オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第96話:若気の至り

01月01日 曇り 17キロ
→surfers paradise(back packers)
ゴールドコーストのビーチは、30キロに渡って続く。でも、どこでも泳げるというわけでもない。砂浜に立ち見渡したところ、波の高さといい、どこも何ら変わりのない同じ海に見える。だが、一定の区間に限り遊泳禁止のスポットがある。僕は泳ぎのウデには自信があったので、そんな標識など気にも留めず、目の前の遊泳禁止区域に跳び込んだ。まさかそこだけサメがいるというわけでもあるまい。最初はどうってことはなかったが、沖に泳いで、ある一定のところまでくると、急に潮目がはっきりして、海岸から離れる凄い引き潮だった。見た目は穏やかな(穏やかとは言ってもサーフィンができるほどの波はある)なのだが、泳いでも泳いでも岸に辿りつけない。ヤバい。ヤバすぎる。少しでも泳ぐ力を弱めれば、沖へと流されてしまう。あれは、かなりハラドキものだった。一度沖合いに出てから、息を整えて、再度場所を代えて上陸アタックしなおそうとも考えた。でも、この状況で沖に出ても、戻ってこれるという保証はどこにもない。だから、焦りと恐怖で。ただ無我夢中で陸を目指して泳ぐしかなかった。腕と足がもげんばかりに動かし泳ぎ、やっとのことで岸に辿りついたときには、まさに命からがらの状態であった。遊泳禁止の標識の下で、うなだれ、肩で息をしている間も、沖でもパニックと恐怖で心臓がバクバク、鼓動がなかなか収まらなかった。
するとそこに、日本から旅行できた2組のカップルが通りかかった。その4人は、遠めに僕の様子を見て、なぜこんなところに真っ黒に日焼けした日本人のような人が、のたれ死んでいるのかを怪訝そうな顔していた。息が整ってきた僕は、生きている喜びに浸っているのがやっとで、まだ声も出なかった。すると、そのうちのマッチョの男一人が遊泳禁止の標識を見て、果敢にも海に挑もうとしていた。なんて日本人(僕も含め)はバカなんだろうか。僕は、息を飲み込みながら、その男に止めるように忠告してやった。僕が日本語をしゃべったことに、そのカップル4人はビックリしていたが、その男は言い出した手前、後に引けず海に入っていったしまった。残り3人と僕は、その勇んで飛び込んでいった男の様子を拝んでいるしかなかった。でも僕だけは知っている。その男も先ほどまでの僕と同じ目に会うことを。それだけに、どうしても止めるべきだったか。それだけの余裕がなかった。他の3人は、目の前で繰り広げられる海面で死にもの狂いの男の模様を見て、はしゃぎたてていた。楽しんでいるように見えたのだろう。南無阿弥陀仏。「知らぬが仏(放っておけ)」つまらぬダジャレを思いついている場合ではない。やっとのことで再び海岸にたどり着いた男の形相を見たら、僕は、生きて彼が生還した安堵もあり、無鉄砲な彼の行動が自分を見ているようで、おかしくなり笑ってしまった。
それがきっかけで、その日本人観光客たち4人と仲良くなり、日本語を話せる喜びもあり、ビーチでしばし時を忘れ話し込んだ。男2人はお金持ち大学生、女2人は夜の商売お水らしい。なぜか彼らは僕のことを最初から現地在住日本人を決めてかかっていた。それに何も聞かれなかったので、あえて訂正しなかった。確かに僕は旅行客には見えなかっただろう。ゴールドコーストは今回初めてではなかったので、いろいろと知ったかぶって、ゴールドコーストの見所をあることないこと教えてやった。すると、突然女の一人が、僕にマリファナのやり方を教えてくれと言い出した。そんなの持ってないと言うと、彼女が持っていた。聞けば、彼女の持っていたバックの中に、昨日の夜の通りで買ったというマリファナがはいっていた。ビックリだった。ハメを外したくなるのはわかるが、通りで知らないヤツから葉っぱを購入する大胆さ。人目もあっただろうに、怖いもの知らずにも程がある。また人目がないところでも売買もまたかなり危険極まりない。そして危険な橋を渡って買った葉っぱが、やっぱり巻きタバコに使うただの葉っぱだった。こいつらやっぱり揃いもそろって大バカだった。僕も以前の世間知らずなら、よく似たものだっただろう。僕は、マリファナの売買には気をつけないといけないだけを教えてやり、それがニセモノであることは黙っておいてやった。それで彼らが楽しめるのなら、わざわざ楽しい海外旅行の夢と冒険をぶち壊すことはない。吸い方も適当に教えてやったが、僕はいっしょに吸うのには、言うまでもなく丁重にお断りした。
次は、もうひとりの女がうまいものを食いに行たいと言い出した。素晴らしい展開だ。ただ飯がくれるかもしれない。それもご馳走を。ここは正念場だ。
「んん~。オレ、そんなに金持ってないしなあ。」
「おごってあげるよ。色々教えてもらったし、案内してもらえるなら、おれたちも助かるしさあ」
と、金持ちボンボンが、僕の筋書き通りのセリフをはき捨てる。かっこいい、男前。
「じゃ、お言葉に甘えていいなら、ガイドには載っていない、地元っ子の間で一番評判のレストランを知っているよ。それでいいなら、案内するよ」。
「お任せ、お任せ。話しは決まりだ」
と、みんなで、エイエイオーって感じだった。
で、一旦彼らと別れて、後で落ち合うことにした。忙しくなってきた。目ぼしい店は確かに何件かあった。店の前を通ったとき、テラスから見える客がつつく料理を見て、一度食ってみてえと思っていた店々だ。早速、一軒に絞る為、リサーチに出かけた。
夕刻、僕は、連れ立ってレストランに彼らを連行した。案の定、英語が全くわからない彼らはメニューを見ても、どんな料理かわからない。もちろん僕も英語は理解できても、ウンチクが出るほどどんな料理かは分かる訳がない。でもビーフ・チキン・シーフードぐらいはわかったので、適当に説明してやった。それでも彼らはわからないという。そりゃ、そうだろう、僕にも分からないのだから。ウェイターが注文を取りにきたので、ボンボンがカードあるから、適当に注文してくくれと僕に言った。望むところだった。僕は僕がこいつらにおごってやるんだとばかりに、ウェイターにどんな料理かも想像できないメニューを付き返し、『今日のお薦めを高いものから順番に5人前持ってきてくれ』と頼んだ。誰も味なんで、どうでもいいみたいだった。高けりゃ、うまいみたいな顔をしていた。それで欲が満たされるなら、結構なことじゃないか。料理を待つ間、ちょっとした舞台で、お客さん参加の余興があり、そのショーにパープリンお水姉ちゃん2人が飛び入り参加で大はしゃぎ。連れの男子大学生2人も目の前のご馳走に大喜び。僕もそれを見て気がねなく、新鮮なエビカニやジューシービーフを、ビール片手にここぞとばかりに胃に流し込んだ。みんなハッピー、これでよし。楽しいひと時をすごして、彼らとは別れた。
その後、宿への帰り道、ひとりパブに立ち寄った。「あいつら今頃ホテルに戻って、昼間の偽マリファナをキメて、やっぱり効くなとか言っているのかな」と考えると、噴出してしまった。

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