オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第54話:冷たい雨

12月4日 くもり 465キロ
→rivermouth→cape mentelle(winery)→redgate(winery)→witchcliffe→karridale→naaup→bridgetown
→walpole→denmark→albany(Y.H.)
忘れかけていたこの感覚、寒さによる身の震え。アルバニーへの道中、むちゃくちゃ寒かった。バイクでの旅では、風をもろに受ける。だから一度、寒気を感じると、風に体温を奪われ、みるみるうちに身体の芯まで凍ってしまう。今までの旅は、暑さに悩まされたが、これからは早め早めの防寒対策が必要になってくる。
では暑いと寒い、どちらの方が果たして苦痛だろうか。答えは寒い方だ。身体的にはどちらもつらい。でも、寒いと、精神的に気までめいってしまう。ほんとド~ンとわけもなく落ち込んでしまうのだ。こんなあてどない旅で、僕は何してんだろう、なんて悲観的な考えが頭に巣作ってしまう。極寒の地で南極点を目指して突き進んだ、かの有名な植村直巳はすごいすぎる。南極点に到達という前代未踏の目標を掲げていても、僕なら決して目には見えない南極点の存在などすぐに信じられなくなってしまうだろう。そういった意味では、暑さの方が、ぶったおれそうになっても、まだマシだった。暑い国に住む人々は根っから楽観的な陽気さを持ち、寒い国に住む人々はじっと耐え忍ぶというイメージは、僕のこの旅の実体験として納得してしまう。
西オーストラリア最南の町アルバニーにつく頃には、雨も降り出してきた。バイクで走っている時よりも、疲れてテントを張っている時に雨に降られる方が、ずっと辛い。この上、寒いとくれば、迷わず屋根のある(これが重要)安宿でも飛び込むしかなかった。荷を解き、熱いシャワーを浴びる。身体が蘇る瞬間だった。夕食は、地元スーパーで手に入れたTボーンステーキ。この頃の旅は、道中、牛を見るたびに、反射的に、「今にみてろ、食ってやる。」と心で叫んでいた。外は相変わらず雨・雨・雨。僕としてはめずらしい。パブにビールを飲みにいく気にもならなかった。これも久しぶりの寒さのせいか。明日の暖かい日差しを天に祈りつつ、ドミトリー(共同部屋)の固い2段ベッドの上に敷いたシュラフ(寝袋)に潜り込んだ。いつもテントの中ではバタンキュウの僕も、今日に限ってなかなか寝付けない。まさかベットだからなんてことはないだろう。色々なことが頭に去来する。暑さで死にそうになりながらノーザンテリトリーと西オ-ストラリアの州境を跨ぎ、いつの間にやらこうして最南端の地に、どうにか無事たどり着いている。この州に足を踏みいれたときの僕と今の僕とでは、まるで別人のように思える。どう違うか、うまく表現できない。以前よりも野太く、物事に動じなくなった自分。水面を漂う浮き草のような生活でありながら、重心が以前よりもぐっと低くなった自分。勝手気ままな自分のはずなのに、自分勝手でなくなった自分。そしてこうして自分と素直に向き合う自分。ああああ。もう寝よう。

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