アタシをボランチしてくれ!

阿弥陀乃トンマージ

第14話(1) 想定外の展開

 私たち七人はフットサルコートを後にして、近くのファミレスへと入りました。

「まあ、何はともあれ、目的通りに戦力増強?出来て良かったですわね」

 健さんの言葉にキャプテンが頷きます。

「いやあ、上手くいって良かったです」

「でも東北チャンピオンは流石に強かったねー」

 池田さんに竜乃ちゃんが同意します。

「ああ、はっきり言ってボロ負けを覚悟したぜ、アタシは……」

「豆さんたちが来てくれて助かりました。今日は本当にありがとうございました」

「いやいや気にしないで~こっちも楽しかったから」

 豆さんは軽く手を振ります。

「それにうちの10番ちゃんも良い気分転換になったみたいだし~。ねえ?」

「ええ、良い感じでリフレッシュ出来ました」

「それは何よりです」

 私はキャプテンに尋ねます。

「あの……キャプテン?」

「何でしょうか?」

「お二人が来なかった場合はどうするつもりだったんでしょうか?」

「うーん、むしろお二人を急遽お呼びした形なのですよね」

「あ、そうなんですか?」

「ええ、本当は姫藤さんと神不知火さんを連れてこようと思っていたのですけど……」

「お二人とも何やら用事があるとか言っていましたわね」

「用事ってなんだよ……気になるな、明日辺り聞いてみるか」

 私も竜乃ちゃんに同意します。

「本当に気になるよね~RANEでも返信してこないし……気になるなぁ」

「ああ、そうだな……そういやアイツはいつから練習に参加するんだ?」

「え、ああ鈴森さんですか? そうですね、早ければ明日明後日にでも」

「は、早えな」

「善は急げと言いますから」

「あ、そういえば不二子さん」

 私たちの隣のテーブル席に座る天ノ川さんが豆さんに尋ねます。

「ん?」

「今日ウチ紅白戦をやる予定だったじゃないですか、良いんですかね?」

「何が?」

「いや、何がってこうやってサボってしまったことですよ」

「二人とも風邪気味で休むということは伝えてあるわよ~」

「誰にですか?」

「え、優衣ちゃんに~」

 天ノ川さんが軽く椅子からずれ落ちそうになりました。私は思わず、

「だ、大丈夫?」

 と声を掛けました。天ノ川さんはお気になさらず、といった体で手を左右に振ります。

「不二子さん」

「何~?」

「優衣さんはその辺のお医者さんの診断書程度では誤魔化せないですよ」

「そう~?」

「そうですよ」

「じゃあ、温度計をお湯にでも浸して38℃以上の高熱が出てもう駄目~っていうのは?」

「ならばそもそもなぜ外出したんですか、寮で静養に努めるべきですって言われると思います」

「真面目か!」

「真面目さが優衣さんの良い所なので」

「あ~そうか、ほんとにどうしようかしらね?」

「色々大変みたいですわね……」

 健さんが隣のテーブルのやり取りを眺めながら呟きました。そこにウェイトレスさんがやってきました。

「御注文の品お持ちしました」

「え?」

「誰だよいつの間にか食事注文した奴……って、おい」

「はーい」

「……はい」

 注文していたのは、私と天ノ川さんの二人でした。

「ご注文の『ステーキ丼テラ盛り』になります」

 二人とも同じものを頼んでいました。いつぞやのドデカ盛り杏仁豆腐対決のリベンジの機会がこんなに早く巡ってくるとは思いませんでした。

「デ、デカッ 」

「テラ盛りなんて初めて聞きましたわ……」

「丼ぶりというか、もはやバケツー?」

 竜乃ちゃんと健さんと池田さんが何やら驚いています。

「「いっただきま~す♪」」

 私と天ノ川さんが同時に食べ始めます。

「二人とも良い食べっぷりね~見てて気持ちが良いわ~」

 豆さんが私たちの食べる様子をしばらく眺めた後、キャプテンの方に向き直ります。

「そういえば美郷ちゃん、例の交換条件のことなんだけど~?」

「交換条件?」

 キャプテンが首を傾げます。豆さんが口を尖らせます。

「もう~しらばっくれないでよ~」

「冗談ですよ……ただ、私たちの間で勝手に決めてしまっていいものかどうか……」

「え~もしもサボりがバレたら、その約束を取り付けてきたっていうことにするから~」

「約束?」

 竜乃ちゃんがキャプテンと豆さんの顔を交互に見比べます。

「う~ん……あ、ちょっと失礼……」

 キャプテンが自身のスマホを確認し、ニヤりと笑います。

