オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第18話:オアシス出現

11月14日 晴 515キロ
→Arice springs(YH)
毎日朝からうんざりするほどの暑さで始まる。日本のように湿気がないからまだマシだ、なんてことはない。日本の方がよっぽど住みよい。でも、ここに人は住んでいる。信じられるか。
走れど走れど変わり映えのない景色。こちらもうんざり途方もない。何もないから、バイクから降りることもない。だからケツもいいかげん痛くなってくる。喉の乾きは相変わらずいくら水を飲んでも癒されない。ああ、どこかにオアシスはないものか。叫んだ声がバイクの音に空しくかき消された。道中立ち寄ったロードハウスで、堪らずビールを飲んだ。面白いことに、ここら辺りのガソリンスタンドでは必ずパブが併設されている。いや、どちらかと言えば、パブのついでにガソリンスタンドがくっついている感じだった。公然とした飲酒運転推進店舗それがロードハウス。内地ではスタンド兼パブは、むしろ健全な社交場の役割を果たしていた。まわりに人家など見当たらないのに、パブは、家族連れで昼間から結構にぎわっていた。オヤジは賭けビリヤード、母親がカウンターでビールをあおっていた。そのとなりで、子供がフライドポテトを食べ、手に付いたケチャップにまみれた指を舐めまわしていた。僕も飲まないかといけないかのように2杯あおり、勢いでビリヤードに参戦。一勝一敗、快く1杯オヤジに振舞い、オヤジにもう一杯おごってもらう。一期一会、旅はやっぱりいいかもしれない。他愛もない人々とのふれあいに、他ではない快感をその度に覚えた。それでもって、酔き帯運転。多少酔っ払っていても、アルコールは瞬く間に汗となって蒸発してしまうから、むしろ砂漠での飲酒は健康的かもしれない。
はたまた単調な景色が続いたが、デビルス・マーブルスというところでバイクを止めた。直訳すると、『悪魔のおはじき遊び』。地名どおり、この奇怪な場所をどう表現すればいいのだろうか。平らな岩盤の上に置かれた家ほどもある巨大岩石。で、驚くことにその巨石はなんと丸い形をしている。だから、下の岩盤との接地面は、面でなく点なのだ。押せば転がってもおかしくない。でも余りにも巨石のため、人の非力ではビクともしない。かといって、砂漠では数少ない日陰である岩石の影で昼寝なんて、自殺行為にしか思えない。科学的には火山岩の侵食でできたされているが、目の当たりにすると、それは人の理解の限界を超えたおり、火山岩というより悪魔のおはじきに思えてくる。ほんと自然の力には度肝を抜かれるばかりだった。
オーストラリア大陸の中心部、砂漠のド真ん中であり、その不毛の土地に突如として現われる町オアシス、アリススプリングス。なんで、こんなこんな土地に人が住みついたか、摩訶不思議だった。よりによって・・・、ここじゃなくてもいいだろぉ。でも、そこは確かにオアシスだった。この町に着たら、決めていたことがひとつあった。クーラーのある部屋で寝ること。夢の中まで見た夢だった。早速、クーラー付きの安宿を探し、潜り込む。割り当てられた部屋(自分で選択したのだが)は、4人部屋のドミトリーであった。でも小奇麗で、何よりクーラーがガンガン効いていた。このユースホステルに決めた理由は他にもあった。驚くなかれ、そこにはなんとプールがあったのだ。まずはまだ陽のあるうちに貯め込んだ洗濯モノを足早にやっつけ、待ちに待ったプールに飛び込んだ。水に身体を浮かべるとは、こんな気持ちのいいものなのか。仰向けで水に身を任せて浮かんでいると、見上げた大空には雲がぷっかり浮遊していた。そうしていると僕の体と雲が同調しあい、無時空の時に流される。果たして自分と雲どちらが移動しているのだろうか、わからなくなってくる。しばし体は平衡感覚を失い、ぼくは水と空の青い世界に自ら心を委ねた。そこには自分させもいなかった。
そうこうしていると、みるみる身体中の細胞に精気がよみがえってくるのを感じた。いかに今まで自分の身体が暑さに参っていたかよくわかる。砂漠の真ん中でプールに浸かる。全く想定外、目の前に突如現れた恵みの都アリススプリングス、これをオアシスと呼ばなくて、なんと呼ぶのか。世界中の人間が「水の都はベニスだ」と言ようとも、僕はここだと断言する。
驚きはまだ続く。信じられないことに、プールから上がり、洗濯モノを見ると、なんともう既に乾いていたのだ。いくら炎天下とは言え、その砂漠の速乾力には目を剥いてしまう。どれほど凄いかと言えば、コインランドリーでいっしょに洗濯をやり終えて、乾燥機につっこんであったお隣りさんのそれは、まだ機械がまわり続けていたことからも窺える。やはり恐るべし砂漠のオアシス、『アルススプリングス』。

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