑顔が、オレの胸裏で思い出された。

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