ここは会社なので求愛禁止です! 素直になれないアラサー女子は年下部下にトロトロに溺愛されてます。

森本イチカ

会社では内緒です 松田side⑵

 一番下っ端なので一番最初に出社し会社内を綺麗にする。別に誰かに指示された訳でもなく勝手にやっている事で、会社内といっても自分の部署の部屋だけだ。このお陰でいつも早めに出社してくる彼女との二人きりの時間が十分弱くらい出来る。

 ガチャッとドアが開く音がしたのでバッとドアの方を向くとやはり彼女が一番に出社してきた。

「おはようございます、水野さん」

「あ、おはよう松田君」

 今日も可愛い俺の彼女。
会社では付き合っている事は内緒だ。
 ただ彼女の仲の良い同期の櫻井涼子さんと橅木圭佑さんだけは知っている。
 多分男の勘だが橅木さんは彼女の事が好きなんだと思っているので正直仲良くしている二人を見るとどうしてもヤキモチを妬いてしまう。
 あの時だってそうだった。
 泣かしたのは俺のせいだが泣いている彼女を一番最初に抱きしめて安心させてやりたかった。
 俺が好きなのはずっと水野さんだけです、って。
 なのに橅木さんに先越され圧に押されて暫く動けなかった自分が情けない。
 橅木さんに抱きしめられている彼女を見て悔しくて人の目も気にせずに泣いてしまいそうなのをグッと拳を握りしめて耐えた。
 すぐにあの後二人を追いかけたが見事に電車に乗り遅れてしまい次の電車に乗り、彼女の駅に降りてからは全力疾走で走った。もうあれ以上の速さで走れる事はないだろうな……

「フリーズしてるけど大丈夫?」

「えっ、あ、ちょっと考え事してました」

「なにか悩み事があるならすぐに相談しなさい」

「ん~じゃあ一つ悩んでる事があるんですけど聞いてもらえますか?」

「いいわよ」

 彼女は一定のトーンで話すが、表情はパァァと明るくなり、頼られて嬉しい、と言わんばかりの表情で俺に近づいてくる。
 本当にわかりやすくて困るくらい可愛い。

「実はですね……」

「実は?……えっ? ちょっと!」

 俺は彼女の腰を自分に引き寄せ唇を重ねた。
彼女の塗っているリップが落ちないくらいの軽いキス。

「キスしたくて困ってました」

「何考えてんの! 誰かに見られたらどーすんのよ!」

 頬を薄く染め怒っている癖に口元は緩んでいる彼女に愛おしいと思う気持ちがどんどん増えて溢れ出しそうになる。

「ははは、大丈夫ですよ、今日は俺の方が早めに終わりそうなんで適当に待ってますね」

「……分かった」

 仕事モードになると彼女は一変しバリバリのキャリアウーマン化する。
 この会社にやっと入社出来た時一番最初に彼女の事を探した。彼女の姿が目に止まった時、仕事を淡々とこなす彼女の姿が美しすぎて俺の周りだけ時間がゆっくり流れているのかと思うくらい彼女の姿だけが鮮明に俺の目に写った。
 なんとか木島部長に教育係を水野さんにして下さいと頼み込んだお陰で今がある。

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