アタシをボランチしてくれ!

阿弥陀乃トンマージ

第20話(3) 大胆不敵令正高校

 ~同時刻、令正高校サッカー部ミーティングルームにて~

「……全員揃ったな」

 令正の指揮官、江取がゆっくりと部屋を見回す。

「は、はい……」

 令正の主将を務める羽黒が黒縁眼鏡を抑えながらおずおずと答える。

「よし! では、ドドーンとミーティングを始めるぞ!」

「ひぃ 」

 江取の大声に羽黒はビクッとなる。隣に座る寒竹が頬杖をつきながら呆れる。

「いい加減、江取さんのテンションに慣れろよ、百合子……」

「そ、そうは言っても……」

「では明日の相手、仙台和泉のメンバーについて確認する! 田端、説明を!」

 コーチの田端が口を開く。

「はい、まず昨日今日と見る限り、前回対戦したインターハイ予選と同じメンバーでくると思われます。システムも同じで中盤を逆さの台形にした4―4―2です。特に試合中のシステム変更はしてきませんね。言い方は意地悪になるかもしれませんが、選手層の問題でしょう」

「うむ! では各々のメンバーだが、GKは1番の永江だな。安定感はある選手だが、足元のプレーにやや難がある。奴までボールが下がったら、武蔵野、バーッと仕掛けていけ!」

「……積極的にプレッシャーをかければミスキックをする可能性が高いです」

 江取の指示を田端が補足する。武蔵野は無言で頷く。

「4枚並んだDFラインの中心は5番の谷尾と4番の神不知火、インターハイ予選と変わらないな……神不知火の映像がブレているのは何故だ?」

「何台かで撮影したのですが、神不知火に関してはいずれの映像もブレてしまいました……」

「ひえっ……」

「なんだそのオカルト……」

 田端の説明に羽黒は怯え、寒竹は顔をしかめる。

「まあいい、前回の対戦でも感じたと思うが、谷尾は当たりに強く、神不知火はパスカットに長けている。補完性の高いペアだ、しかも互いに2年生、まだまだ伸びるポテンシャルを秘めている! ここら辺でその芽を摘んでおく必要がある! そこで渚、お前の出番だ! スーッと入って、スパッと決めろ!」

「あ、はい、分かりました」

 左眼が隠れそうな長さの前髪の渚が淡々と答える。

「いや、今の説明で分かったんかよ?」

「まあ、なんとなく、ニュアンス的に」

 振り返って問う寒竹に渚は頷く。

「次は左右のサイドバックだ! 左は3番でキャプテンの緑川、右は2番池田、どちらも守備力がある、なかなか厄介な存在だ! 強いて言うならば、神不知火の優れたカバーリングがあるということを踏まえても、左、こちらから見て右サイドから攻めるのは厳しい!」

「ほんじゃあ、こちらの左サイドから崩していこうって感じなんすね?」

 部屋の中央に座る米原が尋ねる。江取が頷く。

「そういうことだ!」

「まあ、いつも通りと言えば、いつも通りやな……じゃあ、左のアウトサイドは百地先輩じゃなくて杏がスタメンってことですね」

「それは後で発表する!」

「なんや、随分と焦らすな~」

 米原が笑顔を浮かべる。

「続いて、中盤だ! ダブルボランチは8番の石野と10番の丸井が入るだろう。運動量があり、織姫FCジュニアユース出身で技術ある石野も厄介だが、なんと言っても要注意は『桃色の悪魔』丸井だ!」

「ひっ……」

「二つ名にまでビビんなよ……でも監督、前回の対戦で純心がほぼ完封したじゃないっすか、そんなに警戒する必要ありますかね?」

 寒竹の問いに江取は首を振る。

「前回はまだ高校レベルに適応していなかった、昨日今日の試合と良いパフォーマンスを見せている。この一か月ほどでかなり成長している! ただ、米原! 進化しているのはこちらも同じだということを示してやれ! 攻守両面でグワーっと行って、ガッと行け!」

「……ガッと行って、グワーっと行くんだ!」

「いや、補足になってませんやん、コーチ……要は格の違いを見せろってことでしょ? もとよりそのつもりですわ」

 米原の言葉に近くに座っていた三角が口笛を鳴らす。

「純心ちゃん、頼もしい~。でも、桃ちゃんを甘く見ちゃいけないよ?」

「相手の肩持つやんけ、キャティ。後、どうでもええけどウチが先輩やからな?」

「うん、知ってるよ♪」

「さ、さよか……そないに天真爛漫な笑顔で言われたら、なにも言われへんわ……」

「続けるぞ、サイドハーフは右が11番の姫藤、左が7番の菊沢だ」

「姫藤さんのドリブル突破はキレ味があって要注意ですね、あまりスペースを与えないようにしないといけませんね……」

「心配いりませんよ、キャプテン。前回同様、合田っちが止めてくれますわ」

 羽黒に対して、米原が隣に座る合田を指し示す。合田は腕を組んで、黙って頷く。

「ただ、菊沢のキック精度は高い。ゴール前での不用意なファウルは避けることだ」

 田端の言葉に合田は深く頷く。

「最後にツートップだ! 9番の龍波と16番の武で来るだろう! 龍波の左足は脅威ではあるが、まだまだ経験不足は否めん! 問題はむしろ武の方だ!」

「このアフロ、長身だけど、足元も意外と上手いんだよな~」

「前線から中盤まで降りてきてボールに絡む動きが捕まえづらそうですね……」

「無理に追いかけたら最終ラインが崩されます、中盤で対処した方がええでしょ」

「そうだ! 米原の言う通り、ボランチとトップ下でガバッと挟み込め! 良いな、椎名!」

 皆の視線が部屋の片隅に集まる。視線の先にいる椎名はスマホを眺めていた。

「いや、ミーティング中だぞ、妙!」

「ああ、知っているよ、いつき……ただルーティンは崩したくないんだ」

「ルーティンだと?」

「ゴーグルアースで世界中を旅した気分になるんだ、リラックス出来るぞ」

「初耳だぞ、そんなルーティン!」

「だろうな、何を隠そう、先週始めたんだ」

「そういうのはルーティンって言わねえよ!」

「へえ~カタリナもやってみようかな~」

「真似せんでええわ……」

「……田端、他の選手についてはどうだ?」

「は、はい。14番の松内は技術が高いです。15番の趙は左から右のカットインが得意です。17番の白雲は俊足です。この三人が攻撃の切り札で起用されることが多いですね。6番の桜庭と12番の脇中は守備固めで起用されることが多いです。13番の伊達仁は……謎です」

「謎?」

「GKとしても登録されているのですが、フィールドプレーヤーとして起用されることも多いのです。龍波と同様、高校からサッカーを始めたようですが、動きの質は悪くなく……ただ、出場時間が短く、適正ポジションもハッキリとしない、なんとも謎なプレーヤーです」

「いわゆるジョーカーか……まあいい、明日の先発を発表する!」

 メンバーを告げた後、江取が改めて口を開く。

「……インターハイ予選では準優勝と悔しい結果に終わった! その悔しさをバネにしたお前らのこれまでの頑張りには満足している! この合宿を良いかたちで締めるためにも、明日もしっかりと勝つぞ! 以上だ!」

「「「お疲れさまでした!」」」

 令正の選手達は各々自分の部屋に戻って行った。夜が明け、親善大会最終戦の朝を迎える。

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