オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅
第41話:些細な出来事!
11月26日 晴 575キロ
→karratha→dampier→nanutarra r.h.(CP)
ただバイクを走らせているだけの一日。どうってこともない時間経過の中で、時にハッとさせられることもある。
見渡す限りの大草原。誰しもその言葉から、緑豊かな風景を思い浮かべるだろう。でも、ここは少し趣きが違っていた。草原は草原でも、地平線の彼方まで続く草々は全て朽ちることもできぬくらいカラカラに枯れ果てていた。でもそんな蝉の抜け殻のような草原でも、青々と生気をみなぎらせ、舐めるような牧歌的な風の流れが似合う時期もきっとあったにちがいない。それがどうだろう、今目にするのは、どう見ても草木を潤わすだけの水と養分があるとは思えない風が砂を洗う不毛の土地であった。奇跡的必然、雨が降る時期に限り大地が一挙に芽吹く底知れぬその力に、もの言わぬ怖さ畏怖の念を覚えた。
炎天下、砂地を這いつくばるように四方に延びる枯れた草原の中をしばらく行くと、前方に何もないはずの大地にモウモウと煙が立ち込めているのを発見。ブッシュファイア(草原の火事)だ。その火事があまりの広範囲に渡っている光景に、思わずバイクを止めて、その自然の成す業に独り感極まってしまう。
草原一面が燃えているわけではない。炎天下枯れた草は乾燥率120%だったが、燃え盛るほどももともと生えていない。実際に弱々しくも燻ぶる火がついているのは、僕の足元から波打ちように走る前線のみ。どこか遥か彼方の地平線の向こうで始まったブッシュファイヤーが、触手を伸ばすように野を焼き続け、ここまでやってきた。その前線を挟んで、黒と白で真っ二つに分かれている。既に炭と化した草原は黒の世界を作り、ぼくが今やってきた枯渇した大地は白の世界を作っていた。そのコントラストに跨いで立ち、オシッコをした。興味本位の焼き石に水。もう小もないユーモアに、ひとりにやける。
黒く焼きただれたブッシュは僅かながらの養分を大地に与えるはずだ。そこにまたいつか、でも確実に僅かばかりの雨が降り注ぎ、生命が開花する。生きるのには過酷過ぎる世界、すぐに枯れてしまう。でも決して息絶えることはない。ブッシュファイヤーは完全な死をもたらすのではなく、大地を洗浄し新たな振り出しに戻す。この自然の循環は、きっと幾度となく繰返され、これからも終わることはないだろう。想像を絶する世界が、一見何もない大地に横たえていた。それを逃がさず感じることができた自分にうれしく思う。その時、僕は、大地を這い辺りを一変させてゆく僅かばかりの火に、荘厳で神秘的な秘めたる生命力を感じずには入られなかった。
日に数百キロ荒野を移動していると、よく車に跳ねられて死んだカンガルーなどの動物が、路肩に転がっているのを目にする。最初見たときは驚きもしたが、見慣れたこの頃では、死んでからどれくらい経過してるのかなとか、腹わたが露出しているから肉食の動物ディンゴでもやられたのかなとか、すれ違い瞬時に実況検分したりした。モノによっては稀に、跳ねられ即死し肉食動物の発見も免れて、炎天下そのまま干上がり骨と皮だけになった姿ジャーキーもあり、その造形芸術となったミイラに、死に様の中の生き様を思い描いたりもした。牛などの大型動物は、轢く方も命がけとなる。そのため僕は辺りを遠方まで目視できる昼間しか走らないようにしていたが、やっかいなのは鳥であった。裕に100キロ以上でバイクを走らせているので、突如視界に現れる鳥ばかりは退けようがなかった。バイクと同じ進行方向に逃げた鳥をタイヤで踏んづけてしまったり、向かってくる鳥は自分の身体にぶち当たり、体格の小さな鳥でもすごい痛みであった。バイク走行中、虫とはよくぶつかってはいたが、鳥のその衝撃は、肩に当たったときなど鎖骨が折れたんじゃないかと思うぐらいの激痛だった。またわき腹に当たったときは、僕の腹に鳥のくちばしが刺さったのではないかと思うぐらいで、思わず息ができなくなりバイクを路肩に止め、外傷を確かめたほどだった。僕でこうなのだから、きっと鳥の方も即死にちがいない。いい迷惑だ。もちろん僕でなく、鳥たちにとって。そんな時、旅には何かと犠牲がつき物だなんて至極勝手な理由を並び立てて、成仏を祈り『ナンマイダ~。鳥よ、安らかに眠れ』と念仏を唱えるようにしていた。
