カンナ&ゆうな

ノベルバユーザー526355

vol.27(7)

少しうつむけば、今にもまた零れそうなしずく
ベンチに座ったカンナは、自分の心を覗かれそうで、振り向かぜずにいた。
ゆうなは、そんなカンナの後ろから首に腕を巻きつけ、彼の胸のあたりで手を交差する。
まるで子供の頃、肌身離さず持っていた大切なぬいぐるみを優しく抱くように・・
天上の月が満たされていくように、ふたりを内から満たしていく灯火
はかなくも消えそうでありながら、ゆらりゆらりとふたりの世界を包み込む。
絶えきれず零れた滴は、ゆうなの左手の甲に落ち、時を刻むようにゆっくりと滑り出す。
月に照らされて自分に伝う一筋のカンナ・・
ゆうなは透き通った快感を得るように、それを楽しみ、見えない笑みで問いかけた。
「月に輝く男の涙・・それってなんだかヘン・・!。何かお悩み?、青春カンナくん」
口にも出せず、[ じゃあ、拭けばいいのに・・ ]と、思うカンナ
「わたし的には、かっこよくはないかなぁ・・。けど、そんなカンナくん、嫌いじゃないよ。」
少し間をおいて、誰にだかぼつぼつと一人ごち始めるカンナ
「自分を誤魔化しているようで・・。ちっちゃな自分がいて・・、でも説明つかないこだわり・・」
~するりと口から勝手に滑り落ちて来る意味不明な言葉たち
「自分を解放できない・・、生きづらいっていうか・・・。あっ!、聞き流してね。独り言だし・・」
照れ半分のカンナを少しも茶化す気はなく、ゆうなが応える。
「そっかぁ。知ってた?、女子には、恋に恋する時期ってあるんだよ。・・私もそうだったぁ。」
「それで・・」、オチが見えない先を促すカンナ
「男子は、悩みことに悩むのかなって、思ったわけ。でも、それって私も、よく分かるなぁ。」
ゆうなが抱えているはずの悩み・・、それに比べればきっと小さすぎる自分の悩みを
カンナは、ゆうなの前で開けっ広げだった自分の扉を閉ざすように、押し殺していった。
その閉じかけたカンナの扉に、ゆうなはひとこと滑り込ませて、
「そんなとき・・、全部ありまま受け入れればいいのよ。それが自分なんだから・・」
カンナの胸元に組まれたゆうなの左手の上にまた滴が落ちて、カンナの跡を辿っていく。
でも今度は、カンナの滴じゃなかった。
ゆうながカンナにさらしてしまった自分を見られまいと、
彼女の胸のあたりに、カンナに巻かれた腕を思わず引き寄せる。
絶妙の瞬間
それでも照らす月夜は、ふたりの心を裸にして、光の先で混ぜ合わせ、
淡く重なったしずくを溶け合せてしまう。
カンナとゆうなは生まれてこの方、人というものをこれほど近くに感じたことはなかった。
こんなときは決まって、恥ずかしさもあり、
この絶妙で微妙な均衡を耐え切れず破ってしまうのは、なぜだか男の方だ。
「ゆうな、知ってた?。今、真夜中だよ・・。」
「カンナは、知ってた?。いっている間に夜明けだよ。」
負けじとカンナは脱線を試みて、
「じゃあ、おかしくねぇ?。こんな森ん中、女の子ひとりで・・。何しにきたの?」
それに流されまいと、ゆうなは女の真顔で返答した。
「カンナと同じよ。あなたに逢うために・・」
巧妙な沈黙
~ちょっと粋な今宵の月、、ふたりを完全昇華してみせる。。

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