迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」

かぐつち

第57話 羊の収穫

これは次投稿する本編とはちょっとズレる外伝枠です。(平常運転ではありますが)

「羊の時期です。収穫行きましょう。」

例のごとくギルドで依頼を探していると、エリスが手ごろな依頼を見つけたらしい。

「毛刈りかなんかか?」

「モフモフしてるのは良いですよね。やってみたいです」



森の中を歩くと、不意に下草が消えた、木の皮もボロボロになっている。

鬱蒼とした森なのに此処だけ歩きやすい。

犯人を捜すと、植物の先にくっついた羊が周囲の草を食い荒らしていた。メエーと鳴き声を上げている、少なくともこれは羊とは違う生き物だと思う・・・

「なんですアレ?」

「えーっと、植物版のバロメッツだっけ?」

灯が変な物を見たと言うリアクションで呟く。

記憶の片隅にあるファンタジー知識から名前を絞り出した。

「プランタ・タルタリカ・バロメッツです。」

エリスが正式名称を告げる、エライ大仰な名前だ・・・

「名前長いな・・・」

「何がどうなってああいう生き物なんです?」

思わず俺が長い名前に突っ込みを入れ、灯が質問した。

「食草植物って言う分類なんですけど、見ての通り、植物の先が羊で、草を食べます、食べた草を栄養にして、本体の草に繋がってると赤い実が大きくなるんですけど。身が熟すと同じように羊が出てきます、周りの草を食べ尽くすと、繋がって居る茎を自切して、遠くに歩いていきます。茎が切れると直ぐ死ぬんですけど、他の肉食獣に食べられて、頭の中にある種がこぼれて、又生えるって言う生存システムです。」

「えらい高度なライフサイクル・・・」

「ハエトリグサの先っぽが羊の形してるだけと言えば納得でしょうか?」

「結局どう収穫するんだ?」

「あの羊の部分を仕留めて、そのまま持ち帰ります、肉の部分は何故かカニっぽい味で、毛の部分が木綿になってます。捨てる所が無い素敵植物です。」

「なるほど便利。」

「羊なのに羊毛じゃないんですね・・・」

灯が突っ込む。そこは謎だがそんな事に成ってる。

「放っておくと狼とかに横取りされちゃうので、生えてくる時期にこうして収穫するんです。」

「殴るよりは刺したり切った方が質が良いので、和尚さんお願いします。」

「はいよ。」

「そもそもあの茎凄い硬いんで、普通の剥ぎ取りナイフだと中々切れないんです。自切も自分で切るつもりにならないと節が取れないんです。」

槍で素直に首の下辺りを切ると、素直に死ぬらしく、動かなくなった、血液の色が赤では無く、草の汁らしく緑色だ、謎生物・・・

ある程度勢いをつけて茎の部分も切る、確かに感触は堅かったと言うか、槍の穂先が欠けてる、研ぎ直しに出さなくては・・・

同じようにメーメー言って居る他のバロメッツも処理する。

「これって種まかなくても良いのか?」

このギルドでの植物系は結構保護が厳しい。

「この植物、凄く土地がやせるんで、撒く場所ギルドが管理してるんです、一回生えた場所は来年生えなくて、ローテーションしないと行けません、今回は次の場所決まってるんで、あっちですね。」

地図を出して場所を指定する。ここが現在地で、あっちと。



出先で解体というか、頭を二つに割って種を取り出す、頭蓋骨の部分が種になっているらしい、何でそんな奥に・・・

そんな事を考えながら種を引っ張り出していると、何か近づいてくる気配があった。

「狼です、羊の収穫には付き物です、気を付けてください!」

灯とエリスが足音から逃げる様に俺の後ろに位置関係を修正する。

どうやら、匂いに釣られて来るらしい。気配として複数だ。

「南無八幡・大菩薩!」

茂みの向こうのに獲物の陰を見つけ。

一先ず槍を投擲して減らす方向で行く、ギャインと叫び声が響いた。

腰に刺している予備の剣を抜いて構える。

何時もの流れならこれで逃げるが・・・

足音が近づいてくる、ん?来るの?

どうやら興奮状態らしい、理性でも壊す臭いがあるんだろうか?

走って来るもう一匹に、剣を叩き付けた。

キャインと、叫び声をあげて動かなくなった。



「終わりかな?」

構えを解かずに、死体を確認する、前にもいたな、この狼だか野犬だか。

「流石に狼二匹を苦も無くやられると色々立つ瀬が無いですが、流石です。」

エリスが安心したが、ちょっと複雑な様子で呟く、確かに苦も無く処理したが、これそんなに強いのか?

「前回よりも大分余裕ありましたね?」

灯も判ったらしい。

「わかるか?」

「和尚さんの顔つきで。」

「そりゃあな・・・」

あの時は灯が襲われそうになって焦った分がある。

「森林狼は小さいですけど、必ず2頭以上で物陰から来るんで、初心者殺しです、ソロだと酷い事に成ります。」

「だが、これ普通一匹倒したら逃げるだろう?」

「バロメッツ処理すると、あの匂いに興奮作用あるので、近くに群れがあると怖い事に成るんです・・・」

「2匹で済んで良かったな。」

「本当に・・」

エリスがため息を付いた。



「ここに埋めて終わりと・・・」

「はい、この辺ですね。」

エリスが地図を広げて位置を確認する。

虚空の蔵からスコップを取り出して穴を掘り、種を埋める、流石に完全に見ているだけでは何だったらしく、灯とエリスがスコップを振り回している。

俺は休憩を兼ねた周辺警戒だ。



「埋め終わりました。」

ぱんぱんとスコップで叩いて、穴を埋め戻す。

「お疲れ様、それじゃあ戻るか。」

「「はーい。」」



ギルドに報告しに持ち込んだ所、頭だけ切り落として埋めてもよかったと言われた。

種をきっちり取り出すと匂いで酷い事に成るらしい、いや、それは先に言ってくれ。

言うほど苦労してないけど・・・



ちなみにバロメッツの査定は一匹金貨1枚、狼は一匹大銀貨5枚だった、狼は肉と皮が小さいので安いらしい。バロメッツ4匹、狼2匹で、トータルで金貨5枚だった、どう言う訳かバロメッツは魔の森でしか生育できず、下手なPTに依頼すると群れに囲まれて帰ってこないので高かったらしい。



肉をは確かにカニっぽかった、本気でどんな生き物なのやら・・・

          

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