→karratha→dampier→nanutarra r.h.(CP)
ただバイクを走らせているだけの一日。どうってこともない時間経過の中で、時にハッとさせられることもある。
見渡す限りの大草原。誰しもその言葉から、緑豊かな風景を思い浮かべるだろう。でも、ここは少し趣きが違っていた。草原は草原でも、地平線の彼方まで続く草々は全て朽ちることもできぬくらいカラカラに枯れ果てていた。でもそんな蝉の抜け殻のような草原でも、青々と生気をみなぎらせ、舐めるような牧歌的な風の流れが似合う時期もきっとあったにちがいない。それがどうだろう、今目にするのは、どう見ても草木を潤わすだけの水と養分があるとは思えない風が砂を洗う不毛の土地であった。奇跡的必然、雨が降る時期に限り大地が一挙に芽吹く底知れぬその力に、もの言わぬ怖さ畏怖の念を覚えた。
炎天下、砂地を這いつくばるように四方に延びる枯れた草原の中をしばらく行くと、前方に何もないはずの大地にモウモウと煙が立ち込めているのを発見。ブッシュファイア(草原の火事)だ。その火事があまりの広範囲に渡っている光景に、思わずバイクを止めて、その自然の成す業に独り感極まってしまう。
草原一面が燃えているわけではない。炎天下枯れた草は乾燥率120%だったが、燃え盛るほどももともと生えていない。実際に弱々しくも燻ぶる火がついているのは、僕の足元から波打ちように走る前線のみ。どこか遥か彼方の地平線の向こうで始まったブッシュファイヤーが、触手を伸ばすように野を焼き続け、ここまでやってきた。その前線を挟んで、黒と白で真っ二つに分かれている。既に炭と化した草原は黒の世界を作り、ぼくが今やってきた枯渇した大地は白の世界を作っていた。そのコントラストに跨いで立ち、オシッコをした。興味本位の焼き石に水。もう小もないユーモアに、ひとりにやける。
黒く焼きただれたブッシュは僅かながらの養分を大地に与えるはずだ。そこにまたいつか、でも確実に僅かばかりの雨が降り注ぎ、生命が開花する。生きるのには過酷過ぎる世界、すぐに枯れてしまう。でも決して息絶えることはない。ブッシュファイヤーは完全な死をもたらすのではなく、大地を洗浄し新たな振り出しに戻す。この自然の循環は、きっと幾度となく繰返され、これからも終わることはないだろう。想像を絶する世界が、一見何もない大地に横たえていた。それを逃がさず感じることができた自分にうれしく思う。その時、僕は、大地を這い辺りを一変させてゆく僅かばかりの火に、荘厳で神秘的な秘めたる生命力を感じずには入られなかった。
日に数百キロ荒野を移動していると、よく車に跳ねられて死んだカンガルーなどの動物が、路肩に転がっているのを目にする。最初見たときは驚きもしたが、見慣れたこの頃では、死んでからどれくらい経過してるのかなとか、腹わたが露出しているから肉食の動物ディンゴでもやられたのかなとか、すれ違い瞬時に実況検分したりした。モノによっては稀に、跳ねられ即死し肉食動物の発見も免れて、炎天下そのまま干上がり骨と皮だけになった姿ジャーキーもあり、その造形芸術となったミイラに、死に様の中の生き様を思い描いたりもした。牛などの大型動物は、轢く方も命がけとなる。そのため僕は辺りを遠方まで目視できる昼間しか走らないようにしていたが、やっかいなのは鳥であった。裕に100キロ以上でバイクを走らせているので、突如視界に現れる鳥ばかりは退けようがなかった。バイクと同じ進行方向に逃げた鳥をタイヤで踏んづけてしまったり、向かってくる鳥は自分の身体にぶち当たり、体格の小さな鳥でもすごい痛みであった。バイク走行中、虫とはよくぶつかってはいたが、鳥のその衝撃は、肩に当たったときなど鎖骨が折れたんじゃないかと思うぐらいの激痛だった。またわき腹に当たったときは、僕の腹に鳥のくちばしが刺さったのではないかと思うぐらいで、思わず息ができなくなりバイクを路肩に止め、外傷を確かめたほどだった。僕でこうなのだから、きっと鳥の方も即死にちがいない。いい迷惑だ。もちろん僕でなく、鳥たちにとって。そんな時、旅には何かと犠牲がつき物だなんて至極勝手な理由を並び立てて、成仏を祈り『ナンマイダ~。鳥よ、安らかに眠れ』と念仏を唱えるようにしていた。
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