カンナ&ゆうな

ノベルバユーザー526355

vol.26(1)

・・・昼下がり
ベッドに座り、壁にもたれ、膝を抱え三角座りのゆうな
そのとなりには、実家から持ってきていた数少ない持ち物のひとつ、クマのぬいぐるみ
どことなく不細工、でもその見た目ではわからない毛なみの肌触りには、
ゆうなの誰にも言わない秘密の自慢だった。
その子も壁にもたれ、ゆうなの時間に、文句も言わず付き合っていた。


風はいつも吹いているよりも、ときおり吹く方がその存在を感じる。
開けっ放した窓から、ふわっと風が吹き込んで、レースのカーテンを持ち上げ揺らす。
壁に映ったレースの幾何学模様が揺れて、
まるで水の中から水上を見上げているかの心地にさせてくれる。
ゆうなは、ひと時が、昼下がりの小さな楽しみだった。
時にシャインブルー、時にパステルイエロー、時にモスグリーンの水中に漂う感じ
海を思わせ、空を思わせ、森を思わせる。
でも反面、そのにじむ世界に、ゆうなは違和感も覚えた。
自分のいるべきでない世界、居場所のない世界、いれない世界観
呼吸のできない息苦しさ
自分のいるべき世界はどこなのか
自分の居場所は・・
自分のいれる場所
自分が自分らしくあるために


引いては寄せる風の波
そう、これは森の息吹
リズムがあるようで、リズムを砕く波
森が深く呼吸をすると、一陣の風がいっそう波を盛って、
部屋に舞い込み、ゆうなの心に吹き込んでくる。
自意識するゆうな
自分だけの世界
カーテンが大きく煽られて、ゆうなの裸足の甲に、夏の陽だまりが押し寄せた。
ポツンとつま先に泊ったひとつの黒い影
見上げれば、ゆうなの部屋に迷い込んだシトラスブルーのシオカラ蜻蛉とんぼが一匹
空間に停止して、ゆうなと対峙する


予期せぬ、わたしの世界に迷い込んだひとつの存在・・カンナ
あなたは、私がこの地に望んだ平穏な世界を、気づかせない程に狂わせていく。
カンナ・・、あなたは私をどこに連れ出すつもり
このかごの中は、わたしが望んだ世界であって、わたしの運命


つま先を動かすと、その影はパッとマジックのように消え去った。
シオカラ蜻蛉とともに・・

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く