「どうしたの~?」

「どうやらここで約束をかわす手間が省けそうですよ」

 キャプテンがスマホを片手にそう言いました。



 時間は二時間ほど遡り、姫藤聖良はある高校の校門前に立っていた。

「……よし!」

 一度深呼吸をして、姫藤は校門をくぐった。迷いなく、サッカー部のグラウンドを目指す。

「流石は名門校……設備も規模もうちとは段違いね……」

 そう独り言を言いながら、姫藤はすぐに目当ての人物たちを見つけた。緊張しながらも姫藤が勇気を振り絞って話しかける。

「こ、こんにちは! お疲れさまです!」

「?」

 姫藤の挨拶に振り返ったのは高丘監督の指示を仰ぐ常磐野学園のレギュラー陣だった。

「君は……仙台和泉の11番か?」

 常磐野学園の主将であり、不動のセンターバック、本場蘭ほんばらんが呟く。

「は、はい! 仙台和泉一年、姫藤聖良です!」

「なんじゃ? 殴り込みにでも来たんか?」

 本場とDFラインでコンビを組む、赤茶色の髪が特徴的な栗東りっとうマリアが姫藤に近づいてくる。

「い、いえ、そんなつもりはありません! ただ、先日の試合で私がしたつまらない反則のことを謝罪したくて、今日は参りました!」

「反則……ハンドのことか。謝罪などは不要だとそちらの主将にも伝えたはずだが……?」

「そ、それだと私の気が済まないといいますか……」

「じゃあなにか、土下座でもしにきたっちゅうんか? あん?」

 凄む栗東に姫藤がやや怯む。

「止めろマリア」

 本場が栗東を制す。

「ちっ……」

 栗東が引き下がる。代わりに中盤のまとめ役、押切優衣おしきりゆいが進み出てきて、姫藤に尋ねる。

「後ろの二人は付き添いですか?」

「え?」

 姫藤は後ろに振り向いて驚いた、そこには神不知火と小嶋の姿があったのだ。

「真理先輩! 美花先輩も! ど、どうして 」

「来ちゃいました♪」

「き、来ちゃいましたって……」

「姫藤さんが何やら只ならぬご様子だったので、キャプテンにお話しした所、それならば尾行するようにと仰せつかりまして……」

「き、気が付かなかった……」

「気配を消すのには慣れておりますので」

「ど、どんな慣れですか、それ?」

「……こほん」

 押切が軽く咳払いをする。姫藤は慌てて振り向く。

「謝罪でしたら、主将が申し上げたように不要です。練習の時間ですのでお引き取りを」

「い、いや、あの……」

「練習に混ぜてもらえませんか?」

「はい?」

「ま、真理先輩 」

「先程小耳に挟んだのですが、本日は紅白戦を行うご予定だったとのことですが?」

 神不知火の質問に押切が答える。

「先程って数分前の発言……? それはまた随分な地獄耳ですね。そうです、ですが部外者の方を参加させる訳には参りません」

「風邪が流行っておられるようで、頭数が足りないようですが?」

「  な、なぜそんなことまで  何も言ってなかったはず 」

「聴こえるというか……そういうの、分かるんです」

 神不知火は自分の胸に手を当てて呟いた。押切がやや引き気味に答える。

「……選手は貴女たちお二人でしょう? そちらの彼女はマネージャーさんですよね? 生憎人数が足りません。せめて後三人……」

「後三人、来ていますよ」

「え 」

 神不知火が学校の近くに位置するマンションの屋上を指差す。そこには三人の人物がいた。神不知火に指差されたことに気付き、明らかに狼狽している。姫藤が目を凝らす。

「あれは……輝先輩に、成実先輩に、ヴァネ先輩 」

「姫藤さんのことが心配で尾けてきちゃったみたいですね」

「よく分かりましたね、100mは離れていますよ……」

「半径1㎞以内の視線ってよく感じません?」

「感じませんよ!」

「まあ、とにかく……」

 神不知火が前に進み出る。

「あそこの三人を合わせて、先日の試合に出場したメンバー五人が揃いました。どうでしょう? 紅白戦の頭数に加えてはもらえませんか?」

「……まあ良いだろう、面白そうだ」

「監督  良いんですか?」

「紅白戦をやらないよりはマシだ……各々練習着は持ってきているようだな。誰か、更衣室に案内してやれ」

 神不知火は満足気に頷く。

「面白いことになりました。これは想定外の展開です」

「想定外過ぎますよ……」

 姫藤は戸惑い気味に呟いた。

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