オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第76話:タスマニア大国

12月20日 雨・くもり 539キロ
→queenstown→derwent bridge→lake st. clair→ouse→westerway→strathgordon→gordon pawer ststion
→russell falls(mt.field n.p.)→glenora→plenty→newnorfolk→granton→hobart(YH)
今日もまた道を往く。道を重くのしかかる雲、雨が降っては止んでのタスマニアだった。タスマニアを語るとき、誰もが雨の森レインフォレストを口にするが、決してそれだけで片付けられる代物ではなかった。大して大きい島(北海道より小さい)でもないのに、タスマニアが変幻自在に姿を変え、幾度となく僕を驚愕させた。突如襲いくる目が覚めるようなシビれる感覚は、まるで暗闇を走るジェットコースターのようだった。例えばこんな奇妙な光景に、まさに口が開いて塞がらなかった。。空は厚い雨雲に覆われているにもかかわらず、僕の頭上だけは泡を吹き散らしたように青い空が突き抜け落ち込んでいた。
今また道を往く。木でもない、岩場でもない、草でもない、シダの葉っぱで埋め尽くされた山林の妙技。太古より変わらぬ原生林の芳醇な空気が、開け放たれたヘルメットのバイザー越しに肺に流れ込み、血流に乗っかり体中を駆け巡る。
雨にまた打たれ道を往く。暗く濡れそぼった山肌は、鋭利な刃物と化した稲妻に打ち砕かれ、一面ガレ場の地獄絵図だった。
道なき道を往く。原始の森を導かれ、足をぬかるませ、七人の小人を探し求めた。なんだかわからない。森の意思がそうさせた。森の住人ワラビー(小型カンガルー)も、僕を小馬鹿にしたツラで、森を奥へ奥へと誘う。眠れぬ森の美女なんているはずもない。でも不思議の国のアリスとなら出会えるような気がした。ブッシュをモサモサとうごめく物体。それは図鑑でしか見たことのないハリネズミだった。足で彼の横っ腹を小突くと、身体中のとげのような剛毛の毛並みを逆立て、威嚇のポーズを取った。僕も負けじとキバを剥く。
雨、雨、雨。雨の道を往く。人間ってそこまで非力な力を誇示したいものなのか。この大量の降雨量をコントロールするがための巨大な建造物ダムは、これまた半端な大きさではなかった。自分が小人のように思えてくるほど馬鹿デカすぎるコンクリートの堰、左右の水位の高低さは、そこから飛び降りれば、末代3世代は死ねるだろうに。
知らない何かを求め、道を逝く。そしてこれも見ずして、タスマニアを語れるだろうか。大草原に突如現われた広大な湖の大パノラマ。とても写真のフレームには収まりきれない。その湖面に映る流れる雲と大空、その青は空の青か水の青か、どちらが本物で偽モノか。天変地異、空が落っこちてきた。ふたつの青は、僕がどちらの世界に存在するか問い詰める。オモテとウラ。現存の錯覚は錯覚か現存か。
音もなく風が、さざ波を立てながら湖面をさらい、僕の鼓膜を振るわせた。
『さあ、応えろ。間違いは許されない。お前の住む世を自ら決めるがよい。願わくば、一陣の塵がごとく、お前の存在を吹き飛ばし、消し去ってやろう』
「血より濃い水はない」なんていうが、その血でさえもこの湖の前ではさっと跡形もなく溶け込んでしまうだろう。なんなら、僕の全身の血を以って試してもいいさえ思えた。
冷え冷えとした風が逝く。風ってこんなに透き通るものなのか。僕の体温を容赦なく心地よく奪い去る。最後に残ったのは、僕の煮えたぎる血だった。まるで僕の血潮が噴出し、夕陽を赤く染めた。
道を行く。タスマニア以南の町ホバートはもうすぐそこにあった。ワイナリーが点在するぶどう畑や酪農風景が人の存在の温かみを伝え、ひとり勝手に興奮した僕の心を静めてくれた。
タスマニア州に入って、まもなくこの島を半周する。事ある毎知らずにうちに、このちっぽけな州をメインランドのオーストラリアと比較してみたが、どうやらその答えが出たようだ。この島は州ではなく、孤立した一個の小国、タスマニア大国らしい。

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