僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿心刃

第十五話・10

午前の授業が終わり、いつもどおりに昼休みになる。
私がお弁当を机の上に出すと、すかさず奈緒ちゃんが声をかけてきた。

「お昼、一緒に食べようか」
「そうだね。奈緒ちゃんも、お弁当なんだね」

私は、微笑を浮かべて奈緒ちゃんのお弁当箱を見る。
普段、料理しなさそうな印象の奈緒ちゃんでも、料理はするんだなぁ。
どっかの誰かさんとは大違いだ。
奈緒ちゃんは、恥ずかしそうに自分のお弁当箱を両手で抱え込み、視線から遠ざけようとする。

「中身は期待しないでね。香奈が持ってきたお弁当よりも、見た目がよくないから……」
「残念。これは私が作ったお弁当じゃなくて、楓が作ってくれたお弁当だよ」
「え……。そうなの?」
「楓と会ったら、毎回、お弁当交換してるんだよ。奈緒ちゃんは、知ってるでしょ?」
「う、うん。まぁ、話では聞いたけど、毎回とまでは聞いてないかな。ふ~ん……」

奈緒ちゃんは、私が机の上に出したお弁当箱を見て、不思議そうな表情になる。
知らなかったというよりも、楓が作ったお弁当に興味があるといった感じだろうな。
奈緒ちゃんの顔を見れば、すぐにわかる。
どうやら、今回の楓のお弁当も気になるみたいだ。

「気になるなら、シェアしようか?」
「いいの?」
「もちろん! 楓が作ってくれたお弁当だから、きっと美味しいに決まってるし」

私は、自慢げにそう言った。
しかし、タイミングが悪かったようだ。

「誰が作ったものだから、美味しいだって?」

その言葉は、ちょうど私がいる教室に入ってきた女子生徒から発せられたものだった。
髪を金髪に染め、化粧も少し濃いめにし、着ている制服などはわざと着崩している。正真正銘のギャルだ。
ちなみに名前は、鳩中明美。
私と同じ二年生である。
鳩中さんは、私のところへ来るなり、机の上に置いていたお弁当を見下ろす。

「開けてみてもいい?」
「どうぞ」

別に隠す必要もないから、鳩中さんにそう言っていた。
私も、今日の楓のお弁当の中身が気になっていたところだし。
お弁当の蓋を開けて中身を確認すると、鳩中さんは驚いていた様子だった。
ついでに、お弁当の中に入っていた唐揚げをパクリと食べる。
あ……。楽しみにしていた唐揚げが……。
その唐揚げは、仕込みの行程からやったであろう楓の手作りなのに……。
美味かったのか、鳩中さんは訊いてくる。

「これ、西田が作ったの?」
「ううん。私の彼氏が作ってくれたものかな」
「嘘でしょ ︎ 男が作ったお弁当なの ︎ これが──」
「ホントだよ。ちなみに、鳩中さんが食べたその唐揚げは、私の彼氏の手作りだよ」
「っ…… ︎」

私の言葉に、鳩中さんは思わず口元を押さえていた。
よほど美味かったんだろう。
次に鳩中さんがとった行動は、私たちを驚かせた。
鳩中さんは、私にズイッと迫り、肩に手を添える。

「西田の彼氏……私に紹介して」
「何で鳩中さんに、楓を紹介しないといけないの?」

私は、少しだけ苛立ちを覚えながらそう言っていた。
つい彼氏の名前を言っちゃったけど、気にしないでおく。
鳩中さんは苦笑いをして、頭を掻きながら言った。

「あたしも料理作ってるんだけどさ。なかなかうまくいかなくてね」

鳩中さんがギャル系で、おちゃらけた雰囲気で人と接しているのは知っていたけど、料理を作ってる人だとは思わなかったな。
普通にギャルとかしてるから、そんなイメージを持ってなかった。なんというか意外だ。

「料理なら私だって作ってるよ。なにも無理して、私の彼氏に料理のことを聞かなくてもいいんじゃないかな」
「いや。西田の彼氏なら、きっとあたしなんかよりも料理のレパートリーがあるに違いないって思ってさ。あたしは、料理が得意な人に憧れを持ってるんだよね」
「憧れって……」

私の彼氏であって弟的な存在でもある楓に『憧れ』を抱かれてもな。
楓は、別に料理の腕前を自慢しているわけではないと思うんだけど……。

「まぁ、西田にはわからないと思うけど」

鳩中さんのその言葉に、私は少しばかり苛立ちを覚える。

「私だって、憧れているわよ。楓の料理を越えたいって思いはあるよ」

と、つい本音を言ってしまう。
鳩中さんは、私のその言葉を『待ってました』と言わんばかりに、ニヤリと笑みを浮かべる。

「だったらさ。あたしにも、会わせてよ」
「なっ……。誰を?」
「西田の彼氏に、だよ」
「何で、鳩中さんに私の彼氏を会わせないといけないのよ」
「彼氏を越えたいって思わないの? 西田は──」
「それは……」

私だって、自分の作る料理で楓を越えたいっていつも思ってるよ。
だけど、味付けでいつも負けちゃうんだよな。

「どうなのかな?」

再度、問われてしまい、私は軽くため息を吐く。

「わかったよ。ただし、楓を誘惑するのはダメだからね」
「わかってるって。ありがとう、西田さん」

鳩中さんは、そう言って私の肩をポンポンと叩く。
ギャルが人のことを『さん』付けで呼ぶのは、めずらしいことだ。
そこまでして楓と会いたいなんて、よほどの事なんだろう。
だけど私は、そんな鳩中さんを見て、内心、気が気でなかった。
鳩中さんに楓を奪られたりしないかと思うと、どうにも……。
傍にいた奈緒ちゃんが、私を安心させるためなのか私の制服の袖を指で摘んでいたので、なんとか落ち着いてはいたが。
それでもやっぱり、嫌なものは嫌だな。

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