カンナ&ゆうな

ノベルバユーザー526355

vol.24(3)

ふたりを覆う大きな大樹の傘
まるで自分が生態系の頂点に立つように、地球というボールをがっしりとつかむ格好で
根を大地に張り出している。
歴史を踏んで何ごとにも動じず寄せ付けることもなかった圧倒的な存在感からは、
それに相反する無味無臭の目には見えない包容感が溢れ、丘全体を包んでいた。
見上げれば生命力あふれる若葉が満々と称え、その鮮度みずみずしさ故に、
降り注ぐ雨がはじき返され、その柔肌を幾重に伝って外へ外へと転げ落ちた。
少しペンキの剥げた白い木製ベンチ
ふたりは遠い記憶を遡りだす。
ポツリッ ポツリッ
ふたりを取り巻き舞い落ちる雨つぶが、華やいで見えた。
ノスタルジックなポケットに迷い込んだふたり
白いベンチは動かはずもない木馬となった。
この大きな傘の下の空間。この空気
そう・・メリーゴーランド


ふたりは回転木馬に並んで座っていながら、目を開けて別々の夢を見ていた。
雨つぶの、忘れてしまった幼き頃の記憶の糸を辿るゆうなとカンナ
おさげだった頃の自分にたどり着くゆうな・・・
  家族でお出かけした帰り、車の後部座席から見る窓ガラスに打ち付ける突然の雨
  大粒に大粒が重なって、風に任せて波打って流れ落ち、
  窓越しの夕闇の向こうの街灯や、列を成して流れ去る車のヘッドライトが、
  その日の楽しい想い出と相まって、まるで光り輝くシャンデリアのように目に映った。
丸坊主だった頃の自分にたどり着くカンナ・・・
  雨で外に遊びにも行けず、居間から庭をぼんやり眺めていると、
  雨のかかる裸の洗濯(物干し)竿に、あちらこちらと雨つぶが膨らみ、ぶら下がる。
  どれも大きさは違い、落ちそうで落ちない。
  となりとくっつき耐えきれなった雨つぶの中には、その向こうの庭が丸く映った。
  あっ! すっと糸を引き、おっこちる雨つぶが、
  その下にたまたまあったひしゃくのひっくりかえった頭にあたり、ポコリッと弾けた。
ふたりの別々の夢をつなぐのは、幼き日々の媚びを知らない感情に任せた無償の笑顔




ベンチの前で、雨漏りひとつ
ポツリッ ポツリッ
リズムがあるようで、ずれたポツリッに安らぐふたり
カンナがそのポツリッに、走ったきた火照りをまだ残す手の平を差し出す。
ゆうながそのポツリッに、若葉を思わせる瑞々しい肌の手の平を差し出す。
ちょうどふたりの人差し指が触れ合った先に、雨つぶがポツリッ
顔を見合わせ、無償の笑顔
自分の中で忘れてしまってた笑顔を、お互いの顔に見たカンナとゆうな
過去の自分が現実の自分にすれ替わる。
その瞬間の気恥ずかしさが現実の笑顔となって、お互いを惹き合うように結びつけた。

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