ここは会社なので求愛禁止です! 素直になれないアラサー女子は年下部下にトロトロに溺愛されてます。

森本イチカ

少女漫画のようには上手くいかないです⑻

 二人で並んで会社を出て、駅に向かう。今まで気にしていなかったのに好きと自覚すると色んなことが気になりだす。隣を歩く松田と私の身長差、多分三十センチくらいはあるだろう。耳の少し下に黒子があるのを見つけた。

……触りたい。

(ひぃぃい、なんて破廉恥な事を思ってしまったの!!!)

「水野さんどうかした?」

「ええ!? な、何でもないわよ! 疲れてるのかな、ははは」

 誤魔化す為に引きつった笑いになってしまう。

「たーいがっ!!!」

 一度しか聞いていないのに忘れられない。あの撫でるように松田の名前を呼ぶ声。今一番聞きたくない声がキーンと耳に通り抜ける。目の前が一瞬で真っ暗になった。

「マコト!?」

……名前呼ばないでよ。

「待ってたよ~、一緒かえろ」

……一緒に帰ってるのは私なんですけど。

「あーじゃあ三人で帰る?」

……は? 何言ってるの?

 プツンと糸が切れたように私の中の何かが切れた。

「お二人でどうぞ、先に帰ります」

 自分の身体が真っ黒い闇に飲み込まれていくかのようだった。私の心は昨日彼女を見た時からコップに入った黒いなにかが表面張力でギリギリ保たれているような状態だったのに、その黒い何かの表面張力はついに耐え切れず溢れ出す。もうこれ以上自分の中にある黒い何かを増やしたくない、その場に居れず走って二人から逃げた。

 嫉妬が溜まりに溜まって溢れ出した――。




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