私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~

阿弥陀乃トンマージ

南北の溝

「す、凄いね、一年生で町奉行なんて……」

「黄葉原殿は子供の頃から『神童』と称され、小学四年生からご公議に奉職。各職を歴任し、この一月に南町奉行に就任されました。学業も大変優秀でいらっしゃいます」

「小学生の頃から……! 本当に凄いね」

「いえいえ、そんな……大変恐縮です」

 爽の補足説明に感心する葵。南武は小さく首を横に振った。

「恐れ入りますが……本日はどういった御用向きでいらっしゃったのでしょうか?」

「ああ、それなんですけど……」

 葵は一枚の紙を取り出した。

「将愉会に匿名で投書がありまして……」

「投書……でございますか?」

「そうなんです」

「どういった内容なのでしょうか?」

「えっと……『南町奉行所と北町奉行所との関係を改善して欲しい。現在両者の間には溝が深まってきており、業務を円滑に進める上で色々と支障が出てきている為……』一部抜粋すると、こういった内容です」

「ふむ……それでどうしてこちらの南町に?」

「ご都合がついたのがこちらだったので、北町の方は今日はお忙しいみたいで……」

「成程……今月は北町の方が『月番つきばん』ですからね」

「『月番』?」

「はい。我々町奉行所は月ごとに交代で訴訟の受付を行っております。今月の担当は北町。よって現在こちらの南町は非番の月になります」

「そうなんですか」

「町奉行所には大小様々な訴訟が持ち込まれてきますから、その対応に忙しいのでしょう。勿論、非番の奉行所も丸々休みという訳ではありませんが」

「関係改善の要望が出ている訳ですが、何か心当たりはございますか」

 爽からの質問に南武は答える。

「町奉行の業務というのは、司法のみならず、行政や治安の維持等、多岐に渡ります。その中でも特に行政面でおいて意見がぶつかり合うことが多いです」

「……そうですか」

「南北両奉行所の代表者が参加して『内寄合ないよりあい』という会合を定期的に設けています。そこで様々な案件について、意見の統一、擦り合わせを行うわけなのですが……最近は正直まとまらない、結論が持ち越しになるということが多くなってきました」

「それで業務が一部滞ってきている……ということですね?」

「大変情けない話なのですが、その通りです」

 南武はそう言って、視線を落とした。爽は葵に尋ねる。

「如何致しましょうか、葵様?」

「……当たり前の話だけど、どちらの奉行所も真面目に業務に当たっているからこそ、意見がぶつかる訳だよね?」

「……まあ、そうなりますね」

「面倒でも問題は一つ一つ、丁寧に片付けていかなければならないよね」

「ええ、おっしゃる通りです」

 爽から同調を得た葵は南武に話し掛ける。

「黄葉原君、両奉行所間の目下最大の懸案事項は何なのかな?」

「最大ですか? そうですね、やはり……」

「やはり?」

「大型建築物建設によって生じる諸々の問題でしょうか」

「諸々の問題?」

 首を傾げる葵に対して、南武が懐から情報端末を取り出して説明を続ける。

「実は地図で言うと、この辺りに大型建築物……要は高層ビルですね、それを建設する計画が持ち上がっているのです」

「高層ビルが何らかの基準を満たしていないのですか?」

 爽の質問に南武は首を振る。

「いいえ、構造上は何ら問題ありません」

「それでは何故に?」

「……この近辺は古くからの日本家屋が多く立ち並ぶ地域なのです」

「成程……景観上の問題というわけですか」

「そうです」

「えっと……ごめん、どういう問題になるのかな?」

 話の腰を折る形となって申し訳なさそうな葵に爽が説明する。

「葵様、景観保持法というのはご存知ですか?」

「景観保持法?」

「至極簡単に言うと、その地域全体の調和を整えたり、長い歳月をかけて形成されてきた伝統ある街並みを尊重しようという法律です。公布されたのは比較的最近のことですが」

「ふーん……じゃあこの高層ビルはその法律に違反するの?」

「……違反とまではいきませんが、抵触する恐れがあるのではないかという意見がチラホラと出てきています」

 葵の問いに南武が答える。

「黄葉原君はどう考えているの?」

「……僕個人としても、南町奉行所としても、建設に全面的に反対という訳ではありませんが、計画は一部見直すべきではないかと考えております」

「一方、北町奉行所は賛成しているということですか?」

「消極的な考えも一部にはあるようですが、北町奉行をはじめ、概ね積極的賛成という意見が大勢を占めているようですね……」

 爽の言葉に南武は頷く。

「そうなんだ……」

「葵様? 懸案事項をお尋ねになられてどうするおつもりですか?」

 何やらじっと考え込む葵に爽が尋ねる。やがて葵が口を開く。

「黄葉原君、その内寄合というのはいつでも開けるものなの?」

「いつでもというとやや語弊がありますが、話し合うべき必要性がある問題が生じれば、両奉行所関係者の都合さえつけばすぐにでも開くことが出来ます」

 南武が戸惑いながらも、葵の疑問に答える。

「サワっち、考えがあるんだけどさ……」

「成程……分かりました。そのように取り計らいましょう」

 葵の耳打ちに爽は頷く。

「あ、あの、一体どのようなお考えなのでしょうか?」

 困惑する南武を爽が制する。

「落ち着いて下さい。わたくしからご説明させて頂きます」

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