アタシをボランチしてくれ!

阿弥陀乃トンマージ

第12話(3) 蒼い瞳の乙女

「せ、戦力増強というのは?」

 私の問いにキャプテンはニコッと笑って答えます。

「それは道すがらお話ししましょう」

「道すがら……?」

「ええ」

 そう言うと、キャプテンは皆に語りかけます。

「予定変更になって申し訳ありませんが、今日は各自自主トレをお願いします。丸井さん、龍波さん、姫藤さん、伊達仁さん、神不知火さんは私と一緒に来てくれませんか?」

「は、はあ……」

戸惑う私をよそに、聖良ちゃんがと真理さんが冷静に断りを入れます。

「すみません、キャプテン。私どうしても外せない用事が出来たので」

「……主将、私も所用を思い立ちまして……」

「そうですか? では……弥凪、代わりに来てもらえますか?」

「え? 別に良いけどー」

 キャプテンの誘いに池田さんは即答じました。

「それでは本日はこれで解散とします」

 皆困惑しつつも、それぞれ視聴覚室を後にしました。それから約数十分後、私たち6人は地下鉄に乗っていました。

「で? どこに連れていくつもりだよ、キャプテン?」

 竜乃ちゃんが二つの吊革を両手で掴みながら、前のめりになって、前の座席に座るキャプテンに行き先を尋ねます。

「それは着いてからのお楽しみということで」

「そう言うと思ったよ」

 答えをはぐらかすキャプテンに呆れながら、竜乃ちゃんは軽く空を仰いで、追及することを諦めます。

「ビィさん、ご覧になって  本当にこの電車、地下を走っていますわ!」

「ま、まあ、それは地下鉄だからね……」

「お嬢は地下鉄も初めてなんだねー」

 その一方、健さんは地下鉄初乗車でテンションが上がっていました。その様子に私は正直やや呆れていましたが、池田さんは半ば感心していました。仙台市中心部の駅に着き、私たちは地下鉄を降りて、キャプテンの後に続き地上に上がって歩きます。しばらく歩くと、キャプテンが立ち止まり、とあるビルを指さしました。

「着きました。ここが本日の目的地です」

「なんだよ、デパートじゃねーか。夏服でも探しにきたのか?」

「それも良いですが、今日は屋上に用事があります」

「屋上?」

「参りましょう」

 私たちは尚も戸惑いながら、キャプテンの後についていきました。

「うお  なんだこりゃ 」

「ビルの上に芝生のコート?」

 屋上に上がった私たちは驚きました。そこには大きな緑のネットと透明なビニールシートに周りを覆われた、芝生のコートが数面広がっていたからです。

「こんな所にフットサルコート?」

「そういや去年辺りにオープンしたんだっけー」

 池田さんの呟きにキャプテンが頷きます。

「ええ、仙台市街中心部では最大規模のフットサルコートです。ご覧の様に、雨天にも対応しています。街中にありますから、大学生や社会人の方々もよく利用されていますね」

「フットサル……?」

「南米のサロンフットボール、もしくは英国のインドアサッカーを起源とする5人でやる屋内競技ですわ。まあ、ここは半分屋外ですけど」

 首を傾げる竜乃ちゃんに、健さんが説明します。

「ふーん、ミニサッカーみたいなもんか?」

「ちょっと違うと言えば違うのですが、まあ、その辺りは追々説明させていただきます」

 竜乃ちゃんに語りかけながら、キャプテンがコートの方を覗き込みます。

「今の時間帯は練習しているのはあのグループのみですね……ああ、いましたね」

「いましたねって?」

「本日の探し物……いや尋ね人ですね」

 キャプテンの目線の先を追うと、コートで練習しているチームがいました。テンポ良くリズミカルにパスを繋ぎ、各々が軽快な動きを見せています。

「上手だねー」

「なかなかの実力者の集まりのようですわね……」

 感心する池田さんと健さんにキャプテンが補足します。

「それは当然です。18歳以下の世代の東北地区チャンピオンチームですから」

「そうなんですか……」

「じゃあ、皆さん、あちらの更衣室で着替えて下さい」

「え?」

「今日はあちらのチームと対戦します」

「「え、えええええ 」」

 突然の宣告に対して私たちは驚いて、大声を上げてしまいました。その声を聞き、コートで練習しているチームの何人かが、こちらに振り向きました。

「あ、ど、どうも……」

 練習の邪魔をしてしまったかと思い、私は軽く会釈をしました。振り向いた何人かは気にもせず、またコートに向き直りました。しかし、その中の一人、スラッとした体格をしたブロンドヘアーのポニーテールの女性だけが、こちらを、というか私のことをしばらく見つめ続けていました。自然と私と彼女の目が合いました。吸い込まれるような蒼い瞳が印象的でした。

「綺麗な人……」

 その涼やかな佇まいと端正なルックスを見て私は思わず、素直な感想を口にしていました。

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