アタシをボランチしてくれ!
第19話(3) 飛び入り参加
「まもりさん……」
「久々だな、桃」
「ご無沙汰してます。あの、どうしてここに……?」
「監督に許可を貰って、一日前乗りした。親戚がこっちで海の家をやっていてな、その手伝いだ。ほら、あそこにいるのが地元の高校に通っている従妹だ」
まもりさんが指し示した先に短髪の大人しそうな女性が立っています。
「従妹さんも出るんですね」
「元々従妹たちの学校のチームだよ、ただ、他の四人が急に都合が悪くなったそうでな。私とあいつらは助っ人だ」
「そういえば輝さんたちとお知り合いでしたね」
「ああ、さっき偶然出くわしてな、ラッキーだったよ」
審判の方が試合を開始しようと声を掛けています。
「おっと始まるな。それじゃあ、よろしくな」
「お願いします」
敵味方それぞれ位置につき、決勝が始まります。早速ボールが私の方に転がってきました。
(よし! )
私に対して、輝さんと成実さんが二人がかりでプレッシャーをかけにきました。
「成実、オンミョウへのパスコース消して!」
「OK!」
「くっ!」
「アンタのパスを抑えればいい、砂の上でのドリブルは不慣れでしょ!」
真理さんへのパスコースは塞がれてしまいました。輝さんの言葉通り、この状況でのドリブルは私もまだまだ慣れていません。二人をかわすのは無理かと思われました。
「桃さん!」
「!」
「バックパス 」
私はキーパー、ビーチサッカーではゴレイロとも呼ばれているポジションの健さんにパスを出しました。健さんはペナルティーエリアを飛び出して、ボールを受けます。先程の試合で分かったのですが、ビーチサッカーでは5人目のフィールドプレーヤーとして、ゴールキーパーがパス回しに参加することが重要になってきます。
「寄せて!」
輝さんの指示を受け、まもりさんの従妹さんが健さんに迫ります。ビーチでのプレーに慣れているのか、悪くない寄せです。
「ふふっ、獲れるものなら……獲ってご覧なさい!」
「 」
健さんは軽やかにプレッシャーをかわし、すぐさまボールを前方に蹴り出します。その先には竜乃ちゃんとヴァネッサさんがいます。
「竜乃! ヘディングでこっちに落としなさい!」
聖良ちゃんが叫びながら近寄ります。
「おっしゃ! ……うおっ 」
竜乃ちゃんが飛ぼうとしましたが、砂に足を取られて上手く飛ぶことが出来ませんでした。対照的に上手くジャンプしたヴァネッサさんがヘディングで難なく跳ね返します。
「ず、ずりぃぞ、ヴァネりん! そんな高く飛べるなんて!」
「これも経験の為せる技だヨ!」
「竜乃ちゃん、ドンマイ! 切り替えよう!」
私は竜乃ちゃんに声を掛けます。こぼれ球を成実さんが拾います。私はすぐ寄せます。
「ドリブルと見せかけて……!」
成実さんは輝さんにパスを出します。私はすぐに輝さんに寄せに行きます。
(輝さんなら一旦キープするはず……そこを奪う! )
私は驚きました。輝さんがダイレクトで斜め前に走る成実さんにパスを返したのです。単純なワンツーパスではありますが、精度は高いものです。流石の連携だと思った次の瞬間……
「読み通りです」
「真理さん!」
「ちっ!」
真理さんが素早い出足でパスをカットします。真理さんはそのまま、鋭い縦パスを聖良ちゃんに送ります。竜乃ちゃんがゴール前に走り込みながら叫びます。
「ピカ子、寄越せ!」
竜乃ちゃんの動きにより、聖良ちゃんに相対していたヴァネッサさんに迷いが生じます。その隙を聖良ちゃんは見逃しませんでした。細かなステップで、ヴァネッサさんをかわします。
「ちぃっ!」
「よしっ! 」
見事に抜け出した聖良ちゃんでしたが、最後のボールタッチが大きくなってしまいました。そこにすかさず、まもりさんが滑り込み、ボールをがっしりと掴みます。聖良ちゃんが天を仰ぎます。試合は一進一退の攻防戦となり、0対0のまま、前半、第一ピリオドを終えます。ハーフタイムを経て、後半、第二ピリオドを迎えます。
「うっ!」
私が相手陣内で輝さんを倒して、ファウルを取られてしまい、相手にフリーキックを与えてしまいます。ビーチサッカーの場合、全てのファウルは直接フリーキックとなります。普通のサッカーと違って、壁を作ることが出来ません。ファウルを受けた選手自身がキッカーをつとめます。
