オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第74話:雨は天の恵み

12月18日 雨 435キロ
→devonport(ferry)→burnie→wynyard→table cape(fossil bluff)→boat harbour beach→sister beach
→rocky cape(アボジニナル rock cave)→rosebery→zeehan→strahan(YH)
滑らかなカーブを描く丘陵の山あいの眺めは、まるで印象派ルノアールの鮮やかな色彩溢れるパステルカラーを実写にしたような情景を思い起こさせた。折りしも降り出した雨がキャンバスを濡らし、この雨が絵画でなく現実であることを物語っていた。バイクを止めてしばし天を仰ぎ、森とともに雨に打たれた。ルノアールは優しい太陽の光が降り注ぐ森も以って生命の躍動感を表現した。でも雨の森レイン・フォレストこそ、題材にすべきだったろう。雨こそが何もかも洗い流し、全てを清めてくれる。彼がレインフォレストを絵にしたためなかったのは、彼が最後に残した唯一の独り占め・彼だけの秘密の贅沢にしておきたかったのではないか。頬を伝う雨、一枚の葉となった自分を感じながら、まるで誰も見たことのない隠されたルノアール作品を観賞した気分になった。
でも、こう雨脚が強くなってきては、おとぎの国気分にいつまでも浸って要られない。さらに行く手には厚い雨雲が迫っていたので、早く通過すべく先を急いだ。まだ今は陽が高いはずなのに、みるみる辺りは一層暗くなる。雨で見づらくなったカーブを抜けたところで、壁となって迫る山を目の当たりにし、突然真っ暗な暗闇に迷う込んだ恐怖感を覚えた。忽然とそびえたつ山々、その山肌には、木どころ、一片の草さえも生えてなく、ごつごつした黒い岩が、雨に濡れてさらに強い妖気を放っている。直感、それは山を削り、谷を深くえぐった鉱山だった。初めて見るそれは、むかしオヤジに見せてもらったことのある鉄鉱石と同じ色をしていた。全く生と命を感じさせないゴツゴツとした岩肌は、SF好きの僕をM48星雲の第3惑星?に降り立った気分にさせられた。そこを抜けると雨脚も幾分弱まり、またもおとぎ話しの世界に逆戻り。透き通る小川のせせらぎ、しかし、透明感溢れる川底は、黒糖色と言おうか漆黒の光を放っていた。なぜなら、辺りは緑豊かな自然で溢れていても、川底はつや消しガンメタリックの鉱物を含む岩石で敷き詰められているからだった。すばらしいこの自然環境からして、その小川を流れる水はさぞやピュアな天然水だろう。ミネラルの含有量は想像を絶しているだろうから、飲めばどんなに手怖い便秘でも一発で治ってしまうにちがいない。
夕方、まだしぶとく雨が降ったり止んだりの状態だったので、テントを張る気力は消え失せ、マクォーリー湾の小さな漁港ストローンの外れにある宿屋を泊まった。この季節は日の入りも遅く、夜8時でもまだまだ外は明るいといった具合で、雨も霧雨になり、なんか情緒たっぷりだったので、港まで降りることにした。そこでどう見てもジモティにか見えないラフな薄汚れた格好で、波止場をプラプラとしてみる。
とある宿屋にくっついたパブの中から、ガラス越しに手招きをしているオヤジがいた。待ってました、酔っ払い一号発見。僕も酔っ払い2号となるべく、古くから親しい友人のようなツラをして、そのパブに乗り込んだ。
ビールを流し込むにつれ、エンジン全開となり、クダを巻いた。
「いいか、オヤジ。よく聞けよ。オーストラリア大陸ってぇのはなあ、赤い大地の塊なんだよ。それにぶっ倒れそうな暑さ、ほんとキツいよ。その中をどこまでもまっすぐに伸びた永遠の道。他にはな~んもないんだ。ペンペン草さえ生えちゃいねえとこさえあるんだ。これを何ていうか知ってるか。アウトバックてぇんだよ」。
僕は酔っ払った勢いで、パブの中にいた数人の地元オージーたちに、オーストラリア(本島)についての講釈をタレていた。僕の話しに本当に感心して聞いているのか、こいつらを見ていると、どちらか外人かわからなくなってきた。
それにしても、ここの人たちがしゃべるオージーイングリッシュ(オーストラリアなまりの英語)はかなり訛りがキツく、何言ってるか、さっぱりわからん。酒のまわった僕の英語と、かなりいい勝負していただろう。それでもお互い、楽しい酒を飲めるのだから不思議なものだ。陽もとっくに落ち、夜もまさにふけたので、自分の宿屋に帰ろうとすると、オヤジがうれしいことを言ってくれた。
「明日も来いよ、兄弟。おごってやるから。昼間は、河で遊覧船にでも乗ってくりゃいい」
「まっすぐ歩けたら、また来るよ。兄弟」
千鳥足の僕、わざわざ水溜りを選んで歩かなくてもと、自戒の念。
この様子じゃ、明日も雨は止みそうにない。遊覧船どころじゃないだろう。
雨、雨、降れ、降れ、母さんが♪...

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