オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第81話:野生児

12月23日 晴 428キロ
→coles bay→freycinet n.p.(wine glass bay)→bicheno→st.helens→st.columba falls→scottsdae
→launceston→deloraine(YH)
タスマニア東海岸のスワンシーセントとへレンズ間。なぜか、急に、ほんと唐突に海が見たくなってきた。この衝動は、オーストラリア本島深く内地のアウトバックに覚えた感覚だった。ここはタスマニア島。海岸線近くをバイク走行しているので、いずれは海に出るはずだった。それがわかっていても、海をいずれ見れるであろうという発想自体がイヤになり、どうしても今、自主的に見たくてたまらなかった。そうなれば、バイクを降りて、ただひらすら、海を目指し、真東を目指すしかない。
道脇のブッシュ(草むら)に分け入る山道を発見。いざ、ブッシュウォーキングに出発だ。バイクを降り、気の向くまま東の方角へわき道に沿って歩を進めた。オーストラリア本島の内陸地では、例え幹線道路でも人を出会わない、というよりかブッシュ以外にないもないというところがゴマンとあった。そういった人口密度がゼロに等しいようなところでさらに装備も地図もなくわき道を入ることは、迷子イコール死であった。その命がけの経験していた僕にとっては、タスマニアのように幹線道路で車の往来を目にすることができるというだけで、そのわき道に入ることはさほど不安もなく、むしろその不安感をリセットのきくバーシャルなゲーム感覚で楽しむことができた。
目の前の道を行けば、いずれ必ず海岸線にたどり着く。タスマニアなんて、子供のころ遊んだ裏山同然。それでも山道を一人でさまようわけだから、実はそんな舐めきった気持ちでは即死に直結してもおかしくはなかった。とにかく、この頃の僕は、絶対にどうかしていた。人生投げやりになっているわけでもなく、生きていることへの執着みたいなものが全くなく、何事においてもどうにかなるという根拠のない自信、超オプティミスティック、イケイケの真っ只中だった。
水とミューズリー(ドライフルーツや脱穀類をミックスした鳥のえさみたいな食べ物)だけをバックバックに詰め、獣道をとことん歩きに歩いた。考えることは行き着く先の海岸、いやたぶん行き着くであろう海岸。僕は、自分の想像を超えた美しき海岸風景に遭遇することを想像するだけで、無上の喜びを感じた。道というよりか瓦礫の急な登り坂に息切るごとに、生きる喜びを感じた。やっぱ、変だろう。そして行ききった道が例え行き止まりであろうと、また期待ほどの心打つ風景がそこになかろうと、それはそれでなんと思わなかった。なぜから、また別の獣道を探せば、それでいいだけで、それよりも息を切る今の自分を大切にしたかった。
ブッシュの中では、ちょくちょく野性のワラビーを見かけた。腹が減り、ミューズリーをパクついていると、餌欲しさか、それとも仲間だとでも思ったのか、真近くまで寄ってくるワラビーもいた。ミューズリーを少し摘んで投げてやると、地面に落ちたそれをうまそうに貪りつく。さぞかしうまかったのだろう、警戒しながらも、ミューズリーをかかえた僕の手元まで近づいてきた。『お前ばかり食べずに、俺にもくれよ』とばかりに、差し出してきた手に、ミューズリーを載せてやった。それを上手に口元に運び、むしゃむしゃ食べている。その食いっぷりは、悲しいかなまるで自分を見ているようであった。
すると、突然のシャッター音。二人(僕とワラビー)して、音のする方に顔を向ける。すかさず、またシャッターが切られた。目の前に現れたのは、若いカップルだった。男の方が、珍種の動物でも見るように、まだファインダー越しにカメラをぼくに構えていた。連れの女の方は、息を切らせながら、
「びっくり! まさかこんなところで人がいるなんて」
とほざく。
ぼくも、ワラビーと出くわすよりも、人間と出くわす方がびっくりだった。
「ぼくは、野生ではありませんので。」
少し間をおいて、ぼくのジョークにか、それとも僕がしゃべったことにかわからないが、彼らが顔を合わせ笑い出す。
僕は僕で、不覚にもワラビーとエサ(ミューズリー)を分かち合っている姿を見られ、その現像された写真を思うと木っ端恥ずかしくなり、笑い飛ばすしかなかった。
「頼むから、日本人の名誉にかけて、ライフ誌なんかに載せないでくれよ」
「わかった。ナショナルジオグラフィにしておくよ」

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