カンナ&ゆうな

ノベルバユーザー526355

vol.21

あれから一週間
夢うつつな経験にして、この地に再び立つ膨らむ期待感が、カンナの一週間を
長くも短くもしていた。
ただ遠く山打ち際に授かった朝陽は、わずか一週間の変化を仰々しくも神々しくも
たんたんと語りかけてくる。
雲のシロップに覆われて、洋梨を剥いたようなわずかなざらつきと乳白色のきらめきを
発する太陽が、淡い酸味をともなってカンナの目に差し込み、彼の心に春の清々しくも
暖かい陽を灯した。
小高い丘陵の分水嶺を陰陽に引き裂く境界線で、一歩踏み出せないでいるカンナを
溶かし崩しかける。
『さあ、跨いでおいで、。こっちの世界へ。』


何も起こるはずのない一歩・・
そのわずかな一歩に、太陽までの距離を遠からず近づいた気がした。
草原には今までの砂利道はなく、辺りよりも草の剥げた跡だけが道を作り、
あの大樹の元まで続いている。
女の子がひとり、そこにいる。
その子が一週間前に見たあの子であるのは、後姿からでも、なぜか確信できた。
氷の彫像にも見え、崩しがたい、でも崩さずにはいられない存在感を放っていた。
屈折するはずのない朝陽が彼女の体を透過すると、奥深くでぎらつき、
それがまるで灯台のようにカンナの照らし、導いた。
一歩、一歩
彼女に抱いていた畏怖の念
こんなところになぜポツンと女の子が居座っているのか
絵になる光景に、それだけに今まで触れようとしなかった疑問
いるはずのない人影
一歩・一歩に疑念を乗せ、どこかでその解答を求めた
あり得るはずのないことに期待を抱き、失望を信じる。


彼女のシルエットがはっきりと拝める距離
それが確かな人であることに胸を撫で下ろした。
そして大樹に先に伸びた煉瓦れんが敷きの小道は、落胆にも似たあっけない幕切れに
通じていた。
丘側からは山かげに入り見えない、赤茶色の屋根の一階建て木造住宅
草原と家の敷地との境はなく、煉瓦敷きの小道が玄関まで続き、
草原が言わばだだっ広い前庭で、煉瓦の最後は数段上がった玄関ドアに達して、
左右にテラスが伸びた
彼女の座る長椅子と同じくらい古びてはいたが、真新しくも白く塗られたペンキ壁に
手の行き届いた清潔感を感じられ、好感が持てた。
おそらくその家は目前東西に横たわる河川から這い上がるような丘陵のテッペンに
あって、それまた見えないけれど下界というか町との行き来は、そちら側から
行われているに違いなかった。
つまり、お化け屋敷でもなければ、彼女はおばけでもなかった。
もちろん、森に棲む妖精でもない。


続く一歩、また一歩
どことない恐れから解放されたカンナの意識は、完全にまだ見ぬ女の子への好奇心で
満たされていく。

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