アタシをボランチしてくれ!

阿弥陀乃トンマージ

第21.5話(1) 対令正高校戦ハーフタイム~令正ベンチ~

                  21.5

<令正ベンチ>

「前半の内に先制出来たのは良かったぞ、お前ら! フワ~ッと試合を進めていた相手にとってはガツーンと来たことだろう! そうに違いない!」

「……段々と相手のペースになっていただけに、先制点を奪えたことが相手に心理的ダメージを与えることが出来たはずだ」

 令正の江取監督のコメントを田端コーチが補足する。江取はテンション高く、前半の振り返りを続ける。ベンチ前の芝生に円になって座った令正の選手たちは耳を傾ける。

「まずは守備面だが、相手ペースの時間が長かったにもかかわらず、決定的なシーンをほとんど作らせなかったことは評価出来る! 後半もこの調子でガシッと守れ!」

「……DFリーダーとしてはどうだった?」

 田端が羽黒に尋ねる。

「あ、はい、そうですね……攻撃の起点になる精度の高いキックを蹴れる菊沢さんは純心がケアしてくれましたし、姫藤さんにはほとんど良い形でボールを触らせなかったので、相手にボールを保持されてもそれほど慌てずに済みました」

「2トップに関しては?」

「武さんが上手くボールに絡めていなかったですね。ボールに触れてリズムに乗っていくタイプだと思うので、由紀と次美にこのまま上手く対応してもらえば、試合に入りこめないままで終わるでしょう。龍波さんですが、いつきがほぼ完璧に抑えてくれました」

 羽黒が隣に座る寒竹を讃える。

「あのパツキン、ポテンシャルの高さは感じるが、動きはまだまだだからな。インターハイ予選に比べるとかなり良くはなっているが……まあ、これくらい朝飯前ってやつだよ」

「とはいえ、一発があるから警戒はしておかないと」

「分かっているさ、そもそも発射させなければいいんだよ」

 羽黒の言葉に寒竹は頬杖をつきながら頷く。

「おっ、頼もしいっすね~寒竹パイセン」

「おう! 純心、存分に褒め称えろ! アタシは褒めて伸びるタイプだからな!」

「じ、自分で言いますか、それ……」

 米原が苦笑する。江取が再び口を開く。

「……次は中盤だが、羽黒も言ったように、菊沢と姫藤に仕事をさせなかったことは大きい! 相手のキーパーソンである丸井も守備に大分力を割かざるを得なかった! このままの調子でガッーと進め!」

「……あの『桃色の悪魔』ちゃんが右サイド、こちらから見たら左サイドに回ったから、それを逆手にとって、右サイドから攻めるのもありなんちゃいますか?」

 米原が水分補給しながら提案する。

「それは考えていた! だが、まずは向こうの出方をうかがう! とりあえず大和が右サイドで攻守のバランスを上手く取っていてくれる! その流れをわざわざ崩すことは無い!」

 江取は提案に頷きながらも自身の考えをしっかりと伝える。

「まあ、その辺はお任せしますけどね」

「ちょっと、純心ちゃん? カタリナは信用出来ないってわけ~?」

「別にそういうわけやないけどな、あの子に抑えられてたやん。さすがは中学の同級生、手の内は全部お見通しってわけやな」

「む~見ててよ、後半は絶対に点を取るから!」

 三角は唇をぷいっと尖らせる。

「うむ! その意気だ、三角! バーンと仕掛けて、ダーッと決めろ!」

「臆せずに仕掛けて、チャンスと見れば、シュートを撃っていけ」

「オッケー♪ バビューっと行って、ドバーっと決めれば良いんだね」

「あ、ああ……」

「コーチの補足がまったく意味を成してないやん……」

 米原は苦笑を浮かべる。羽黒が口を開く。

「後半、ビハインドを背負った相手は一点を取り返しにくるはずです。丸井さんを本来のポジションに戻してくるのではないでしょうか?」

「……こう言っちゃなんだけどよ、向こうにはカタリナを満足に抑えられるやつがあの10番以外には居ないと思うぜ。後半が開始してもしばらくはあの急造フォーメーションのままでくるんじゃねえのかな」

 寒竹が仙台和泉ベンチの方に目をやって呟く。

「そうなれば好都合だ! 石野は厄介だが、菊沢の守備は大したことはない! 椎名! 後半はもっと働いてもらうぞ!」

「……確かに不慣れなポジションの様でしたからね。後半は徐々に綻びが出てくるでしょう……そこを突かせてもらうとします」

 江取の言葉に椎名は淡々と呟く。椎名の近くに座っていた渚が尋ねる。

「妙さん、動き出しのタイミングなんですが……」

「先制ゴールと同じ位が理想的ではあるのだが、あの4番相手では同じ手はなかなか通じなさそうだな」

「そうですね……なんというか、見透かされているような気がしました」

「まあ、やりようはある、あえて逆のサイドに流れるとかな」

「なるほど……」

「え~? 相手から逃げるの~?」

「アンタはちょっと黙っとき!」

 米原がカタリナを注意する。渚は怒るわけでもなく、静かに呟く。

「私にもカタリナのようなドリブルがあれば話は別なのだがな……」

「それぞれの得意な武器でもって勝負することが大事だ」

 椎名は頷く。カタリナが呟く。

「得意な武器……」

「そうだ、お前にとってのドリブルが、渚にとってはオフザボール、ボールのないところでの巧みな動き出しというわけだ」

「……前半は少し単調過ぎたかもしれません。ポジショニングだけでなく、リズムを変えてみることも意識してみます」

「そうだな、パスは絶対に通してみせる。安心して動き回れ」

 渚と椎名のやりとりがひと段落したのを見て、江取が口を開く。

「……攻撃面は左サイドと中央主体でグワーっと仕掛けていけ! 早い内に追加点を取れれば理想的だ! タイミングを見て、右サイドからも攻撃を仕掛けるようにしろ!」

「そのタイミングっちゅうのは?」

「大和に代えて町村を投入する! そのタイミングだ!」

「なるほど……」

 米原が頷く。寒竹が笑みを浮かべる。

「あかりを下げるってことは、守りに入らず、あくまでも攻撃的に行くってことっすね」

「そうだ、格下相手に守りに入るなどナンセンスだ!」

「ははっ、格下って言い切っちゃったよ、でもそういう考え、嫌いじゃねえけど」

「別に相手を見下せというわけではない! ただ、お前らは県4強の一角、令正高校の主力メンバーだ! その誇りを持って、堂々とプレーしろ! そろそろ後半だな……羽黒!」

「は、はい!」

「キャプテンとして一声かけろ!」

 監督に促され、キャプテンの羽黒がおずおずと立ち上がる。それに従いメンバーたちも立ち上がる。羽黒は皆をゆっくりと見渡しながら声をかける。

「仙台和泉、前回の対戦時より良いチームになっています。相当努力したのでしょう……しかし、努力してきたのは我々も同じです。決勝で敗れ、インターハイは逃してしまいました。その悔しさは皆忘れていないはずです。公式戦ではなく、親善大会ではありますが、勝てば優勝です。今後に弾みをつけるためにも、この試合を勝ちましょう! ……令正高校、気合いを入れていきましょう!」

「「「オオォ 」」」

 令正イレブンの声が響き渡った。

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