オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅
第21話:人間、おごるべからず
11月16日 晴 503キロ
→alicesprings(YHA)
エアーズロックの頂上からご来光を拝むべく早朝まだ暗いうちに、テントから這い出した。夜明け前の空は空気が澄んで美しいというが、周りに明かりのない砂漠のど真ん中での夜空は、宇宙が透けて見える気がした。天空一面に大小さまざまな星がまるでウィンクでもするかのように光りを強弱させて輝いていた。星は一定の明るさで輝くのでなく、キラキラ輝くものだと改めて知った。子供の時は知っていたのに、大人になり忘れてしまっていた。真上を見上げると、まるでさっと砂糖をこぼしたようにミルキーウェイ(天の川)が舞っていた。北北東の低いところで青白くひと際輝いている星は金星だろうか。中でもオリオン座とサザンクロス(南十字星)が一段と明るく瞬き、その存在を知らしめた。この星々の輝きは僕が生まれる前、いや人類がこの地球上に生まれる前のそれかも知れないと考えると、僕という人間の存在自体がそれこそほんのちっぽけな星のかけらに思えてくる。宇宙は光も当たらない闇の向こうからずっと透き通り、そのリンパなる澄み切った大気が僕の体を撫で上げる。僕は今存在しない無の宇宙。
のんびり浸っている間もなく、エアーズロックの麓までバイクを走らせた。改めてそのとてつもない大きさにびっくりしてしまう。大きさという表現が正しいのか。夜明け前の星空にシルエットとなり浮かび上がる暗黒の岩山には、昨夕の赤い血潮のイメージなど微塵もない。ただ圧倒的な自然のもつエネルギーが全身にのしかかってくる気がし、そのパワーに恐怖心さえも奮い立つほどであった。
登り口は1箇所しかなく、岩に打ちつけられた鎖なしでは到底登れない急斜面がいきなり待ちうけていた。かと思うと反対に緩やかな下り坂にも遭遇する。風が強く、過去に強風に煽られ、岩には捕まるところもなく転げ落ち、命を落としてしまった例もらしい。山ではない岩をである、それを約1時間かけて登りきると、頂上を示すプレートが立っていた。この地上350メーターの一枚岩からは、同じ地平線ではあっても、地上で見るのとはまたひと味ちがう日の出を拝むことができた。天空に舞う風は、まるで箒で掃くようにして、星々を払い落としてゆく。それは夜明けが近づいた合図となる。視線は上空から赤みを帯びだす地平線に移る。朝陽が地平線に小さな点を置いた瞬間、朝の光が触手となって四方八方にワッと這い出し、遮るもののない平野を突き刺すようにこの一枚岩まで到達する。その神々しい絞り立ての朝陽が自分の身体に降り注がれると、ほのかな熱を感じた。僕はやっぱり日本人、思わず手を合わしてしまった。持参した缶ビールをグビっとやり、足元にも振りかけてやった。格別の一杯がここにあり。知っていますか。太陽は動くんです。俺は太陽系第四惑星に住む地球人。別に僕は酔っていない。でも、こんな感覚もありかも。そして、あらためて認識するはるか彼方地平線まで続く不毛の原野、きっとその先にもアウトバックはあるはずだ。
下山後、水と携帯食を詰め込んだリュックを持って、エアーズロックから約30キロ離れたマウントオルガに向かった。とかく一枚岩のエアーズロックが脚光を浴びがちだが、いくつものの巨大岩山群からなるマウントオルガもエアーズロックに勝らずとも劣らない雄大さを持っている。こちらは登るのではなく、入り組んだ谷をトレッキングする。それがこのマウントオルガの楽しみ方。通称『風の谷』へのトレイルは岩盤の谷間を深く突き進みこと、裕に片道一時間以上の道のりとなっている。冒険家気分で味わうにはもってこいの場所であった。でも調子に乗って、トレイルを外れ、勝手に道無き道に行くと、その雄大さゆえにすぐに迷子になって帰れなくなると聞く。大げさなようだが、日本の観光地の遊歩道のように整備もされてなく(というか全く自然のまま)、実際には観光地ではなく誰とも出くわすこともなくため、トレイルを逸れようなんて、小心者の僕にはできなかった。命あってのモノ種だから。自然は本当に偉大な存在である。それに比べりゃ、人間なんてハナクソほどの存在に過ぎない。冒険家とは小心者であってよい。そうでなければ、ただ無謀なだけだ。果敢な挑戦とは、実は十分な下準備・勝算があってこそトライすべきで、そうでなければ、ただ無謀にすぎず、冒険ではない。いろいろ体験してみるとよくわかってくる。
