オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第61話:通りすがりの友達たち

12月9日 晴 391キロ
→crystal brook→gulnare→clare(leasingham wines)→sevenhill(sevenhill cellars)
→waterruale(eaglehawk estate)→tarlee→kapunda→greenock→nuriootpa→angaston(yalumba)
→engler’s hills→lynpoch→gawler→adelaide(c.p.)
ナラボー砂漠を抜けて、最初の町らしい町がポートオーガスタ。そこと過ぎると、小さな集落(日本でいう村)だがポツポツと点在しはじめ、徐々にその間隔も短くなってくる。それでやっと「ああ、やっと人の住むところにやってきたんだな」と思え始める。こんな感想もバイク旅ならではと言えようし、それが味わえる自分を幸せに思い、またこれごとき幸せに感じられる自分がうれしかった。集落のような地名がある場所を通りすぎる喜び、知らない土地でもそこに人が住むでいるというだけで、安堵の気持ちがこみ上げてくるものだ。「人はやっぱり一人じゃ生きていけない」と、実感に次ぐ実感だった。
さて今日の課題は、ナラボー越えを祝してのワイナリー巡り。いい響きだ。こんなすばらしいことがあっていいのだろうか。そう言えばいつの間にやら空から降り注ぐ日光が、突き刺さるような日差しから、優しく暖かい陽だまりと変わっている。辺りの景色も赤茶けた土の荒野アウトバックから、森の木立ちが随所に並ぶ穏やかな丘陵地帯へと変化を遂げている。そりゃ、心弾むはずだ。バロッサバレーは、南オーストラリアの州都アデレードまで数十キロという位置にあり、ワインの産地として非常に名高いところだ(アデレードでそのことを知った。どおりでワイナリーも多く、何より美味いわけだ)。小高い丘には延々とワイン畑が続き、点在するお屋敷や農家は開拓時代の歴史とどこからともない優雅さを漂わせ、その雰囲気は、どこかヨーロッパ(行ったことはない)的な匂いがしていた。午前中に訪れたワイナリーの数は覚えているが、昼から周ったワイナリーの数ははっきりしなかった。昼ごろには程よくワインが血管を伝って体中を巡り、それから後の訪れ、頭の中に撮り貯めたワイナリーの情景も、どこのものなのか完全にごちゃ混ぜ状態となっていた。ワインはどこでもタダ。いっぱしにもグラスの淵に鼻をすり寄せ香りを楽しんで、それからおもむろに一口ワインを空気といっしょに口に含み、舌の上で転がしてみる。ワインと空気を混ぜると、味が際立った。いくつも試飲していると、そのワインの獲れた畑・作られた現場・寝かされたワインセラー(酒倉)をどうしても見たくなり、そこの人を捕まえて質問攻め、蔵をみせてくれなどわがままな願いをその都度適えてもらった。なぜか酔うと、英語もスラスラ口をついて出てくるものだ。類は類を呼ぶのか、訪れるワイナリーの先々で同類の人びとと意気投合してしまい、まるで久々に顔を合わせたか昔の友達のように楽しく会話を交わした。ワインは出会いをもたらせる。余りに親しそうだったのか、現地の人からも「おまえたち、いっしょに旅をしているのか」なんてことも言われたぐらいだった。こうして今日、何人の友達とすれ違ってかわからない。何人かとは親しく名前で呼び合ったりもした。それでも別れ際にこの先もう顔を合わせることもないだろう相手に「シー・ユー・アゲイン」と笑顔で応え、各々の旅を戻っていく。酔いも手伝って、白昼夢でも見たかのようだ。ひとり旅は、悲しい出会いと楽しい別れの繰返し。これからも、何人の見知らぬ友人とすれ違うことになるのだろうか。

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