第22話：転入

　大陸連合魔術学院に転入してから三カ月、平穏無事な日々だった。
　ロング伯爵との約束していた古代魔術皇国時代のワインを飲み比べするという話は、まだ果たされていない。
　学院からロング伯爵家に手紙が届くのに三カ月もかかるので、後一カ月は必要で、それから準備してロング伯爵が学院にやってくるのは早くても四カ月後だろう。
　嫌な事はできるだけ早く済ませてしまいたいのだが、相手がある事なのでこちらの都合通りには動いてくれない。

　それにロング伯爵を迎える準備は屋敷を任せた家臣達に一任してある。
　学院の城下町と呼べる都市内に売りに出ていた一番大きな屋敷を買ったのだ。
　元の持ち主は理事長だったベネディクトだ。
　よほどあくどく儲けていたのだろう、城下町では非常識な大きさだった。
　処分される前に裏金を三倍返しさせたから、維持できなくて売りに出していた。
　あまりに大きく高価だったので俺以外に買い取れる者がいなかったようだ。
　結局学院長に私財没収の上で追放されたから、どこかで野垂れ死にするだろう。

　それと城下町の城壁外に広大な土地を買った。
　学院城下町の西側には広大な魔境が広がっている。
　定期的に学院の執行導師達が魔獣を間引いているが、それでもいつ魔獣が学院を襲撃するか分からないので、日中以外は厳重に城門が閉じられている。
　狩りで日中に学院に戻れない可能性も考慮して、魔境の側に砦と呼べるような屋敷を建築させているのだ。

　自重する事なく魔力を使えば簡単に建築できるのだが、自分の手札はできるだけ隠しておいた方がいいと考えたので、城下町の建築職人に依頼した。
　物価は高いがとても安全な学院の城下町だ。
　仕事を求めて集まってくる人間も多ければ、学院で学ぶことを夢見て集まる若者も多く、城下町には常に仕事や食糧を求める貧民や苦学生がいた。

　彼らに仕事を与えて救済したいという気持ちもあって、建築職人には城のように頑強で大きな屋敷の建築を依頼した。
　それが思いがけない状況を作り出してしまった。
　自分がやった事の結果なので誰に文句を言う事もできないのだが、不本意であることに違いはない。
　何よりエラの機嫌が悪くなったことが重大な問題だった。

「ああ、実はノア殿とエラ嬢に折り入って相談があるのですが……」

「何事でございますか、導師殿」

　最初からエラは不機嫌モードだった。

「どうしてもこのクラスに転入したいという院生がいるのです。
　ノア殿が屋敷を建築している現場で親兄弟姉妹が働いているようで、そのお礼もかねて側近くで仕えたいという事なのですよ。
　学院としては学院生が他の学院生に仕えるというのは不本意なのですが、優秀な学院生が授業料を払えなくて退院するのを見過ごしにもできないので……」