「ごめん、よりにもよって輝さんに……」
「ドンマイ、結構距離があるわ、正確に枠内に飛ばすのは大変でしょう」
そう言って、聖良ちゃんが慰めてくれます。そして、私たちが見つめる中、輝さんがゆっくりとした助走からキックを放ちます。ボールは正確な軌道を描いて、ゴールに飛んで行きます。ですが、ゴールを守る健さんも良い反応を見せます。
「止め…… 」
健さんは踏み込みの際に砂に足を取られて、上手く横っ飛びが出来ず、シュートを防ぐことが出来ませんでした。相手チームに先制を許してしまいました。一点を追いかける立場になった私たちは少しフォーメーションを変更することにします。私が前目にポジションを取り、聖良ちゃんと並び、竜乃ちゃんにはゴールにより近いポジションについてもらいました。ビーチサッカーではオフサイドのルールが無い為、このような配置も可能となります。
「竜乃ちゃん! 何も考えずにこぼれて来たボールをシュートして!」
「分かったぜ!」
やがて、ボールがフィールドの中央にこぼれ、聖良ちゃんがキープします。聖良ちゃんはボールに近づいていった私に視線をやります。対面していた輝さんは私へのパスを警戒します。それを見た聖良ちゃんは素早いステップで輝さんをかわします。
「させないし!」
「なっ 」
フォローに回った成実さんが足を伸ばし、聖良ちゃんのボールをカットしようとします。完全にはカットし切れませんでしたが、聖良ちゃんは倒れ込み、ボールは宙に浮きます。
「えっ 」
輝さんの驚く声が聞こえてきます。それもそのはずです。空中に舞い上がったボールに対して、私がオーバーヘッドキックの体勢を取ったからです。下が砂の為、こういったアクロバティックなプレーを選択しやすいのです。私も自分で驚きながら、パスをゴール前に送ります。
「くそ!」
竜乃ちゃんが走り込もうとした場所とは逆方向にボールが飛んでしまいます。駄目かと思ったその次の瞬間、竜乃ちゃんが驚くべきプレーを見せます。
「そらっ!」
「 」
何と回し蹴りのような体勢で左足のかかとでシュートしたのです。虚を突かれた形となったヴァネッサさんらは一歩も動けず、ボールはゴールネットを揺らしました。これで同点です。
「っ 」
残り時間1分を切った所、右のサイドラインを割ろうとしたボールを追いかけた際、まもりさんの従妹さんが足を痛めてしまいます。交代メンバーはいません。このまま、5人対4人の試合になるのかと思ったところ、ギャラリーから声が上がります。
「はいは~い! 代わりにカタリナが入る! 飛び入りOKなんでしょ?」
「カタリナちゃん 」
私は良く見知った栗毛のショートボブの子を見て驚きます。運営と審判が協議し、私たちに了承を求めてきます。このままでは不公平だと感じた私たちは交代を了承します。
「よ~し、頑張るぞ~」
カタリナちゃんは弾むようにフィールドに入ります。ボールは相手チームのキックインになります。輝さんがボールをセットします。
「ゆるふわお姉さん~パスちょうだ~い!」
カタリナちゃんが左サイドに走りながらボールを呼び込みます。一瞬、怪訝そうな顔を浮かべた輝さんでしたが、すぐにボールを蹴り込みます。鋭い弾道のボールが送り込まれます。しかし、真理さんが対応していました。ですが、カタリナちゃんも驚くべきプレーを見せます。
「ほいっと♪」
「 」
カタリナちゃんは右足のかかとでボールの勢いを上手く殺しつつ、自分の進行方向の前にボールを巧みに浮かせ、走りながらのまま左足でボレーシュートを放ちます。強烈なシュートがゴールに決まりました。これで1対2、私たちの負け越しです。試合はそのまま終了。私たちの優勝はなりませんでした。カタリナちゃんが話しかけてきました。
「桃ちゃん、久しぶり~」
「うん、久しぶり……」
「あ、もうすぐ集合時間なんだ、また今度話そうね♪ じゃあね」
「う、うん……じゃあね」
私はカタリナちゃんに手を振ります。竜乃ちゃんが尋ねてきます。
「誰だよ、アイツ? やけに馴れ馴れしいな」
「三角カタリナちゃん……私の中学の同級生で、令正高校の選手だよ」
「ええっ っていうことは……?」
竜乃ちゃんの問いに私が頷きます。
「合宿最後の親善大会、対戦することになるだろうね」
「そりゃあまた、面白くなってきやがったな……」
「久々だな、桃」
