迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」

かぐつち

第69話 高い注文

「この店だ、此処らでは一番腕が良い。」
クマさんの案内で仕立て屋の前に着いた。この間の灯が服を買っていた店だった。
「これを作ってもらいたいんだが。」
荷物からツエルトを取り出して、店主に渡す、何気なく受け取った店主が、生地を見て目を見開いた。
「なんですこの目の細かい生地、虫糸(シルク)かなんかですか?それに目の覚めるような色、こんな生地作れませんよ。」
確かにその蛍光イエローだかオレンジの生地はこっちでは見たことない。でも、シルクならある意味当たっている、初期段階でのキャンプ用品はシルクが強かった。
「いや、生地を作ってくれって意味じゃないんだ、広げてみてくれ。」
広げると、でろんと広がった。付いている紐も一緒に垂れ下がる。
「?」
首をかしげている。
「こいつ、和尚が使っているテントなんだが、骨も無くて軽くて使いやすそうでな、あんたの所なら複製作れないかって事で持って来たんだ。」
「構造が分からないのですが・・・」
「しょうがない、セットしてみてくれ。店の裏借りるぞ。」
「はいどうぞ。」
店主に案内されて、裏に回った、丁度良い木も有ったので、特に問題無く設営できた。
「なるほど、骨の部分を外の木に肩代わりさせるから本体に骨が要らない訳ですか。」
店主はまじまじとツエルトの構造を確認している。
「俺たちが使っているテントは骨を一緒に運ばなならんから嵩張る上に重くてな、一張でコレだからな。」
クマさんが背負っていた背嚢をでんと下ろして見せる、テントの骨らしき物がはみ出していた。
「テント扱ってるのは雑貨屋だが、明らかに構造が違う、普通のテントは動物の皮と木材か骨だ、こっちは布地と紐だからな、しかも仕事が荒いからこれを参考にと言うと破きかねん、だからこっちに持って来た。」
「なるほど・・・」
色々と気を使っていたらしい。
「出来れば生地にこういう加工ができると良いんですけど。」
会話に割り込んで、ひょうたんの水筒から水をツエルトに垂らす、コーティングはある程度落ちているが、ある程度は水滴が玉になって弾け、剥げている部分でも水が敷きこまずに表面を流れていく。
「え?」
店主が目を疑っている様子だ。
「こんなんです。」
もう一度流し込む、水は表面を流れていくが、染み込まない。
「油かなんかですか?」
「似たようなものです。この生地が細かいお陰もありますが。」
「余計に真似出来ませんが・・・・」
「ミツロウや木蝋、ワックス有ったら其れ溶かして沈めれば行けます、もしくアスファルトやタールですけど、あれだと毒気が強いので、お勧めできませんよね?
生地のベースは一番細い糸、虫糸(シルク)ですね。カイコでもモスでも蜘蛛でも・・・」
「凄く高くなりますよ・・・?」
店主が遠い目で恐る恐るクマさんに確認する。
「幾らになる?」
「純粋に言う通り虫糸(シルク)の生地使った時点で金貨10枚ですね、ミツロウ使って金貨一枚追加で、11枚。ベースの生地が大きいので蝋の量も半端じゃありませんから・・・・」
「安い材料だと?」
「木綿や麻に固まりやすい獣脂を染み込ませれば多分最低限の用は足りるはずです、当然、虫糸(シルク)より生地が厚いので嵩張るし重くなりますが・・・」
「値段は?」
「それでも金貨2枚って所ですね、生地の量が在りますから。」
「ふむ・・・」
「アスファルトやタールって言う線も無くは無いですが、船の底か外壁に塗るものですからね、分厚いですし、匂いと毒が抜けるまでは時間がかかるので無理がありますね。そもそもこの辺特産地じゃないので、安くありませんし。」
場合によっては密閉されるので無理な線だ、元から無い物として例に出したのだが、真面目に検討してくれているらしい。
しかし、こうして現代の装備品を昔の貨幣価値に直すとえぐい事になる、こうしてみると凄く安くてお得だったんだとしみじみと感じる。60年前にスマートフォンを持って行ければとんでもない価値がとかと同系統なので、何とも言えないネタではあるが。ちなみに、このツエルトはちょっと良いもの程度の扱いで、あちらでは2万円前後で売っていたものだ、化学繊維と工業生産の恩恵はすさまじい。
今向こうの世界に戻れたなら、「わあ!安い!」と、買い締めかねない。
「流石に高いな・・・」
「ですよねえ・・・」
クマさんと店長が困り顔で呟く。
「普通のテントっていくらぐらいです?」
相場が解らないので聞いてみた。
「こういう皮と骨ので大銀貨5枚って所だな。一番安い皮と木の奴よりは若干軽い。」
だが重いんだと呟いている。
「なるほど・・」
「で、和尚としてはどう見る?高いの買うか?安いのにするか?」
それは山男には愚問でも有る。
「最終的に命を懸けるものですから、予算の許す範囲で高い物を。」
山男や運動する者の装備品の値段は命の値段である、ヘルメットとか最たる物だ。
冒険者はそれ以上に命懸けなので安物は買えない筈だ。
「そうだな、よし、一番良いので頼む。」
値切り交渉に行かないのは立派だと思う。
「金貨11枚ですけど、良いんで?」
「男に二言は無い、だが、頭はこれで頼む。」
クマさんが金貨を3枚ほど出した。
「はい、流石に高いですからね、でも、早目にお願いしますよ?足が出ると私が潰れます。」
「ああ、今日はそのテント預けておくから、型とってくれ、解体するんじゃないぞ?」
「そんなことしませんよ、どっかの野蛮人じゃないんですから。」
店主がはははと笑う。
「じゃあ頼んだ。」
「はい、任せて下さい。」


「さて、俺は既に大体無一文だ、稼ぐから付き合え。」
店を出て。クマさんが豪快にガハハと笑う。
「稼いでるんじゃなかったんですか?」
取り合えず突っ込む。
「冒険者は宵越しの金は持たないんだよ。」
前回そういえば盛大におごるとかやって居たな、納得。
「リーダー、注文終わりました?」
店から出ると他のPTメンバーが集まってきた、どうやら待っていたらしい。
「ああ、大分高かったから無一文だ、稼ぎに行くから付き合え。」
「おー。」
「まったく、うちのリーダーは・・・」
「何時も通りですね・・・」
「何時も通りなんですね?」
口々に呆れ気味に呟いて居るので、突っ込みを入れておく。
「そんなわけで、ちょっと高めのクエスト行きます、期待してますので。」
「出来る限り頑張ります・・」
期待がかけられているので、謙虚に答えておく。
「和尚のテント無いから日帰りでな?」
「はいはい、近場ですのでご安心を。」
こうして、クマさんの出費をカバーするために、深紅の翼のメンバーは駆け回ることになった。

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