《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

1-3.カンテラの中の魔神

 20分ほどだろうか。
 すぅすぅ、とプロメテはヒザを抱えて眠っていた。


 よほど疲れていたのだろう。石造りの壁に、後頭部をあずけるようにして眠っていた。口をおおきく開けて、ヨダレまでたらしていた。


 自分という存在が、プロメテに安心感を与えているのかもしれない。そう思うと、役に立てているようで心地が良かった。


 彼女は全裸だ。見ようと思えば、いくらでも観察できるのだが、遠慮が働いたので、あまり見ないようにしておいた。


「お、こうか。なるほど、なるほど」


 プロメテが眠っているあいだに、濡れた服を乾かしておくことにした。


 焦がさないように注意したり、炎の加減を調節したりする行為は、このカラダの扱い方の練習にもなった。
 オレが動くたびに、教会内の陰影が揺らめいていた。


 ひとつ気づいたことがある。どうやらこのカラダでも、腹は減るらしい。薪を食べることによって、腹は満たされるようだ。さきほど与えてくれた薪は、オレの腹を満たしてくれた。


 消えたりするのかな?
 炎なのだから、濡れたりしたら消えちゃうかもしれない。だったら、死ぬのだろうか。


 セッカク異世界転生を起こしたというのに、濡れて終わりというのは、あまりにも儚い。


「んあ……。申し訳ありません。どうやら眠ってしまっていたようです。魔神さまの前で、居眠りをしてしまうとは」


「気にするな。いい寝顔だった」


「あわわ、ヨダレまで垂らしてしまっていたのですね」
 と、プロメテは両手のひらで自分の顔を、ナで回すようにしていた。


「服、乾いたぜ」


「ありがとうございます。何から何まで世話になるのですよ」


 オレが乾かした衣類を、プロメテはまとってゆく。


「どうだ? まだチョット湿気てるかもしれんが」


「大丈夫なのです。すごく温かいのでありますよ。魔神さまの温もりに包まれているような感覚です」


 ぶるぶると、嬉しそうにプロメテはカラダを震わせていた。そんなに嬉しそうな反応リアクションをしてくれると、こっちまで嬉しくなってくる。


「さっきのクロイは、もう来ないかな」


 天井には穴が開きっぱなしだし、トビラも開け放たれている。侵入して来ようとすれば、どこからでも入ることが出来る。まぁ、さっきはトビラをぶっ壊していたし、トビラなんてあっても侵入を許すことになる。


「わからないのですけど、魔神さまがいれば、大丈夫なのですよ」


「だと良いが」


 さっきは偶然、撃退できたかもしれない。クロイという存在について、オレはまだまだ知識が浅い。
 たった1度の撃退で、悠長に構えていられるほど能天気ではなかった。


「無事に、魔神アラストルさまを召喚することが出来たので、私は都市へ行きたいと思うのですが、いっしょに来ていただけますでしょうか?」


 まるでオレの機嫌をうかがうかのように、おそるおそるといった様子で、薪を追加してくる。薪は、ありがたい。素直にいただくことにした。パクリ。炎のカラダで飲みこんだ。
 この雨のせいか、すこし湿気ているのが残念だが、オレの火力に支障をきたすほどではない。


「何か助けになれるようなことがあるなら協力するけど、いかんせん、動けそうにないんだよな」


 手を動かす要領で火を自在にあやつることは出来る。しかし前に進むことが出来そうにない。


「それなら大丈夫です。カンテラを用意してありますので」


 プロメテはそう言うと、部屋の隅にあるクローゼットへと向かった。そして緑色がかった筒状のものを引っ張り出してきた。


「そこに入るのか?」


「ダメでしょうか?」
 と、眉を「八」の字にして、オレの様子をうかがってくる。


 出来れば付き添ってやりたい。
 こんな少女を暗闇のなか一人で歩かせるのは心配だ。オレだって、こんな古びた教会で、放置されたら困る。


「ひとつ心配していることがあるんだが」


「はい」


「オレは、消えたりしないのかな? 外は雨が降ってるみたいだし、降られると消えちゃうかもしれない」


「いえ。魔神さまの火は、決して消えることはありません。だから魔神さまなのです」


「そう――なのか」


「運ばせていただきます」


 プロメテはそう言うと、緑色のヘラのようなもので、オレのカラダを持ち上げた。そして、同じく緑色がかったカンテラのなかにおさめてくれた。


 鉄――ではなさそうだ。
 この世界に火がないと言うのなら、鉄を溶かしたりも出来ないのだし、何か特殊な材質なのだろう。


「お、意外と心地良いな」


「それでは出発するのですよ。魔神さまを召喚できたこと。みんなに伝えなくてはなりませんから。きっとみんな大喜びしてくれるのですよ」
 と、プロメテはうれしそうだった。

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