オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第25話:さすがオーストラリア

11月18日 晴 588キロ
→mataranka→katherine(YH)
スチュアートハイウェイをひらすら北上。東西の移動とは違って、南北方向への移動では、辺りの景色がみるみる変化を遂げて往く。なにもない砂漠から、背丈の低い草が所々生え揃うサバンナに変わり、そしてぽつぽつと幹のしっかりした木々が目につくようになってくる。日本の四季は待っていれば時間経過とともに訪れる。しかし今自分が移動することによって迎える気候の移ろいは、時間を倍速で旅しているような感覚を僕に味合わせてくれ、なかなかおつなものだった。
とはいっても海からははるか内陸であり、アウトバックであることには変わりはない。赤茶けた荒野にはこれといった見所もなく(それが見所と言えば見所だが、こう毎日では飽きる)、ただバイクで走っているだけでは、一番の刺激はやはり暑いということに尽きる。
そんな中、行く手にヘリコプターが飛んでいるのを発見した。鳥さえも飛んでいない空をヘリが飛来してくる。それだけで十二分の刺激だった。自分以外の生き物に遭遇したことに嬉しくなり、挨拶のつもりで大きく拳を突き上げ、力一杯手を振った。それはあっという間に通り過ぎ、バックミラーに収まった。でもどうだろう、そのヘリコプターは飛行経路を変えて、まっすぐこちらにまた向かってきて、あっという間に前方に飛びすぎていった。パイロットも暇なのだろう。また、Uターン!? その時、なぜか先日の夜間テント襲撃事件のことが脳裏をよぎった。まさかヘリコプターでは襲われようもないだろう。最初は豆粒ほどだったヘリもみるみるうちに接近して来て、心なし高度を下げた気がした。バイクの速度は120キロで、ヘリコプターの速度は遅くてもバイク以上はあった、両方で合わせて時速240キロのスピードで間合いが詰まっていることになる。まさか…、やばいんでないの。お互いの間隔は秒速で数百メートルまで詰まる。その時点でヘリコプターの高度は、向かう先の地面スレスレ。ハリウッドでもあるまいし、こんな危機が日常(日常と呼べるなら)にあっていいものか。接触まで残された時間はわずか数秒、距離は瞬く間に詰まる。こんなとき映画ではスローモーションはずだが、事は現実そうはいかない。100キロ以上のスピードで、自分より高いものは周りにない、どうして逃れようがあろうか。起こり得ない現実の把握もままならない状態、ましてこの炎天下、垂れる汗が一瞬にして冷たいものに代わる。次の瞬間、鼓膜がやぶれんほどの爆音とともに、ヘリコプターが自分のヘルメットスレスレのところですれ違い、飛び去って行った。風圧でバイクごと体が空中に吸い上げられそうになる。ハンドルにしがみつき、膝で燃料タンクを挟み込んでいなかったら本当に舞い上がっていたかもしれない。あまりの離れワザ、死を覚悟する暇さえなかった。向こうも衝突では自殺行為、でもバイクに当てるつもりはなかったにしても、度が過ぎるアクロバティックな接近遭遇サービスに、ションベンをチビったかと思うほどだった。ん~、まだこれでも言い足りない。他にどう形容しようか。大げさかも知れないが、すれ違いの瞬間、身を屈めていなかったら、今ごろはこの灼熱の道路に自分の首が転がっていただろうに。その首から覗いた路面の大気の歪みを想像してしまった。『さすがオーストラリア、やっぱりオーストラリア。』この頃では呆れるほど自分の理解の範囲を越える出来事があると、この言葉で済ませる事にしている。

コメント

コメントを書く

「エッセイ」の人気作品

書籍化作品