オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第13話:アウトバックへの初陣

11月11日 晴 619km
→Gordonvale→Atherton→Ravenshoe→the Lynd(roadhouse)→Bluewater(roadhouse)→Charters towers(CP)
いよいよ、アウトバック(内陸)への旅の第1日目だ。旅行モードから、冒険モードにスイッチする。今までの海岸線は何だかんだ言っても観光気分にさせられるものが何かとあったが、今日からは様子も一変する。初めてとあって、生命維持のため、事前にガソリンと水は、次の町までの距離を見越して予備容器に入れて携帯した。大げさなようだが、次のめぼしい町までは何百キロも先である。その間、無給油となる。日本ではとても考えられない。バイクを道に止める。ただの分かれ道、それが内陸への岐路というだけで、ひとり強がり武者震いをおぼえた。素直にそれは、今まで経験したこともない領域に、たった一人で踏み入ろうとする怯え・恐れだったのかもしれない。
人が手をつけていないむき出しの自然。木立の低いブッシュの中の一本道を走りに走った。ある時から辺りは、自然発火でブッシュが焼けただれ、樹木が炭化した黒い地上が広がる世界となる。すれ違う車も極端に減り、いや今では皆無に等しいくらいだ。海岸沿いでは経験したことのない尋常な暑さ。全てが想像を絶していた。単車を止め、一息付く。単車のエンジンを切ると、耳にする音もなくなった。リュックから取りだした水筒は、想像以上のキツい日差しと気温によりお湯と化している。それは喉を通ると音を立てて、胃に流れ落ちる。旨い!という場面だが、実際は程遠い。体が水分を要求するから、ただ口から注入するという行為にすぎない。それがスポンジを通したように、汗となって瞬く間に肌からあふれてきた。
どれほどアウトバックには何もないか。オーストラリア全土地図上のアウトバックの処々に『ロードハウス』と英語で記されている。日本語でいう高速道路のサービスエリアぐらいを想像して、何もない未舗装道路をひたすら走り、その場所に行ってみると、鄙びたガソリンスタンドに小さなレストランがくっついた民家だ1件あるだけといった具合だ。その民家の名前がオーストラリア全土地図に載っている。ただ、そういった所だからこそ、全土地図にはなくてはならない標しなのかもしれない。
炎天下、しばし沈黙。空と大地。自然・自然・自然。自然とはこんなに動かないものなのか。決してそこには、バイオレンス映画お得意の身に迫るような危険など、どこにもない。でも、確実に恐怖が感じられる。先知れない心細さ。一人になる心細さ、一人で始めた心細さ、一人で解決しなければならない心細さ。全てが現実だった。自分以外の感情に値するものはどこにも感じられない。唯一自分の孤独だけが支配できる世界。自然。
そして、単車を再び走らせる。時に、道路のど真ん中にねそっべている牛に出くわす。もちろん、彼らも、そこが道路だとは知る由もない。牧場?、嘘だろ。家などどこにも見当たらない。それにあれじゃ、乳もでなけりゃ、食べるところもない。どこからきたのか。彼らにとれば、おれこそ、どこからきたのか。
夕刻。こうしてテントを張り、晩飯(米を固形スープとともに炊き、その上にシーチキンをぶっかけた常食。それでもごちそう)も食べ、沈む夕日の残り燈を明かりに、砂まみれになったノートにペンを走らせた。こうしていると、ただただ今日1日無事であったことに安堵のよろこびを感じる。とるに足らない幸せ、幸せなんて、本当はほんの些細なことの中に存在するものなのかもしれないかも。

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