→alicesprings(YHA)
エアーズロックの頂上からご来光を拝むべく早朝まだ暗いうちに、テントから這い出した。夜明け前の空は空気が澄んで美しいというが、周りに明かりのない砂漠のど真ん中での夜空は、宇宙が透けて見える気がした。天空一面に大小さまざまな星がまるでウィンクでもするかのように光りを強弱させて輝いていた。星は一定の明るさで輝くのでなく、キラキラ輝くものだと改めて知った。子供の時は知っていたのに、大人になり忘れてしまっていた。真上を見上げると、まるでさっと砂糖をこぼしたようにミルキーウェイ(天の川)が舞っていた。北北東の低いところで青白くひと際輝いている星は金星だろうか。中でもオリオン座とサザンクロス(南十字星)が一段と明るく瞬き、その存在を知らしめた。この星々の輝きは僕が生まれる前、いや人類がこの地球上に生まれる前のそれかも知れないと考えると、僕という人間の存在自体がそれこそほんのちっぽけな星のかけらに思えてくる。宇宙は光も当たらない闇の向こうからずっと透き通り、そのリンパなる澄み切った大気が僕の体を撫で上げる。僕は今存在しない無の宇宙。
のんびり浸っている間もなく、エアーズロックの麓までバイクを走らせた。改めてそのとてつもない大きさにびっくりしてしまう。大きさという表現が正しいのか。夜明け前の星空にシルエットとなり浮かび上がる暗黒の岩山には、昨夕の赤い血潮のイメージなど微塵もない。ただ圧倒的な自然のもつエネルギーが全身にのしかかってくる気がし、そのパワーに恐怖心さえも奮い立つほどであった。
登り口は1箇所しかなく、岩に打ちつけられた鎖なしでは到底登れない急斜面がいきなり待ちうけていた。かと思うと反対に緩やかな下り坂にも遭遇する。風が強く、過去に強風に煽られ、岩には捕まるところもなく転げ落ち、命を落としてしまった例もらしい。山ではない岩をである、それを約1時間かけて登りきると、頂上を示すプレートが立っていた。この地上350メーターの一枚岩からは、同じ地平線ではあっても、地上で見るのとはまたひと味ちがう日の出を拝むことができた。天空に舞う風は、まるで箒で掃くようにして、星々を払い落としてゆく。それは夜明けが近づいた合図となる。視線は上空から赤みを帯びだす地平線に移る。朝陽が地平線に小さな点を置いた瞬間、朝の光が触手となって四方八方にワッと這い出し、遮るもののない平野を突き刺すようにこの一枚岩まで到達する。その神々しい絞り立ての朝陽が自分の身体に降り注がれると、ほのかな熱を感じた。僕はやっぱり日本人、思わず手を合わしてしまった。持参した缶ビールをグビっとやり、足元にも振りかけてやった。格別の一杯がここにあり。知っていますか。太陽は動くんです。俺は太陽系第四惑星に住む地球人。別に僕は酔っていない。でも、こんな感覚もありかも。そして、あらためて認識するはるか彼方地平線まで続く不毛の原野、きっとその先にもアウトバックはあるはずだ。
下山後、水と携帯食を詰め込んだリュックを持って、エアーズロックから約30キロ離れたマウントオルガに向かった。とかく一枚岩のエアーズロックが脚光を浴びがちだが、いくつものの巨大岩山群からなるマウントオルガもエアーズロックに勝らずとも劣らない雄大さを持っている。こちらは登るのではなく、入り組んだ谷をトレッキングする。それがこのマウントオルガの楽しみ方。通称『風の谷』へのトレイルは岩盤の谷間を深く突き進みこと、裕に片道一時間以上の道のりとなっている。冒険家気分で味わうにはもってこいの場所であった。でも調子に乗って、トレイルを外れ、勝手に道無き道に行くと、その雄大さゆえにすぐに迷子になって帰れなくなると聞く。大げさなようだが、日本の観光地の遊歩道のように整備もされてなく(というか全く自然のまま)、実際には観光地ではなく誰とも出くわすこともなくため、トレイルを逸れようなんて、小心者の僕にはできなかった。命あってのモノ種だから。自然は本当に偉大な存在である。それに比べりゃ、人間なんてハナクソほどの存在に過ぎない。冒険家とは小心者であってよい。そうでなければ、ただ無謀なだけだ。果敢な挑戦とは、実は十分な下準備・勝算があってこそトライすべきで、そうでなければ、ただ無謀にすぎず、冒険ではない。いろいろ体験してみるとよくわかってくる。
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