最期の夏休み

ふぐすけ

最期の夏休み

「さてここに、ムーのバックナンバーがあります」
夏休みのある日、学校にほど近いファミレス。
楓は席につくや鞄からムーを取り出し、テーブルに置いた。10ヶ月ほど前、去年の秋の号だ。表紙には『タイムトラベラーの大予言・第三次世界大戦は近い!』とある。
「で?去年のムーと私になんの関係があんのよ」
「ブックオフで見かけて買ったんだよねコレ。タイムトラベラーの予言の答え合わせをしたかったんだけど一人でやっても味気ないじゃん?」
「それはそうだとしても、なんで私なのかってことを聞いてんの!」
「えっ、麻衣以外の子の貴重な夏休みをこんなことで消費させちゃうのはもったいないじゃない」
「私の夏休みが貴重じゃないみたいな言い方だなあ!」
「だって麻衣、呼び出さないと永久に家にこもってFPSやってんじゃん。JKにあるまじき悪態をつきながら。それに比べればよほど有意義な夏休みの使い方だと思うけど?」
「うっ……」
正直、ぐうの音も出ない。夏休みなのをいいことに毎日午前の三時とか四時までランクマッチに籠もっているのは完全に事実だし、そもそも家から出たの自体4日ぶりなのだ。
「うん、わかった、私の負けだ。話を聞くよ」
「やったぁ!じゃ、さっそく」
「まあ待て、まずドリンクバーだ」


「で、タイムトラベラーの予言って言ったっけ?」
カルピスを注いだコップを置きながら、楓に問いかける。
楓は謎ミックス飲料を一息で飲み干すと、表情をピクリともさせずに「うん」と答えた。
楓はムーを開いて、ある行を指差した。
「ここなんだけど」
「いや読めんが」
当然ながら、対面に座っている私にすればめちゃくちゃ読みにくい。
楓は数秒考えたような顔をすると、立ち上がって私の側に移動してきた。別に構わないけど、「そっち側行くわ」くらい言ってくれよびっくりするだろ。
楓は再びムーを開き、先程と同じところを指差した。
2019年夏、某国が日本に向かって多数の核ミサイルを撃ち、第三次世界大戦が始まる。という話が2040年代から来たタイムトラベラーの談として載っている。
「2019年夏ってことは、まさに今じゃん」
「そう。で、このミサイルのせいで日本の人口が1億を割ったって書いてあるね」
「そんなの、マジでおきたら2000万人死んでるってことじゃん?そんなことして某国に何の得があるよ。よくわかんないけど国際的にも孤立するんじゃないの?」
「さあね。将軍様のことだから何するかは本当にわかんないよ」
楓がそういった瞬間、ファミレスの店内がにわかに騒がしくなった。客全員のスマホから警報音が鳴り響く。もちろん、私や楓のからも。
「楓、この音って!」
「うん、Jアラート!弾道ミサイル警報!」
他の客は「ああ、またか」くらいにしか思っていないような表情だけど、私達は違った。今の今まであんな話をしていたから、やたら敏感になる。
慌ててスマートフォンを操作し、詳細情報を見る。
警報地域、日本全土。ミサイルは通過ではなく、着弾するという表示。
「えっ……マジ?」
「予言、マジだった系?」
二人で顔を見合わせた次の瞬間、世界は閃光に包まれた。

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