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ここは会社なので求愛禁止です! 素直になれないアラサー女子は年下部下にトロトロに溺愛されてます。

森本イチカ

中途採用の新人です

「もう無理! 全く会ってくれないし! 耐えられない! さようなら!」


 たまたま時間が空き初めて入った喫茶店。一人でのんびりミルクティーを飲んでいたが、女の人の大きな声とバシャっと勢いよく水のこぼれる音が静かな喫茶店のジャズ音楽のBGMを掻き消すように響き渡る。
 視線を音の先にずらすと頭から水を被って肩を丸めている男性の後ろ姿が目に入った。
 悲しみが背中から滲み出ている。
 なんとなく……ただなんとなく気になってしまいそっと席を立ち私はハンカチをその男性のテーブルにそっと置き「使ってください」とだけ言葉を残し喫茶店を後にした。


 そんなインパクトのあった出来事から三日経った今日。
 水野真紀(みずの まき)の働いている会社に数年ぶりに中途採用の新人が入るらしく、部内は騒ついている。
 

「ねぇ、新人男かなぁ、イケメンだったら最高だな〜」

 椅子にもたれ掛かりながら私に話しかけてきたのは同期の櫻井涼子(さくらい りょうこ)だ。
 入社した時は涼子の見た目に少し驚いてしまった。ド派手な明るいミルクティー色の髪の毛をクルックルに巻いていて、目はバッサバサのつけ睫毛を付けていて失礼だけど、よくこの見た目で入れたな、なんて思ってしまった。けれどやはり人は見た目で判断してはいけないとすぐに思い知らされた。涼子はかなり仕事の出来る女だった。
 彼女はもう結婚もしていて見た目も落ち着き、少し明るめのブラウンの髪色の前下がりボブ。化粧もかなり薄くなり昔の涼子はもう居ないと言えるくらいだ。子供も二人いて、順調な家庭だが、イケメンは別腹に大好きで見てるだけで幸せになるそうだ。
新人がイケメンかどうかウキウキしている。

「ん〜どうだろうね、全く情報ないもんね」

「だよね〜あ〜イケメン拝みたーい」

「本当涼子ってブレないね」

「まあねっ」

 パソコンに向かいパチパチとデータの入力をし始めた所で部長の島田の声が部内に響き渡った。

「はい、皆んな〜お待ちかねの新人がきたから紹介するので集まってくれ」

 言われた通り島田部長の近くに向かうとバチッと新人と目が合った。
 高身長の新人はビシッとスーツを着こなし綺麗なアッシュブラウンの髪の毛もビシッとヘアセットしてある。
 スッと通った鼻筋に薄い唇。お洒落な縁の丸い眼鏡の奥にある真っ黒で綺麗な瞳にジッと見つめられている気がした。

「中途採用で今日からこの部に配属になった松田大雅君(まつだ たいが)だ、皆んなでフォローしてやってくれ、新人教育は……水野、お前に任せる」

「ええ!? 私ですか!?」

「ああ、頼むぞ」

「……分かりました」

 なんて面倒……いや、大変な役割を任されてしまった。
でも島田部長の頼みだ……断れる訳がない。任された仕事をこなすのみ。

「じゃ、じゃあ松田君、水野真紀です、これから指導していくので分からないことがあればどんどん聞いてくださいね」

「はい、水野さん宜しくお願いします」

 深々とお辞儀をする松田の声は低音だが濁りのない聞きやすい声だった。

「じゃあまず松田君のデスクは……」 

 ど、何処なんだろうと島田部長に視線をずらすと、
"お前の隣だ"と口パクで伝えてくる。
 確かに私の隣のデスクはずっと空席のままだったので納得だ。

「あ、私の隣のデスクを使って下さい。
まずは一通りデスクを綺麗にしちゃって」

「分かりました」

 松田はニコリと笑みを浮かべデスクに荷物を並べ始めた。
 私は素直に言う事を聞く良い子だな、と率直に思った。
 椅子に座り時々松田の様子を見ながらデータ入力を進める。

「……あの、水野さん」

「松田君、何か?」

「ちょっと聞きたいことがあって、向こうで話せますか?」

「分かったわ」


 わざわざ呼び出して聞きたい事って何だろう。
 場所を移動するって事は人に聞かれたくないような話なのだろうか。
 ドキドキしながら松田の後をついて行く。
 なんだろう……この後ろ姿、彼の事をどこかで見たような気がして、でも思い出せなくてモヤッとする。

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