「ご無沙汰してます。あの、どうしてここに……?」
「監督に許可を貰って、一日前乗りした。親戚がこっちで海の家をやっていてな、その手伝いだ。ほら、あそこにいるのが地元の高校に通っている従妹だ」
まもりさんが指し示した先に短髪の大人しそうな女性が立っています。
「従妹さんも出るんですね」
「元々従妹たちの学校のチームだよ、ただ、他の四人が急に都合が悪くなったそうでな。私とあいつらは助っ人だ」
「そういえば輝さんたちとお知り合いでしたね」
「ああ、さっき偶然出くわしてな、ラッキーだったよ」
審判の方が試合を開始しようと声を掛けています。
「おっと始まるな。それじゃあ、よろしくな」
「お願いします」
敵味方それぞれ位置につき、決勝が始まります。早速ボールが私の方に転がってきました。
(よし! )
私に対して、輝さんと成実さんが二人がかりでプレッシャーをかけにきました。
「成実、オンミョウへのパスコース消して!」
「OK!」
「くっ!」
「アンタのパスを抑えればいい、砂の上でのドリブルは不慣れでしょ!」
真理さんへのパスコースは塞がれてしまいました。輝さんの言葉通り、この状況でのドリブルは私もまだまだ慣れていません。二人をかわすのは無理かと思われました。
「桃さん!」
「!」
「バックパス 」
私はキーパー、ビーチサッカーではゴレイロとも呼ばれているポジションの健さんにパスを出しました。健さんはペナルティーエリアを飛び出して、ボールを受けます。先程の試合で分かったのですが、ビーチサッカーでは5人目のフィールドプレーヤーとして、ゴールキーパーがパス回しに参加することが重要になってきます。
「寄せて!」
輝さんの指示を受け、まもりさんの従妹さんが健さんに迫ります。ビーチでのプレーに慣れているのか、悪くない寄せです。
「ふふっ、獲れるものなら……獲ってご覧なさい!」
「 」
健さんは軽やかにプレッシャーをかわし、すぐさまボールを前方に蹴り出します。その先には竜乃ちゃんとヴァネッサさんがいます。
「竜乃! ヘディングでこっちに落としなさい!」
聖良ちゃんが叫びながら近寄ります。
「おっしゃ! ……うおっ 」
竜乃ちゃんが飛ぼうとしましたが、砂に足を取られて上手く飛ぶことが出来ませんでした。対照的に上手くジャンプしたヴァネッサさんがヘディングで難なく跳ね返します。
「ず、ずりぃぞ、ヴァネりん! そんな高く飛べるなんて!」
「これも経験の為せる技だヨ!」
「竜乃ちゃん、ドンマイ! 切り替えよう!」
私は竜乃ちゃんに声を掛けます。こぼれ球を成実さんが拾います。私はすぐ寄せます。
「ドリブルと見せかけて……!」
成実さんは輝さんにパスを出します。私はすぐに輝さんに寄せに行きます。
(輝さんなら一旦キープするはず……そこを奪う! )
私は驚きました。輝さんがダイレクトで斜め前に走る成実さんにパスを返したのです。単純なワンツーパスではありますが、精度は高いものです。流石の連携だと思った次の瞬間……
「読み通りです」
「真理さん!」
「ちっ!」
真理さんが素早い出足でパスをカットします。真理さんはそのまま、鋭い縦パスを聖良ちゃんに送ります。竜乃ちゃんがゴール前に走り込みながら叫びます。
「ピカ子、寄越せ!」
竜乃ちゃんの動きにより、聖良ちゃんに相対していたヴァネッサさんに迷いが生じます。その隙を聖良ちゃんは見逃しませんでした。細かなステップで、ヴァネッサさんをかわします。
「ちぃっ!」
「よしっ! 」
見事に抜け出した聖良ちゃんでしたが、最後のボールタッチが大きくなってしまいました。そこにすかさず、まもりさんが滑り込み、ボールをがっしりと掴みます。聖良ちゃんが天を仰ぎます。試合は一進一退の攻防戦となり、0対0のまま、前半、第一ピリオドを終えます。ハーフタイムを経て、後半、第二ピリオドを迎えます。
「うっ!」
私が相手陣内で輝さんを倒して、ファウルを取られてしまい、相手にフリーキックを与えてしまいます。ビーチサッカーの場合、全てのファウルは直接フリーキックとなります。普通のサッカーと違って、壁を作ることが出来ません。ファウルを受けた選手自身がキッカーをつとめます。
「ごめん、よりにもよって輝さんに……」
「ドンマイ、結構距離があるわ、正確に枠内に飛ばすのは大変でしょう」
