カンナ&ゆうな

ノベルバユーザー526355

vol.24(1)

夕暮れ時の帰宅途中、おうちの晩御飯が誰しも恋しくなるように、
週末が近づくと、何もないあの丘の何もかもが恋しく、
そこにいる自分をカンナは思い描いた。
気持ちはどこか、行きたい<帰りたい


朝を待ちわびでも、窓の外は星のかけらも見当たらない。
バケツいっぱいに水を満たしたような重い雲が空を覆う。
今朝は、朝の光がいつまで待っても届きそうにない。
居ても立ってもいられないカンナ
雨、降るぞ。絶対にぜったい。それでもいくか。カンナ
あの丘に何を求め、何を待ちわびる。


自転車をこぎ出すカンナ
堤防の追い風
足元をすくう砂利道
立ちこぎを強いる上り坂
自転車ひとこぎひとこぎ、何もかもがもどかしい。
どこまで行っても、回し車に乗ったハムスターのような気分だった。


あの丘に通じる橋をたどり着き、投げ捨てた自転車の後輪は空回り
最後の坂の先、丘のてっぺんでは、山の雲がカンナを手招きしていた。
登りつめると、湿度120%の雲が手の届きそうなところまで低く垂れこめている。
もういいか、カンナ・・
大粒の雨が大歓迎、頬に腕にカンナの肌を力強くたたいて、抱きしめた。


春のお告げに伸び出した野草に足が絡まり、雨に湿り出した土に足がとられて、
今にも転びそうな勢いで坂を直滑降のするカンナのすがた
カンナが今現われるのがわかっていたかのように、その一部始終を目で追うゆうな
知らずにカンナを待ちわび、心のどこか、ほっと感じる彼女の眼差し
雨に濡れた黒曜石のように、どこまでも透き通り、底のないその瞳に滑り込むカンナ
そこでまた、ふたりの心は触れずに触れ合い、絡まり交わり合った。
まるで大粒の雨が空に舞い落ち重なり合い、ひときわ輝きを増すように・・
それに気づかないのは、そう・・ふたりだけ

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品