私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~

阿弥陀乃トンマージ

クラスメイトは颯爽と

「えっと……」

 葵は鼻の頭をポリポリと掻いた。転入の挨拶をしたかったのだが、クラスメイト達が机に突っ伏したまま、誰一人顔を上げないのだ。葵は担任に助けを求めたが、女性の担任教師も立ったままではあるが、頭を下げているのである。これはどうしたものかと頭を抱えながら、葵は皆に声を掛けた。

「み、皆さん、顔を上げてもらえますか? ご挨拶したいので」

 葵の呼びかけに対し、クラスメイトは皆戸惑いながらも、それぞれ顔を上げる。クラス中の視線が自分に一気に集中したことに葵はやや緊張しながらも自己紹介を始めた。

「は、初めまして、府通乃女学院ふつうのじょがくいんから転入して来ました、若下野葵です。将軍のこととか正直まだよく分かっていませんが、自分なりに精一杯頑張っていきたいと思っています。これから宜しくお願いします」

 そう言って葵はニコッと微笑んだが、クラスメイトはほぼ無反応だった。すると担任教師が恐る恐る葵に話しかけてきた。

「……恐れながら上様」

「え? 上様? あ、私のことですか?」

「はい、左様でございます」

「いや、あの、普通に名字で呼んで下さい」

「い、いいえ、そういう訳には!」

「教師が生徒に様付けっておかしいでしょう? 他の生徒と同じ扱いで構いませんから」

「し、しかし……」

「校長先生と教頭先生にはその旨お伝えした筈なんですが……」

 葵は前日に校長と教頭と対面をしていた。その際も先程と同様に頭を下げられたままの状態で、何とも居心地が悪かったので、一般生徒と同様に扱って欲しいとの要望を伝えた。しかし教職員全体には周知されていなかったのだろうか。ちなみに朝の集会で全校生徒の前で大々的に紹介するという話も出たが、恐縮した葵が固辞した。だがこのままではマズいと思った葵は皆の前に向き直って語りかけた。

「い、一応今の私は征夷大将軍ということになりますが、ご存じのように生まれながらの将軍でもなんでもありません。ひと月前まで単なる女子高生でした。だから皆さんもただのクラスメイトの一人として接して下さい!」

 葵の突然の呼びかけに皆それぞれ驚いた反応を示した。しばらく沈黙が教室を支配した。

「で、では、も、若下野さん」

「はい」

「座席なのですが、この列の一番後ろになるのですが……」

「あ、分かりました」

「や、やはりお一人のクラスの方が良かったでしょうか? すみません、生憎空き教室が現在ございませんので……」

「い、いいえ大丈夫です! この二年と組でお願いします!」

 一人きりで教師とマンツーマンで授業を受けるという気まずい状態など、いくら葵が真面目な生徒だといっても真っ平御免である。すぐさま指定された座席に座った。その後ホームルームが終わったが、葵は困惑していた。明らかに他の生徒から距離を置かれているのである。自ら話しかけるべきであろうか、それとも誰かが話しかけてくるのを待つべきか、ぐずぐずしていると休み時間が終わってしまう。自らを比較的社交的な性格だと考えていた葵だったが、まさかここまで他の生徒と“壁”が存在するとは思ってもみなかっただけに、どうしても一歩が踏み出せなかった。すると……

「こんにちは」

 葵の目の前に、スラリとしたスタイルの長い黒髪の眼鏡を掛けた女性が立っていた。

「あ、こ、こんにちは!」

 葵はガタっと立ち上がって自分よりも少し背の高い相手に挨拶を返した。

「本来ならこうして口を利くのも失礼に当たるかと思いましたが……先程のお言葉に甘えて話しかけさせて頂きました。……ご迷惑だったかしら?」

「い、いえとんでもない!」 

「それは良かった。ああ、申し遅れました。わたくしは伊達仁爽だてにさわやかと言います。この二年と組の副クラス長を務めています。分からないことがあれば、何でも御気軽に御相談ください」

「若下野葵です! 葵って呼んで下さい!」

「流石に呼び捨てにするのはこちらが恐縮してしまいます……葵様とお呼びするのは如何でしょうか?」

 クラスメイトに様付けも大分おかしな話だと思った葵だったが、ここは焦らずに距離を詰めるべきだと判断した。

「ま、まあそれで良ければ。宜しく、伊達仁さん」

「ふふっ、わたくしのことは爽で構いませんよ」

「じ、じゃあ爽……さん」

「もうすぐ一限目の授業が始まりますね。お話の続きはお昼休みにでもゆっくりと」

 そう言って爽は踵を返し、自分の席に戻った。その優雅な物腰に葵はしばし目を奪われたが、教師が教室に入ってきたのを見て、慌てて席に着いた。

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