オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第36話:星座になった僕

11月23日 晴 929キロ
→victoria river→timber creek→kununurra→halls creek(CP)
一日中、走った。とにかく炎天下、走りに走った。その距離927キロ、どんでもない距離だ。バカだ。バカ以外の何者でもない。そしてバカは救いようがない。西オーストラリアに関する情報は、他の州に比べても明らかに少なく、オーストラリア人さえよく知らない。それもそのはず、いけばよく分かる。どこにも寄り道するような見どころ・食べどころなど特筆するようなネタ自体が転がっていないのだ。さすが西オーストラリア。それが西オーストラリア。シートに跨り、アクセルを開ける。後はただ走るだけ。よそ見すらすることもなく、運転に全く注意を要しない。電車のシートに居眠りしているのと代わらない。半日もすると頭と体が壊れ始め、今の自分の状況が飲み込めなくなってくる。でも何もないから走ることをやめることはない。ちょっぴりの走る苦痛を感じながら、それでもバイクで走っている感覚をさらに失ってくると、喜び・快感に沸いてくる。苦痛と快感は、その感情ベクトルが正反対であっても、実は表裏一体、同じ直線上にあることがわかった。僕はバカになった。期待いたとおり、ほんと楽しくうれしい。何がこんなに楽しいのか、そんなものは何もない。この摩訶不思議な感覚こそ、西オーストラリアの魅力なのか。
今日の出来事で思い出せること。
給油場/でっぷりした身体つきに、半ズボンからのびた毛むくじゃらの細い足を持つ親父。給油のおつりを差し出した彼の手のツメの間には、黒い油と赤い土が詰まってあった。洗っても落ちそうになく、深く染み込んでいる。足の細さとは対照的に、その男の強さを感じだ。
ランチ/小さい小さいレストラン(というよりか民家のダイニング?)で、それはそれは馬鹿デカいハンバーガーとキングサイズのコーラーを食す。まるでグローブとメガフォン。それを作ったおばさんが、『どうだ、参ったか』と言わんばかりに、唯一の客である僕の腰掛けたテーブルの向かいにふんぞりかえって座り、ニコニコしながら僕の食べるの眺めていた。『かあちゃん、うまかった。ご馳走さん。』
おしっこ/大発見だ。何もない砂漠道。オシッコがしたくなってバイクを止めた。隠れてするところなんてない。もっとも地平線に彼方まで人っ子ひとり目につかないのだが。さて、いざオシッコをしようと思ってズボンを下げても、なかなか出てこない。なぜか。尻に刺さる日差しを感じながら、思考した。結論・・・地平線の彼方まで何もないようなと所で、いざオシッコをしようとするときに、辺りは一様に赤い土で、ひっかけるターゲットとなるモノさえない状況では、出るものも出なくなってしまうらしい。試しに小石を探して、足もとに置いたみた。あら不思議、ジョロジョロと溢れてくる。面白いものだ。遠い彼方を見ながら放尿すると、360度地平線まで全てを征服した気分にさせてくれる。イヌのマーキングもこんなものか。いつのまにか自分が野人化していることを自覚した。これも大発見だ。
通り雨/炎天下での突然起こる欲求。『雨に打たれたい』。行く手に一団の雨雲を見つけた。道は曲がらず、墨汁をたらしたような雲の下まで続いている。文明社会にいるかぎり、雨に濡れたいなんて思わないものだ。でもここ西オーストラリアではその逆となる。雨に打たれたい。急げ、突っ走れ、雨雲が去ってしまう前に。雨雲の間近になると、アスファルトの上に太い雨がボツボツと降り注ぎ、黒いシミを残す。しかしそれもつかの間、まさに焼けアスファルトに水、すぐに干上がってしまう。砂漠に現れる境界線、雨雲が作る日陰にバイクは飛び込んだ。バイクを止め、ヘルメットを脱ぎて、天を仰ぐ。僕を打つ雨は、僕の身体を濡らし、僕の心を癒してくれた。この一塊の雨雲は僕だけのもの。開けた唇を伝う優しい雨が、喉をかすかに届く。気のせい・・・、雨と楽しむ一雫の時。雨に感情はあるのだろうか。
走りに走って行きついた小さな片田舎のキャラバンパークに、な、なんとプールを発見。幸いか、これが今日バイクを降りるきっかけとなった。砂漠に住む者にとってのオアシス、それがプールとなって実現する。今までにも幾度か目にしたが、みんな思うことはいっしょなんだな。いつもの自炊の定番メニュー、ゴハンにシーチキンをぶっかけたささやかなご馳走を食べたあとは、ほてった身体をプールに浮かべ遊んだ。水面で仰向けに身を浮かばせ、羅針盤のように身体を回転させると、夏の夜空に星々が僕を中心にして円を描く。天然プラネタニウム。いや発想がおかしい、プラネタニウムは所詮、空虚な世界。例えるなら星座のメリーゴーランド、その方がずっと浮き浮きした感じが表現でき、正確だ。先ほどまでいた兄弟もいなくなり、プールの水面が静まりかえる。僕のまわりにも満天の星空を映っているのだろうか。水面で揺れるこめかみを感じながら、しばし耳をそばだてた。
この頃の僕は、いよいよ頭の回路がショートしているようだなぁ。考えることが、おかしいすぎる。

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