水晶を覗くばあさん

文戸玲

戻りたい女⑦ 告白

「子ども,出来てん」


 メインディッシュを食べ終えるころにデザートとドリンクを聞きに来たウェイターが去ったのを確認してから,「話がある」と切り出した。

 食器を置いて口元を引き締めてじっと見つめる私に,卓也さんは真剣な表情で向き合ってくれた。
 もしかしたら,この人は私の望む答えを出してくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱かせる誠実な姿勢だった。

 でも,卓也さんの反応はどっちつかずで,私はどう受け止めたらいいのか分からなかった。


「それは,おれたちの子・・・・・・ってことかな」


 仕事が忙しくて,もしかしたら他のことは考える溶融がなかったのかもしれない。それでも,喜んで欲しかった。
 卓也さんは,眉間にシワを深く刻んで,明らかに困っている様子だった。

 もし,卓也さんにこのことを打ち明けていたら。もし,卓也さんときちんと向き合っていたら・・・・・・
 そんな想像を何度もした。でも,私は間違っていたのかもしれない。

 わずかな希望で蓋をして押しとどめた感情を,一気に流れ出そうになった。
 ギッと目に力を込めて,こぼれ出そうになるものをなんとか抑える。
 そんな私を見てまずいと思ったのか,卓也さんはしどろもどろに話をつないだ。

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