カンナ&ゆうな

ノベルバユーザー526355

vol.25(5)

赤、青、黄と原色の輝きを放つ流線型の閃光が、どこまでもどこまでも底知れず深く
明度を失った暗闇を、この夜ばかりは縦横無尽にほとばしる。
輝きの残す見えない軌跡が、その暗黒の宇宙を溶かし、藍色をにじませた。
人の目は打ち上げ花火の華やかさに酔いしれて、
知らず人の心はその軌跡の織りなす宇宙の余韻につま弾かれている。
まるでギラつく昼間の太陽が、目を閉じるとまぶたの裏を丸く朱に染めるように。
ただ違いはベクトルが真逆で、昼間のそれは人の交感神経を昂ぶらせ、
夜のそれは副交感神経を優しく撫でてくれる。


散っては咲く果敢なくも永遠を約束されたような夏の夜空に舞う打ち上げ花火は、
カンナとゆうなを捕らえて離さず、結びつけていた。
気づかぬ恋愛感情、いや気づいていないフリをする恋愛感情
その感情フィルターを通し、DNAまで突き抜け染め上がる癒しに漂うふたり
先の見えない永遠より、束の間の確かな今の存在・・


間欠する花火の音に混じり、ゆうなの唇が囁く。
「あの花火みたいに生きたい。あの一瞬でいいから・・あの一瞬のように・・。」
それを聞きて、カンナはまだ誰にも話したことない小学生のとき図書の時間ふと手にした
本に書かれていた自分のお気に入りのフレーズを思い出し、口にした。
「生きて大業の見込みあらばいつまでも生きよ。
死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし。」
「似てそうだけど、それってすごく男っぽいね。
わたしのはねえ、上手く言えないけど・・、そうよっ、もっとこんなかな。」
ゆうなはすっと腰を浮かすと、N極がS極に吸いつけられるように
カンナの腰に自分の腰を並べ、寄り添うように小首を傾げた。
カンナの身体に熱い電流が走り、電圧メーターは振り切ってしまう。
それもよそよそに何事もないように夜空を見上げるゆうな
カンナが見下ろしたゆうな横顔は、花火の光りを受け、色とりどりに輝いていた。
そしてカンナの百万ボルトの電流がゆうなに届くのか、その火星の氷のように
突き抜けるゆうなの瞳を焦がし潤ませ、弾ける輝きを灯し射す。
「眼がしらがすごく熱い、・・夜なのに。こんなに鮮明な光、ひさびさだなあ・・。」
「ひかり・・ゆうなの心に届いてるの・・?。」 と、素直に率直にはなれないカンナ。
間を置くゆうな。その止まった時間を、花火が時を刻む。
枝垂れる花火に夢中になり見惚れているゆうなに、カンナもまた見惚れ。
そっと応えるゆうな
「・・あなたの視線もね。」

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