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ここは会社なので求愛禁止です! 素直になれないアラサー女子は年下部下にトロトロに溺愛されてます。

森本イチカ

彼女の知らない俺の八年間の片想い 松田side⑵

 高校三年の夏。
 特にやりたい事もなかった俺は就職組だったので夏休みは毎日アルバイトに励み独立資金を貯めていた。

「こんにちはー!」

 明るく大きな声で店内に入ってきた女性に俺は一瞬で目を奪われた。
 外は燃えるように暑い炎天下。頬を真っ赤に染め上げ額に薄らと汗をかいている女性。
 艶やかで綺麗な真っ黒の長い髪の毛を一つに縛っていたのでつい頸が綺麗でみ惚れてしまった。

「あの~アルバイトの方ですか? 店長さんはいらっしゃいますか?」

 そう話しかけられ俺の心臓がドキドキといつもより大きく動き出した。

(な、なんだこれ……)

「あ、店長は今留守で、あと一時間程したら戻ると思います」

 心臓の動きは早くなる一方で、段々と身体の体温も上昇しているのか熱くなってきた。

(熱でも出たかな……)

「そうですか、じゃあ少し店内を見ながら待たせてもらっても宜しいですか?」

 彼女はこの狭い文房具屋の店内を隅々まで見渡していた。(狭いって言って店長すいません)

 この空間に俺と彼女の二人きりだと思うと息をするのも苦しいくらいだった。
 真剣な表情でうちの店に置いてある文房具屋を見ながらなにかブツブツと呟いている彼女。

 その姿は今でも鮮明に覚えている。

「ただいま~」

 大きな声で戻ってきたのは紛れもなくこの店の店長だ。身体が大きくクマさんみたいな見た目なのでお客さんや子供達からはクマさんと呼ばれている。

「店長、お客さんが来てます」

 彼女は背筋をビシッと伸ばし挨拶を始めた。
 凛とした横顔で仕事の話を真剣に楽しそうに話す彼女に俺は釘つげだった。

 なんでも商品の売り上げデータを見させて欲しいとの事で売り上げデータを確認し、彼女は帰って行った。
 店長が貰った名刺を見せてもらい会社名も名前も知った。

 水野真紀さん……。

 バイトが終わり施設に帰る。彼女が現れて以来俺の頭の中は彼女のことで頭がいっぱいだった。
 朝起きて一番に思い出す彼女の凛とした横顔、授業中、飯を食べている時も、お風呂に入っている時も、眠ろうと布団に入っている時も思い出してしまう。
 次はいつ来るのだろうか。
 また会いたい。
 こんな事ばかり考えていたのに彼女は一ヶ月経ってもお店にくる事は無かった。

 もう会えないのか……と落胆した日々、それでも毎日朝はやってきて学校に行き、帰ってきたらバイトに向かった。

「いらっしゃいませー」

「こんにちはっ! 今日は新商品を置かして頂けるとのことで商品をお持ち致しました」

 突然の彼女の登場に思考回路が追いつかなかった。何も返事を出来ない自分に彼女は「店長さんからは許可を貰っているのでちょっと売り場を作らせて頂きますね」と言い黙々と作業を始めた。

 今日来るなら来るって前もって教えておいてくれよ、と店長を少し恨んだ。そしたらもっと髪の毛もビシッと決めて少しでも彼女にカッコ良く見せたかったのに。

 彼女の真剣な横顔を見ていると吸い込まれそうなにる。
 今日話しかけないともう会えないかもしれない、そう思っているのになかなか言葉が出てこない。喉の奥に何かが詰まっているかのようだ。
 聞きたい事、言いたい事はあれほど毎日考えていたのに、いざ本人を前にすると何も言えないただの子供だ。

「よし! 終わりました! この度は我が社自慢の文房具を置いてくださりありがとうございました。 店長さんにもよろしくお伝えください。あとこれよかったらサンプルなんで使って下さい、松田君って学生さんでしょ? よかったらどうぞ」

 ドクンと身体の中で心臓が一発大爆発。なんで俺の名前を!? と思ったが視線の先は俺の胸についているら名札。成る程と納得するも俺の心臓は爆発の後遺症かドクドクと小刻みに早く動いている。
 どうぞ! と彼女の手から渡された物をそっと手で受け取る。
 触れそうで触れないもどかしい距離で受け取った物は消しゴムだった。

「これものすっごくよく消えるから! じゃあお疲れ様でした」

「あ、ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました!」

 彼女は深々とお辞儀をし、店を出て行った。
 彼女が帰った後もドキドキと鳴り止まない心臓。
 彼女から貰った消しゴムを握る手が暑い。

 レジに戻り店内を見渡すと何か四角い物が床に落ちていたのを見つけ拾ってみると彼女の社員証だった。
 マーケティング部、水野真紀
 まだ間に合うと思い急いで彼女を追いかけた。
するとすぐ店の近くで泣いている子供と話している姿を見つけた。
 スーツなのにも関わらず膝を道路につけ子供の目線で話し、泣いている子供の頭よヨシヨシと撫でていた。それはそれはとても優しい眼差しで。
 俺は暫く話しかけられないでいた、あまりにも美しい光景だったからだ。
 それでもハッと我に帰り彼女と子供の元へ駆け寄り落としていた社員証を渡すと彼女はとびきりの笑顔で「ありがとうっ!」とお礼を言い、子供にも「次からは気をつけなよ、バイバイ」と手を振りながら帰っていった。
 買ってばかりの消しゴムを落として泣いていたところを彼女が慰めてくれ俺と同じサンプルの消しゴムを貰ったそうだ。

 彼女の笑顔を思い出すと胸を締め付けられているように苦しい。

 俺は彼女に恋をしていたんだ――。

 また一ヶ月くらいたてば彼女がまたひょっこりと商品を持って現れるんじゃないかと期待していた。

「こんにちはー!」

 声が違うと分かっていたがバッと振り返るとそこにはスーツを着た他の女性が立っていた。何でも水野真紀さんは代理で前回商品を届けてくれただけでこれからは営業の私が担当致します、と言っていた。


 もう会えない――。

 やっと恋という感情が芽生えたばかりなのにその芽が枯れるのは絶対に嫌だ。いつまで経っても水をあげ続けそしていつか綺麗な花を咲かせたい。そう思い俺は毎日真剣に考えた、どうやったらまた会えるだろう、どうやったら、どうやったら。
 結局俺が考えついたのは同じ会社に就職する事、だった。
 会社に押しかけるのもストーカーみたいだし、かと言ってただの学生が言い寄っても追い返されるのが目に見える。
 だったら長期戦でもいい、彼女に釣り合うような男になってかならず思いを伝えよう、そう思い俺の長期作戦が決行された。

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