そう言って、聖良ちゃんが慰めてくれます。そして、私たちが見つめる中、輝さんがゆっくりとした助走からキックを放ちます。ボールは正確な軌道を描いて、ゴールに飛んで行きます。ですが、ゴールを守る健さんも良い反応を見せます。
「止め…… 」
健さんは踏み込みの際に砂に足を取られて、上手く横っ飛びが出来ず、シュートを防ぐことが出来ませんでした。相手チームに先制を許してしまいました。一点を追いかける立場になった私たちは少しフォーメーションを変更することにします。私が前目にポジションを取り、聖良ちゃんと並び、竜乃ちゃんにはゴールにより近いポジションについてもらいました。ビーチサッカーではオフサイドのルールが無い為、このような配置も可能となります。
「竜乃ちゃん! 何も考えずにこぼれて来たボールをシュートして!」
「分かったぜ!」
やがて、ボールがフィールドの中央にこぼれ、聖良ちゃんがキープします。聖良ちゃんはボールに近づいていった私に視線をやります。対面していた輝さんは私へのパスを警戒します。それを見た聖良ちゃんは素早いステップで輝さんをかわします。
「させないし!」
「なっ 」
フォローに回った成実さんが足を伸ばし、聖良ちゃんのボールをカットしようとします。完全にはカットし切れませんでしたが、聖良ちゃんは倒れ込み、ボールは宙に浮きます。
「えっ 」
輝さんの驚く声が聞こえてきます。それもそのはずです。空中に舞い上がったボールに対して、私がオーバーヘッドキックの体勢を取ったからです。下が砂の為、こういったアクロバティックなプレーを選択しやすいのです。私も自分で驚きながら、パスをゴール前に送ります。
「くそ!」
竜乃ちゃんが走り込もうとした場所とは逆方向にボールが飛んでしまいます。駄目かと思ったその次の瞬間、竜乃ちゃんが驚くべきプレーを見せます。
「そらっ!」
「 」
何と回し蹴りのような体勢で左足のかかとでシュートしたのです。虚を突かれた形となったヴァネッサさんらは一歩も動けず、ボールはゴールネットを揺らしました。これで同点です。
「っ 」
残り時間1分を切った所、右のサイドラインを割ろうとしたボールを追いかけた際、まもりさんの従妹さんが足を痛めてしまいます。交代メンバーはいません。このまま、5人対4人の試合になるのかと思ったところ、ギャラリーから声が上がります。
「はいは~い! 代わりにカタリナが入る! 飛び入りOKなんでしょ?」
「カタリナちゃん 」
私は良く見知った栗毛のショートボブの子を見て驚きます。運営と審判が協議し、私たちに了承を求めてきます。このままでは不公平だと感じた私たちは交代を了承します。
「よ~し、頑張るぞ~」
カタリナちゃんは弾むようにフィールドに入ります。ボールは相手チームのキックインになります。輝さんがボールをセットします。
「ゆるふわお姉さん~パスちょうだ~い!」
カタリナちゃんが左サイドに走りながらボールを呼び込みます。一瞬、怪訝そうな顔を浮かべた輝さんでしたが、すぐにボールを蹴り込みます。鋭い弾道のボールが送り込まれます。しかし、真理さんが対応していました。ですが、カタリナちゃんも驚くべきプレーを見せます。
「ほいっと♪」
「 」
カタリナちゃんは右足のかかとでボールの勢いを上手く殺しつつ、自分の進行方向の前にボールを巧みに浮かせ、走りながらのまま左足でボレーシュートを放ちます。強烈なシュートがゴールに決まりました。これで1対2、私たちの負け越しです。試合はそのまま終了。私たちの優勝はなりませんでした。カタリナちゃんが話しかけてきました。
「桃ちゃん、久しぶり~」
「うん、久しぶり……」
「あ、もうすぐ集合時間なんだ、また今度話そうね♪ じゃあね」
「う、うん……じゃあね」
私はカタリナちゃんに手を振ります。竜乃ちゃんが尋ねてきます。
「誰だよ、アイツ? やけに馴れ馴れしいな」
「三角カタリナちゃん……私の中学の同級生で、令正高校の選手だよ」
「ええっ っていうことは……?」
竜乃ちゃんの問いに私が頷きます。
「合宿最後の親善大会、対戦することになるだろうね」
「そりゃあまた、面白くなってきやがったな……」
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