私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~

阿弥陀乃トンマージ

海岸にて

                   

「いきなりジャージに着替えろとは何事かと思ったけど、到着早々に海岸のゴミ拾いをすることになるとはね……」

「毎年恒例のことですから」

 学園指定の水色のジャージになった葵のぼやきに同じくジャージ姿の爽が答える。

「恒例行事なんだ……」

「ええ、そうです」

「ざっと見た感じ、かなりの量があるね……」

「この清掃の為に、あえて元の状態よりも汚くしているとも言われていますからね」

「な、なんの為にそんなことを?」

 葵の問いに爽が眼鏡を抑えながら答える。

「合宿ですが、どうしても浮ついた気持ちで臨む生徒が多いので、その気持ちをビシッと引き締めるのが一番ですね……地域貢献という意味合いもあります。この海岸と海水浴場は合宿期間外は一般の方も利用可能ですから」

「なるほどね……」

「葵様は無理に参加しなくてもよろしいかと思いますが……」

「いやいや! そういうわけにはいかないよ!」

 ブンブンと首を振る葵を見て、爽は微笑む。

「では、軍手とゴミ袋とトングです。可燃ゴミや不燃ゴミの分別など、分からないことについては、緑の腕章を着けている生徒に質問して下さい。箒やちりとりなど、他に必要な道具はあのブルーシートの上に置いてありますから、必要に応じて使って下さい」

 爽から軍手とゴミ袋とトングを受け取りながら葵は周囲を見渡して尋ねる。

「これって、基本全員参加なんだよね?」

「ええ、初日のこの清掃活動は例外なく全員が参加します」

「そのわりには人数少なくない?」

「海岸と言っても、いくつかのブロックに分けてあります。更に近隣の施設や町内のほうの清掃を担当するグループもいますから」

「ああ、そういうこと……」

「知り合いの目が少ないからって気を抜いてはいけませんよ」

「どわっ! 先生 」

 葵の後ろに光太が立っていた。眼鏡がキラリと光る。

「そんなに驚くことですか?」

「そりゃ、いきなり後ろに立っていたら驚きますよ!」

「それは失礼……」

「せ、先生も参加するんですか?」

「勿論です。教職員も原則全員参加ですから」

「ふむ……」

 光太は自分に視線を向ける爽の目を見てはっきりと答える。

「伊達仁さん、これは本当に偶然なのです。教職員並びに生徒たちのグループ分け、担当ブロックの振り分けに私は一切関知しておりません」

「……信用しましょう」

「それはなにより。公平な審査をお願いしますよ」

「審査というのが今だによく分からないのですが……分かりました」

「何々、なんの話?」

「なんでもありません、こちらの話です」

「ふ~ん?」

 葵は首を傾げる。光太はポンポンと両手を叩いて話を変える。

「さあ、さっさと終わらせてしまいましょう」

「は、はい……」

「上様、ごきげんよう!」

「うわっ 」

 目の前に落ちているゴミを拾おうと屈んだところ、前方から急に声がした為、葵は驚いて尻もちを突きそうになる。

「……あ、尾成さん……おはようございます」

「どうかされましたか?」

「い、いや、急に声をかけられるものですから……」

「それは失礼致しました」

 尾成金銀は恭しく頭を下げる。葵は立ち上がって問う。

「なにか御用ですか?」

「素敵な御提案をと思いまして」

「は、はあ……」

「あ、ご紹介が遅れました、こちら、三年は組の副クラス長、山王将司君です」

 金銀は自らの斜め後ろに立つ男子生徒を指し示す。

「あ、初めまして、若下野葵です」

「さ、山王将司です」

 葵は頭を下げる。将司もそれより深く頭を下げる。

「話は戻りまして……上様、一つゲームを致しませんか?」

「ゲーム?」

「ええ、退屈極まりないこの清掃活動に取り組むモチベーションを少しでも盛り上げようではないかと思いまして」

「別に退屈とか退屈じゃないとか、そういう問題じゃないと思いますけど……」

「まあまあ、そうおっしゃらずに……」

「私たちだけが遊んでいる場合じゃないんですよ」

「無論です」

「お分かりなのであれば……」

 葵は話を切り上げて、清掃活動を行おうとする。金銀は慌てて止める。

「ゲ、ゲームというのはいささか表現がマズかったかもしれません! 勝負……そう、正々堂々と勝負を致しましょう!」

「勝負?」

 首を傾げる葵に対し、金銀が説明する。

「そうです! 二人一組のペアになって、どちらがより多くのゴミを拾い集めることが出来るかを競いましょう!」

「ふ~ん、面白そうですね……」

「乗ってきた 」

 将司が小声で驚く。

「ふふっ、そうこなくては!」

「じゃあ、私はサワっちとペア?」

「それでは面白くありません! 新緑先生にご参加頂きましょう!」

 金銀が懐から取り出した扇子を光太に向かって指し示す。

「私ですか……まあ、清掃活動を行うというのなら止めはしませんが」

「いや、そこは止めるべきだろ!」

 将司が再び小声でツッコミを入れる。

「伊達仁さんには厳正な審判をお願いしましょう」

「かしこまりました……ジャッジすることが増えました」

 爽は頭を下げながら小声で呟く。

「それではいざ尋常に勝負……」

「ちょっと待った」

「 」

 葵たちが視線を向けると、そこには氷戸光ノ丸とその秘書、風見絹代が立っていた。

「何やら面白そうなことをしているではないか、尾成殿。余と絹代も混ぜてくれ」

「ええっ 」

 意外な人物の乱入に葵は驚く。

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