アタシをボランチしてくれ!

阿弥陀乃トンマージ

第13話(1) ポニーテールを追いかけて

「1分間タイムアウトです」

 審判役を務める方がホイッスルを吹いた後、そう言ったため、私たちはコートの外に出てベンチサイドに下がりました。

「こういうのがあるんだな……」

「試合自体は前後半20分ハーフですが、前後半に一度ずつ、こうして1分間のタイムアウトが取れます」

 地べたに座り込んだ竜乃ちゃんの呟きにキャプテンが応えます。

「それで如何ですか? 初めてのフットサルは?」

「ボールの動きが早いですわね。展開が目まぐるしく変わると言いますか……」

「つーか、しんどい! 思った以上に運動量が求められるな、これは……」

 キャプテンの問いかけに健さんと竜乃ちゃんが率直な感想を口にします。

「そうですね、今おっしゃったように目まぐるしい試合展開ですので、その都度的確かつ素早い状況判断が求められます。さらにそれに伴って身体を動かす訳ですから、見た目や経過時間以上に体力を消耗する種目ですね」

 キャプテンは笑顔でそう言って、水を口に含みます。

「後は単純に……強いな! 相手!」

「確かに約10分間でもう3点差……アウローラ仙台、18歳以下の東北地区チャンピオンチームは伊達ではないということですわね」

 竜乃ちゃんの素直な言葉に、健さんが頷きます。

「止めて蹴る、といった基本的な動作のレベルが高いね……」

「ボールがなかなか奪えないよねー」

 私の感想に隣に腰掛けていた池田さんも同調します。

「このまま相手にミスが出るのを待つ感じかなー」

「……私個人の考えですが、何から何まで完璧な試合運びを見せるチームというものは存在しません。必ずどこかで綻びが生じるものです。そこを逃さずに攻勢に転じ、まずは一点を返しましょう」

 池田さんの問いにキャプテンが力強く答えます。

「タイムアウト終了です」

 審判の言葉に、私たちは再びコートに戻ります。竜乃ちゃんが私に尋ねてきました。

「なあビィちゃん……アタシの守りがマズいのかな?」

「いや、相手のパスコースを限定させる守備はきちんと出来ていたと思うよ。キャプテンたちが言うように相手のミスを誘うには前からのプレッシャーが不可欠だから、今までの形を継続していって間違いはないよ。きついと思うけど、頑張ろう」

「ああ、分かったぜ」

 そして約10分後……

「前半終了です!」

 審判がホイッスルを吹いて、前半の終了を告げます。私たちは一様に重い足取りでベンチに下がりました。暫しの沈黙の後に、健さんが叫びました。

「……って差が広がりましたわよ  5点差です! これはどういうことですの 」

「ミス出なかったねー」

 池田さんが呑気なトーンで答えます。

「試合が進むごとにパスの精度が段々と高まってきた……さっきまではまずボールをトラップしてからパスを繋いでいたのに、タイムアウトの後はほぼ1タッチ、ダイレクトでボールを回してきた……」

「あのスピードでパス回されたんじゃ、なかなか獲れないぜ……」

「本当にあっと言う間に、気付いたらこちらのゴール前でしたわ……」

 私が分析する横で、竜乃ちゃんと健さんがやや呆然としています。

「チャンピオンチームの本領発揮といったところですかね。丸井さん、他になにか印象的なことはありましたか?」

 キャプテンの質問に私は答えます。

「……あの人です、あの綺麗なブロンドヘアーの彼女、ほぼ全てのプレーが彼女を経由していました」

 そう言って、私は相手ベンチに座るポニーテールの彼女に視線を向けます。

「皆上手いけど、あのポニテちゃんがダントツに上手いよねー」

「チームの中心って感じですわね」

 私の意見に池田さんと健さんが同意します。

「……つーかアイツどっかで見た気がするんだが……アタシの気のせいか?」

「わたくしもそう思っていましたわ。何処かで見覚えがあるのですよね……」

「私も……」

 首を傾げる私たち1年生3人の疑問にキャプテンがあっさりと答えます。

「それはそうでしょう、鈴森すずもりエミリアさん、1年F組で皆さんとは同級生ですよ」

「「「え 」」」

「驚かせついでに言いますと、本日の目的は彼女のスカウトです」

「「「ええ 」」」

 驚きが止まらない私たちをよそに、マイペースな池田さんがキャプテンに話し掛けます。

「あ~ベンチの枠―」

「そう、冬の選手権は選手登録枠が一つ増えるんですよね~これを有効活用しない手はないと思いましてね。かと言って、伊達仁さんのような転入生はそうそう都合よく現れない……と思ったら、もっと都合の良い人がいらっしゃいました。まあ都合の良い、という言い方はちょっと彼女に失礼ですか」

「せ、戦力増強ってそういうことだったのかよ……」

「というかスカウトって、一体どうするのですか?」

「そうですね……ちょっとお待ち下さい」

 そう言って、キャプテンは相手ベンチの方に向かいました。そして、相手チームの代表らしき人と何やら話しあって、最後にぺこりと一礼をして戻ってきました。

「お待たせしました。この試合で私たちが勝ったら条件付きで、彼女をこちらに迎えて良いということになりました」

「「「えええ 」」」

 私たちは三度驚きました。

「条件って何―?」

「勝った上で、彼女……鈴森さんが納得のいくプレーを見せられたら……というものです」

「要はポニテちゃんの心を掴めってことー?」

「そういうことです」

「で、でもここから勝つって……」

「尚且つあの方を魅了する……」

「さ、流石に無理ゲーじゃねーか……?」

「確かに、このままだとちょっと無理ですね……」

 私たちの言葉にキャプテンも神妙な表情で一旦は頷きました。しかし、すぐさま表情を変えて、こう言いました。

「こういうこともあろうかと助っ人を呼んであります」

「助っ人……?」

「ああ、ちょうど到着されましたね」

キャプテンが私たちの後ろを指し示しました。振り返ると二人の女性が立っていました。

「どうも助っ人でーす」

「面白そうなことしてるじゃな~い? 不二子も混ぜて~♪」

「天ノ川さんに豆さん 」

 私は驚いて大声を上げました。なんとそこにはつい先日私たちと対戦した、常磐野学園の天ノ川佳香あまのがわよしかさんと、豆不二子まめふじこさんがいたからです。

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