帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

第七話 物資


 マイが感謝する気持ちは解る。
 解るが、これは、”俺が”連れて行きたいだけなので、感謝されると心がざわざわする。

「そうだ。マイ。必要な物資は?」

 元々確認をしておきたかった内容に話を戻す。

「そうね。その前に、ユウキ。地球で何か必要になっていないの?持ち込むばかりで、セシリアが心配しているわ」

 マイが、少しだけ笑いながら俺に話を合わせてくれる。

「心配?」

 ”心配”と言われても、俺たちは”別に構わない”が答えになってしまう。
 地球での買い物も、それほど高い物ではない。

 サトシの買い物は、サトシの報酬から支払っている。セシリアが気にするような部類ではない。個人で依頼をして購入している物が殆どで、持ち込んでいる物は些細な物が多いと思っていた。

「そう。セシリアだけじゃないけど、主にセシリアだね」

 ”主に”というからには、国家として心配しているのだろう。
 マイは、俺が言っていることが解っているので、事情の説明をしているのだろう。それでも、”心配”しているのには、何か理由がありそうだ。

「マイ。持ち込んでいるのは、殆どが、残留組が個人的に欲しいと言ったものじゃないのか?セシリアが心配する理由が解らない」

 残留組が欲しいと言った物でも、レナートの為に欲しいと言った物がある。
 区別が面倒なので、一人を除いた皆で話し合って、個人で注文をした場合には、地球での報酬を使う。レナートに還元した場合には、サトシに付け替えることにした。物価が違う上に、物品の価値が違いすぎる。

 マイが困った時に行う。髪の毛を指に絡める癖をみせる。わざとやっている説もあるが、自然な状況なので、誰も突っ込んでいない。

 困ったときの表情にもなっているので、実際に困っているのだろう。

「この前、サトシが100均でマッチを大量に購入してきて、城下で配ったの」

 配った?
 無償で?

「あの馬鹿・・・」

 それも、マッチ?
 最悪だ。

「マイ。マッチは回収したのか?」

 首を横に振る。
 フィファーナには、火薬は既に存在している。しかし、質はよくない。

「幸いなことに、サトシの事を知っている人たちだけに配ったみたいで、”勇者”から施しだと考えて、外には出ていないと思う。一応、セシリアにお願いして、サトシから渡された物は、レナート以外に持ち出さないようにおふれを出してもらった」

 外部から着ている商人が居ないことを祈ろう。
 レナートが辺境でよかった。最悪は、国境を封鎖してしまえばいい。マイがそこまでしていないのは、サトシが配った先に、商人や商人に繋がる者が居なかったのだろう。

「そうか・・・。他の勇者たちが見ても、俺たちがマッチを作ったと思わせればいいか?」

「そうね。その意味では、マッチの作り方を調べてもらえる?」

「わかった」

 また、ネットで調べて、情報をまとめるか?
 マッチの作り方とか、調べられるのか?

 サトシは、本当に面倒を発生させるのが上手い。サトシだからと許されてしまうのが、奴らしいけど、国王になるのなら、しっかりと手綱を握らないとダメだろう。マイとセシリアに期待しよう。
 これは、宰相への就任は絶対に回避しなければならない。サトシのお守りは嫌だ。

「異世界の技術で作られた物だと説明したら、問題にはならなかったけど・・・。他にも、いろいろ持ち込んでいるでしょ?セシリアは、ユウキたちが購入して送ってきてくれるから・・・」

 技術はこれから教えるって設定だな。
 物はお試しって感じなら問題にはならない。

 マッチはやっぱりダメだよな。
 国民の生活が楽になる。辺境の国として、マッチがあれば毎日の火起こしが楽になる。サトシも、誰かに言われて楽になる物を考えたのだろう。方向が間違っていないのが、奴の大きな問題だ。

 もう少しだけ原始的な道具なら、浸透させても問題はないだろう。
 他の面子が苦労して、段階を上げているのに・・・。まぁマッチを持ち込んだだけで終わってくれて良かった。

 ライターとかを持ち込まれるよりはよかった。
 ライターだと、火のスキルと何も変わらない。適性が無くても仕えるスキルだ。問題が大きくなってしまう。異世界の技術だと言っても納得する人は、一定以上の知識がある人たちだけだ。

 セシリアとしては、購入された物を送ってきていると思っているのか?
 間違っていないが、以前に説明したと思うのだけど・・・。

 貰うばかりだと考えてしまっているのだな。
 購入するにしても、俺たちが商売を始めたら、レナートの通貨を集めてしまう。だから、商売はしないと決めている。他の国になら、商品を安価で卸して、経済戦争を吹っ掛けることも考えるが、面倒なので行っていない。

「対価をどうしたらいいのか?という話か?」

 セシリアなら、俺たちへの支払いを考えるだろう。
 もっと言えば、商品に対する”対価”だな。

「簡単にいうとね」

 マイが肩をすくめるようにして、俺の話を肯定する。

 それで、”地球”で必要な物に繋がるのだな。
 地球にない物で、レナートにある物?

 ミスリルや魔物なのだろうけど、持っていく意味が殆どない。

「それは、難しいな」

 マイも気が付いているだろう。
 地球で必要とする物は、レナートには多い。多いけど、持っていくことができない。スキルや魔物に依存している。

「解っている。わかっているけど、このままでいいとは思っていないわよね?」

 マイの言う通りだ。
 残留組の実験結果が出てきたら、地球からの技術を輸入する。

 そうか!
 骨董品!

「マイ。輸入できる物がある」

「何?」

「骨董品!あと、芸術品だな。地球から、石膏を持ち込んで、こっちで作って、地球で売る」

 レナートで古くから使っている物は、骨董品としての価値を付ける。
 石膏で作った物は、適当な名前での芸術作品だ。絵画でもいいが、いろいろ面倒になりそうなので、造形物がいいだろう。

「え?骨董品?芸術品?」

 値段がある物を売買しようとするから問題になる。
 レナートで適当に価値がある物だと言って、地球に持ち込んで、売りさばくことにする。その時に、値段が等価になるように設定すればいいだけだ。税金の問題はあるだろうけど、それは、諸外国にできた伝手を頼ればいいだろう。何も、日本で完結させる必要はない。

 地球とレナート。もっと言えば、地球とフィファーナとの貿易だと考えればいい。

「そうだ。値段なんて、あってないような物だろう?適当な値段を付ければいい。地球では、森田さん辺りに、サイトを作ってもらって、通販でもするよ」

「大丈夫なの?」

 大丈夫?
 そうか、弱みを奴らに見せられない。法律に反していることを含めて・・・。表に見えるだけではなく、証拠になるような物を残さないほうがいい。

 潰してから行えばいいだろう。
 セシリアが心配しているようなことも、数年後に問題が発生する”可能性”があるだけだ。殆どが、”気持ち”の問題だ。

 だから、対処をしないわけではなく、”すぐに対処を行う必要がない”という対応が取れる。

「どうだろう?海外の適当な国を通せば大丈夫だろう?実際に、稼働させるにしても、俺の用事が終わってからになると思う。技術の確立にも時間が必要だろう?」

 この辺りは、森下さんとかに聞けば考えてくれるかな?

 なんとかなりそうな感じはするけど、日本の法律を熟知しているわけではない。読んだ本で得た知識だ。正しいとは限らない。それも、もっといい方法を教えてもらえる可能性だってある。取引材料は、いろいろと用意しなければならないけど、何とかなりそうだと解れば、動き出せる。

「わかった。その方向で、セシリアと話をしてみる」

 レナート側は大きな問題にはならない。
 最悪の場合でも、レナートから持ち出した貨幣を戻してしまえばいい。

「頼む。そうだ。それとは別に、ポーションの材料を頼む。あと、同じ物で・・・」

 マイは、俺が頼んだ物をメモしてから、部屋を出た。
 遠くで、マイを呼んでいる声が聞こえたからだ。声から、サトシだと解る。同時に、いろいろな声が混じっている事から、何かをしでかしたのだろう。

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